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37 シャルと追手の攻防戦 2

 合図と同時に二人は違う方向に走り出す。


 シャルは真っ直ぐ王城へ。

 私は追手に向かって。


 途中、わざと木々を揺らし音を立てながら走った。案の定、追手はこちらに気が付いて私を追ってくる。


(あともう少し、シャルが逃げ切るまでは時間を稼がないと。)


 どうせシシアが全力を尽くして走っても、そう遠くへは逃げられない。更に残念なのが、庭園と言っても地面は整備されたコンクリートなんてものはなく、石と砂利道だという事。

 ピンヒールを脱いで裸足で走るには余りにも過酷。


(シャルと別れたのは正解だった……。)


 足裏は既に激痛が走っていて、地面を踏み締めるのを恐怖してしまうほど。


 あと少し、あと少しだけ、と自分に鞭打ってなんとか走る。


「ハァー、ハァー、…………うぐっ!!」


 庭園を抜け、隣接する森に足を踏み入れた頃、唐突に右足に猛烈な激痛が走り立っていられなくなって転んでしまった。


「な、なに――っ!?」


 振り返ると右足首に短剣が刺さっていて、隙間からは生温かい血液が流れ出している。

 

 追ってが投げたものだろう。

 かなり深く刺さってしまっているようで、短剣に触るだけでもの凄い痛みが全身に駆け回る。これ以上は触るのは怖くて、抜くことすら出来ない。


 夜の森に灯りは一つもなく、木々が不気味に騒めく。ガサガサと風に揺らめく葉の音。そして、地面を蹴る足音。


「やっと捕まえたぞ。」


 数秒と待たずに複数人の人影が現れた。


 

(ここまでか……。)


 ゾロゾロと顔を隠した男どもが近づいてくる。

 残念ながらもう立ち上がる事すら出来ない。それでも目的は果たした。私にしては頑張って褒めてあげたいぐらいだ。


「残念だったわね、月下の乙女は王城に逃げたわよ。今頃、手厚い保護を受けているはずよ。」


 気丈に振る舞うけれど、右足首から血が流れて止まらない。


 痛くて痛くて、涙が出でしまう。

 全身が震える。それでもシャルを救えたんだ。

 

「あんた達は失敗したのよ。」


 シャルは無事に城内まで逃げられただろうか?

 どうか無事でいて欲しい。


「なにを勘違いしている?」

「え……?」

「俺達の狙いは最初からお前だ。シシア・フォンブール。」


 そういうと先頭に立った男がフードを脱いで正体を露わにした。


 (この男は――っ!)


 宵闇色の立て髪が風に靡く。

 赤い瞳が血に飢えた獣のように、月明かりに照らされた。


「久しぶりだなー、シシア。」


 口元から覗く犬歯。長い狼のような耳。

 背から見え隠れする太くフサフサの尻尾。

 私は、この男を知っているっ!


「う、嘘でしょ……。」

「おいおい、なんだよその反応は?」


 男は人間じゃない。精霊でもない。

 小説『精霊の愛し子』に出てくる第三の国の者。


「忘れたなんて言わねぇよなぁー。」

 

 獣人だ。

 そして――、シシアと共謀してシャルを我が物としようとした悪役の一人。


「俺は獣王国、第一王子。リュフェス・ガル・ウルフ。」


 貴方の出番はまたまだ先でしょう。というか、会うことはないと思っていた。


「ど、どうしてあんたがここにいるのよ!?」


 だってシャルに嫉妬したシシアが彼を呼び出した事がきっかけでリュフェスはシャルに興味を持ち、共謀する事になったんだ。


「相変わらずひでぇな。俺ぁ会いたかったんだぜ。ハニー。」


 私が連絡を取らない限り会う事はないと踏んでいた。正直、会いたくはなかった。

 

(この男は危険すぎる――。)

 

 鼻で笑うリュフェスは私よりも二つ年上で、アングラな雰囲気を醸している。


「わ、私は会いたくなかった……。」

「おいおい、元婚約者にひでぇー言い草だな。」


 そう。シシアが幼い頃に父親が決めた結婚相手こそ、目の前にいる獣人リュフェスだった。



「ずっと前に破談になったはずでしょ。」

「誰かさんのせいでな。」

「……。」


 婚約が破談になったのはもちろんシシアのせい。

 理由は、シンプル。


『顔が好みじゃない。』


 この一言が全て。

 確かにメロウ様と比べると見劣りするけど、リュフェスだって端正な顔をしている。メロウ様が美しいのなら、リュフェスは恐ろしいがかっこいいと言った印象を与える。


 宵闇色の髪は癖っ毛で、獣の毛皮のようにふわふわしていて、触ったら気持ちが良さそう。

 紅く吊り上がった瞳と口元から覗く犬歯のような牙は群れの長を象徴する凛々しさを放っていた。


「俺ぁ、こんなにもお前を見ていたって言うのに……。」


 そして漂う危ない香り。

 一部の層には圧倒的に人気が出そうな出立ちだ。


「冷たい女だなぁー。」


 小説に出てくる話だと、幼い頃は何度もお互いの家を行き来する仲だったとか。シシアが精霊を見下すようになったのは、彼の影響が大きいと私は思っている。


 それぐらい、精霊と獣人は仲が悪いのだ。


 小説で見た二人の幼少期の挿絵は愛らしかったのに、今や危険な香り振り撒く男になってしまうなんて。


 キャラクターとしては最高なんだけど、今はどうしてこんな危険な奴を登場させたのか、原作者が憎い。


「俺ぁ、シシアの簡単に靡かないところも案外気に入ってるんだぜ。」


 長い舌を出して不気味に笑うリュフェス。

 怖くて逃げたいのに、足がいうことを聞かない。なんとか両手を使って後退りするので精一杯だ。


「そう逃げんなよ。今のお前は罠に掛かった小鹿ちゃんだ。獣の牙には敵わねーよ。」


 ゆらゆらと私の足元にしゃがみ、刺さった短剣に触れた。脚からは激痛が走り、血がどんどん溢れ出す。


「かわいそぉーになぁー?」


 言葉とは裏腹に短剣を握ったリュフェスはそのまま勢いよく、更に深く短剣で私の足に刺し貫いた。

 


ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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