39 メロウは暗躍する
俺はシシアと離婚するつもりは更々ない。
おそらくシシアは契約破棄は離婚に直結すると思っているだろうが、それは大きな間違いだ。
俺の狙いは契約に含まれる最愛の儀を行わないと言う部分の無効化。
最愛の儀を行えば正真正銘の夫婦と認められる。その為にはまずは外堀を埋め、シシアの気持ちを俺から離れさせないようにしなくては……。
それにしても、自分が月下の乙女だと全く思っていないところがまたなんと言うか、愛らしくて憎らしい。
ここ数日、観察して分かったが、彼女はとにかく押しに弱い。
最初は拒否を口にするも、何度も頼み込めば断らない。性格的に断れないのだろう。
俺をメロウと呼ぶことも最初はずっと恥ずかしそうにしていたけれど、一度了承すると必ずそれを続け様と頑張る姿勢はなんとも健気。
今の契約にある精霊にするというのも浄化の為と押し切れば毎日必ずキスするのを守ろうする。
(あんな契約、月に1回のキスでも全然大丈夫なのだが……。)
嘘八百の契約すら律儀に守ろうとする。
この前も公務が終わらず執務室に篭っていたら、夜にもじもじと部屋にシシアがやって来た。
「どうした?」
「今日の分をその……」
「ああ、キスか。」
シシアは恥ずかしそうに頬を赤く染め、頷いた。
(今日は大丈夫だと言ったはずだったが、)
「その、クレハ様が、執務室に行った方がいいと……」
なるほど、姉の協力か。
ならば活かさないと。うちの宰相様は有能で困る。
ただ……
「……その服で着たのか?」
「はい。ダメだったでしょうか?」
黒いネグリジェの上に厚めのショールを羽織っただけの姿。
「クレハ様から頂きたのでせっかくならと思ったのですが、」
「………ここに来るまでに誰かと会ったか?」
「ザリール様に会いました。」
後であいつの記憶を消して置かなければ。俺のシイナの肌を見るなんて、幾ら幼馴染でも許しがたい。
「…………メロウ、様?」
「とりあえず入れ。」
ああ、この鈍感なところも可愛いがもう少し危機感を持って欲しい。
「今、紅茶を淹れる。ソファに腰掛けていてくれ。」
「いえ、公務の邪魔になってはいけませんからすぐに戻ります。」
「いいや、大丈夫だ。」
このソファにちょこんと姿勢正しく座る小さく弱い生き物に、毎日自分の一部を注いでいると思うと興奮を覚える。
今すぐにベッドに押し倒し、溶かしてやりたいが今はまだ、健気に俺の唾液を飲み込む事を恥じらっている姿で我慢するとしよう。
(早くシシアの背に生える羽根が見たいものだ。)
因みに、毎晩のキスをする前に飲ませている紅茶には魔力の吸収を早める薬を混ぜ込んでいるのは、誰も知らない俺だけの秘密……。
「ほら。身体が冷えただろう。残さず飲めよ。」
「あ、ありがとうございます。」
――ゴクン……。
(本当は錠剤のまま直接飲ませるのが早いんだけどなぁー……。)
まぁ、いい。
こんな時間もまだ、楽しめる。
精霊国内には、俺がシシアを愛していると噂を流しておいたから手を出してくる輩はそういないだろうしな。
あとは人間、獣人。
和平パーティーはそれを見せつける格好の場だ。
そう、思っていたのに…….。
ドレスを纏ったシシアはあまりにも美しかった。
息を呑むほどの美女。
元のシシアも美しかったが、派手なドレスと濃い化粧をしていた為、毒花と印象が強かった。シイナはそれらを好まない。それ故に素材本来の美しさが際立つ結果となった。
(まさに傾国の美女。)
一眼見て和平パーティーに出席させると言ったのを取り消したい気持ちになった。
(これでは余計に虫が沸く。)
今すぐにでも俺だけの鳥籠に閉じ込めてしまおうか、俺がこんなドロドロの感情に蝕まれているのに、
「皆はメロウ様を見ているんです。」
なんて言ってのけるのだから、本当に笑えない。
和平パーティーであからさまに一人目立っているのはシシアだと言うのに、全く気が付かない。
元々は傲慢で勝手に嫁いだシシアを笑い者にするつもりで集まった貴族連中は、あまりの別人ぶりに驚愕と憧れを抱く視線でシシアを見ている。
さっきからダンスに誘おうと男どもが浮き足だってこちらを伺っているのに。終いには、
「メロウ様、私はここで休んでおりますから構わず踊って来てください。」
平然と言いやがった。
流石に怒りを覚えるぞ。
これは本当に無意識か?
それとも相引きを考えている男がいるのではないか?
だったら離婚したいと言うのも頷ける。
このパーティーで会う予定だったのか?
だからあれほど必死でパーティーの準備をしていたのでは?
(一体、そのクソ野郎はどいつだ?)
絶対に許さない。
俺からシシアを奪おうなんて、消し炭にしてくれる。
(シシアは俺のモノだ。)
他の事は幾らでもしてやるし尽くす。でもな、俺から離れる事だけは許さない。
あいつか?
それともそっちのゲスい目でお前を見えるハゲか?
まぁ……、どちらも消せばいいか。
「おやめ下さい!」
翳した腕に必死で抱きつくシシアに殺意が湧く。
そんなにも男を守りたいのか?
俺じゃなくて?
「……そんなにあの男を守りたかったのか?」
「そうじゃありません。ここは和平パーティー会場ですよ。こんなところで魔法なんて使ったら二国間にヒビが入ってしまいますっ!」
ああ、そんな言い訳をしていたな。
実のところ、この和平パーティーは人間国が精霊国の顔色を窺う為のもの。優位なのは我ら精霊側だ。
表向きは二国は手を繋ぎ合っているが実のところ精霊国はいつだってアーティファクトの輸出を辞められる。浄化師だって人間国にいるより待遇よく扱っているおかげで移住してくる者が多い。
そしてシシアの存在が大きい。
クレハに送った浄化の魔石。あれさえ大量に生産できれば我ら精霊の悲願。穢れに侵されない国作りも夢でなくなった。
そんな訳で今回のパーティーへの参加はシシアが俺のモノだとアピールするだけの為に出席した。
ただ、それだけの為に……。
「お前も俺に見惚れているか?」
「ええ、もちろん。この会場で一番美しいのは間違いなくメロウ様です。」
聞いたか?
愚民ども。この女は俺のだ。
触るんじゃねぇぞ。
シシアには見えないように周りに魔力の圧力を放つ。
これで虫は駆除出来ただろう。
「精霊国の信用を貶めるような事は決してしないと誓います。」
本人だけが全く気が付いてないのは悔やまれる。
帰ったらもう少し攻めてみるか……。
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