35 シャルとの対面
パーティーはつつがなく進んでいた。
一時、不憫な男性のタキシードが燃えるというハプニングがあったものの、魔法使いの魔力が誤って暴発したのだろうという話で落ち着いた。
(さて、そろそろ私も目的を果たさないといけない。)
貴賓の私達はほとんど椅子に座っていただけなのだけど、小説にはメロウ様がパーティーの終盤で抜け出したと書かれていた。
(もうそろそろだと思うのだけど……。)
こうなったら一か八か、メロウ様を出会いの場まで連れて行ってみようと思う。
「メロウ様、少し夜風に当たりに行きませんか?」
「ああ、いいぞ。我が妃の願いなら。」
メロウ様が私に甘い言葉をかけるたびに周囲がざわつくからやめて欲しいのだけど、これもニ国間の和平の為だ。
(耐えろ……、私。)
「では、行きましょ。」
メロウ様のエスコートで椅子から立ち上がったところで、見知らぬ男性の声が上がった。
「あの、陛下。少しお話が。」
どうやら精霊側の客人の様で、メロウ様が呼び止められてしまった。些かこれを断る事は出来ないと立ち止まったところで良いアイディアが降ってきた。
(これはチャンスかも……っ!)
「ではメロウ様、私は先に行っています。」
メロウ様の腕から自身の手をパッと離し、距離を取った。
「おい、待てっ!」
「城の庭園を抜けた先、一際大きな大木があります。そこに来て下さい。必ずですよ?」
これでメロウ様があの場所に行けば物語が始まるはず。私も木陰から見守ろうかしら、というか見たいっ!!
意気揚々と飛び出した会場から物語の冒頭のシーンを目指す。聖地巡礼をしているようで胸が躍った。
普通ならファンタジー小説の聖地巡礼なんて出来やしない。だって有りはしないもの。それが今、目の前に広がっていると言う事実。
(最高にドキドキするっ!)
「こ、ここだ……。」
城内からも見えるほど大きな大木を目指し庭園を抜けた先、少し小高くなった丘の上にそれはあった。
「木製で出来た古びたベンチ。」
メロウ様が苦しみに耐え、腰を下ろした二人掛けのベンチ。思っていたよりも遥かに古びていたけれど、ここから見上げる大木はとても雄大で、隙間から覗く星空が格別に綺麗だと感じた。
「二人の物語はここから始まったのね。」
冒頭のシーンを思い浮かべて思いを馳せる。仕事に疲れ、癒しを求めて手に取った本の中に広がる別世界。今、それが目の前に広がるなんて。
「なんだか、不思議…。」
このまま感動に浸っていたいけど、目的は他にある。私は急ぎ大木の近くに隠れられそうな茂みを発見し、身を隠した。
(………。)
身を隠して数分、シャルもメロウ様もまだ来ない。
シャルは来るわよね。
大丈夫よね……?
(小説で書かれていた大木はこれに間違いないはずだけど。)
不安が募る中、大木だけを見つめて待つ。
「あのー、こんなところでなにをしてるのですか?」
「ひゃいっ!?」
不意に後ろから声がした。
子猫の様な愛らしい声が、少し震えていた。
「あ、あああの、私はーーっ!?」
振り返ると後ろには一人の女性が立っていた。
月明かりに照らされる美しい白銀の髪、黄金色の瞳。
間違いない、ヒロインのシャルだっ!
「大丈夫ですか?」
メイド服に身を包み、涙を流した跡がある。虐めをうけて伯爵家から逃げて来たのだろう。彼女は習慣的にここで涙を流していたという設定がある。辛い状況なのに私の心配をしてくれるシャルはまさしく心優しいヒロイン。
「大丈夫です。大丈夫なんですがっ!!」
どうしよう。
私が先にヒロインと会ったらダメじゃない!
せっかくの計画がっ、私のせいで崩れてしまう。
「靴擦れでもしたのでしょうか?」
「ち、違います。私は……」
焦っていると更に後ろからガサガサと音がした。
メロウ様も来てしまったの!?
(これは、まずい――……)
「ごめんなさいっ!」
「キャッ……」
三人で鉢合わせたらせっかくの出会いのシーンが台無しだ。そう思ってでシャルの手を引き茂みの中に押し倒した。
「あ、あのー……」
「ごめんなさい。少しの間こうさせて下さい。」
「分かり、ました。」
シャルに馬乗りなる形で重なった。
メロウ様が大木のベンチへ行くまでここで隠れて、シャルには後から登場してもらおう。それまではなんとかシャルをこの場に……
「女神様、みたい……。」
寝転び私を見上げるシャルが何かを呟いた。
「どうかされましたか?」
「あの、女神様。お名前をお聞きしても良いですか?」
「ふふ。私は女神じゃないわ、シシアよ。」
「…………シシア様。」
女神様だなんて、悪女のシシアには勿体無い評価だ。女神というならシャルの方が近いだろうに。
「あの、こんな状況であれなのですが……。」
音がした茂みからはまだ誰も出てこない。
もしかして野犬かなにかだったのかも。そんな事を思っていたシャルから声を掛けられて視線が重なった。
「なんでしょうか?」
「よく頑張ったって言って貰えないでしょうか?」
「…………え?」
シャルをよく見ると、七分袖のメイド服から伸びる腕には打撲のような痕が幾つもあった。月明かりしかない暗がりでも、頬が少し赤らんでいるのが分かる。
それは、彼女が慢性的に暴力を振るわれている証。
「不躾なお願いって分かっているのですが、私。今日、凄く嫌な事があって……辛くって。」
腕で顔を覆い声を震わすシャル。
(そうよね、貴方はここに泣きに来たのだものね。)
これはそんな貴方が報われるお話。
幸せになれる。私が奪ってはいけないもの。
「良く頑張ったね。貴方の努力は必ず報われるわ。」
腕の隙間から腫れた頬を優しく撫でる。
「もう大丈夫よ。」
私に治癒の力があったら良かったのだけど、不甲斐なくて嫌になる。
「貴方は間違ってないし、絶対に幸せになれる。大丈夫だから心配しないで?」
「シシア、様っ……。」
小さく泣き声を漏らすシャルの姿に胸が痛くなった。頭を撫でて彼女の幸せを切に願う。
(シャルの傷は癒せない。でもせめて、彼女の辛い心を浄化してあげられたら……。)
そう思って、彼女の手触れた。
「シシア様……?」
触れ合った手から白い光が上がり、星屑の様に辺りに光が散らばった。
「…………綺麗。」
「今の私にはこれぐらいしか出来る事がないの。ごめんなさい。」
「とんでもないです、まるで……夢みたいです。」
互いに小さく笑い合った。
ここから始まる二人のラブストーリーを更に応援したい気持ちが強くなった。
(こうなったら意地でも二人をくってけて幸せにしてやるっ!)
そんな事を思っていると、二人の周りの茂みが一気に揺れた。
「見つけたぞ、月下の乙女。」
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底辺作家脱却を目指してます!!
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