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33 嵐の前の甘い時間 4

「シシア様、ポーラでございます。」

「ナリもおりますよーっ!」


 朝一で部屋の扉がノックされ、入って来たのはウキウキのナリとポーラだ。


「ポーラ、こんな朝早くからどうしたの?」

「どうしたのではありません。パーティーに向けてしっかり準備しないと。今日は私達に全てお任せ下さい。」


 ついに和平パーティー当日の朝を迎えた。

 メロウ様の甘々な攻撃に耐え、生温かい雰囲気にも耐えた。


 全ては今日、この日の為だ!


 私にとっては決戦の日でもある。

 昨日は意気込んでベッドに入ったからか中々眠れず、さっきようやく眠りに着いたばかりだというのに。


 窓から覗く景色はまだ白んだ空と鳥の囀りだけ。

 パーティーは夜なので昼から準備すればいいと思っていたのだけど、

 

「まだ明け方よ?」

「何言ってるんのですか。戦いはもう始まっているのです。このポーラ、腕によりを掛けてお仕上げさせて頂きます。」


 腕まくりし、やる気満々の二人。

 ここまでやる気に満ちた二人を眠いからと言う理由で部屋から追い出すなんて、私には出来ない。


「…………お願い、します。」


(私ってこんなに押しに弱かったけ?)


「ささ、頑張りますよ!」

「ナリもお手伝いいたしますーっ!」

 

 二人にされるがままになる事、数時間。

 それは極上のエステ体験だった。


「最ッ高~。」


 転生前に一度だけ、もらったクーポンでエステに行った事はあったけどこれは全くの別物だ。質が違い過ぎる。

 身体に溜まった不純物を全て取り去ってくれるような究極の癒し。毎日でもお願いしたいぐらい。


 心も体も溶かされ磨かれ、あれよあれよと準備が整っていった。


「これが、私……?」

 

 思わずアニメのセリフか、と言いたくなる言葉を吐くぐらい、仕上がりは最高の出来栄えだった。

 

 流石はポーラ。

 鏡に映るシシアは自身の美貌を最大限に引き出して輝いていた。


 ドレスはメロウ様の瞳と同じ深い海を思わせる藍色。

 今日はメロウ様と色合わせした衣装だ。

 二人が夫婦だと一眼で分かるように、という狙いがあってのことらしい。新婚の二人が愛し合っているように見せるにはこれが一番効果的なんだとか。


 少し戸惑いはあったけど、これを最後の記念にしようと心に決めた。


 それに藍色のドレスは私の要望で露出度を極限にまで抑えられている上に、シシアのプラチナブロンドの髪にもよく似合っている。この上なく私の好みが反映されたドレスなのだ。


「ポーラ、ナリ。二人ともありがとう。本当に凄いわ。」

「ふぅ、良いお仕事でした。」

「ナリも満足ですっ!」


 女性のドレスは戦闘服なんていうけれど、今の私には勇気をくれる魔法のように感じられた。だってあの美しいメロウ様の隣に立つのだから。魔法の一つや二つかけて貰わないと震えて逃げ出してしまいそうだ。


「ささ、陛下がお待ちですよ。急ぎエントランスまで行きましょう。」

「分かったわ。」


 今の自分なら、少しは自信を持って歩ける。

 深く深呼吸してガラスの靴を鳴らして部屋を出た。


「お、お待たせしました。」


 エントランスには正装に身を包むメロウ様が待っていた。羽根は魔法で隠しているが、翡翠の長い髪を高い位置で括ったおかげで精霊特有の尖った耳が露わになっている。魔石の着いたピアスを付けているせいか、いつもより色っぽい。


 シシアが惚れ込んだのも頷ける美しさだ。

 この世のものとは思えない美の暴力。周りのメイド、執事すら顔を赤らめて魅入っていた。


 そんな彼が振り返る。

 私を見る。


(私、大丈夫かしら……。)


「シシア、そのドレス。よく似合っている。」


 ドクン、胸が鳴った。

 これは社交辞令だから。

 優しく笑う姿は周囲に見せつけるため。

 本心じゃない。シシア、しっかりしなさいっ!

 

「メロウ様も、とても素敵です。」


 メロウ様に振り回されてばかりは癪だ。

 だったら私もお飾りの王妃として振る舞うように徹しよう。私はこれでもか、と言うぐらい笑顔を貼り付ける。そんな私を見破るようにメロウ様は笑っていた。

 

「シシア、これを。」

「なんですか?」


 メロウ様は持っていた小さな箱を私に手渡して「開けてみて」と促す。言われるがまま、箱を開くと、


「……これ、は?」

「シシアに似合うと思って準備させたんだ。」


 箱の中には大きな青い魔石が組み込まれたネックレスが入っていた。とても素敵だけど、精霊が自身の瞳の色の魔石を贈るのは最愛の証拠。それを身につけるなんて、寵愛を見せつけるようなもの……。


「これは、頂けません……」

「いいや、受け取ってくれ。これにはシシアを守る魔法が込められている。」

「しかし――っ!」


 私たちは契約婚。あとたった三ヶ月の夫婦。

 離婚するの。


 精霊はただ一人にだけ最愛を捧ぐ種族と言うのは誰もが知っている。その国の王が最愛を変える事になれば前代未聞。余計な混乱を招いてしまう。

 

 それに貴方はこの後、シャルと出会うのよ?

 ネックレスを見られたらシャルにも誤解される。

 私、そんなの嫌よ――っ!!


「今から行くパーティーはニ国間の和平パーティーだ。

我らはニ国を繋ぐ象徴。そんな二人が最愛の儀もせず、証もなければ怪しまれる。和平パーティーはこれからも平和が続くように願って行われる。だから我らは誰よりも愛し合っていなければいけないんだよ。」


 メロウ様は私の手を取り腰を抱き、顔を近づけると耳元で誰にも気づかれない様に囁く。


「本当は首元に俺の歯型ぐらいしっかり残してやっても良かったのだけどな。」

「なっ――!?!!」


 素早くメロウ様から距離を取って警戒した。それでも囁かれた耳元は自分でも分かるぐらい真っ赤で熱い。


「あはは、冗談だ。すまないが我慢してくれ。」

「冗談が、過ぎます…………。」

「すまないすまない。」

 

 でもそういうことならば、仕方がない。

 最近のメロウ様が甘すぎるから自分勝手に考えてしまった。そんな自分が恥ずかしい。


「申し訳ございません。私、ちゃんと理解出来ていなくて。」

「分かってくれたら良いんだ。それに記憶を無くしてから初めてのパーティーだろ。これはお守りと思ってくれたら良い。」

「そう言う事なら、ありがたく頂きます。」


 受け取ったネックレスはとても重く、自分じゃ付けられそうもない。ポーラにでも着けて貰おう。


「俺が着けてもいいか?」

「えっ、あ……はい。お願い、します。」


 少し頬を染めて真剣に言うものだからつい頷いてしまった。周りには沢山の使用人達がこちらを見ている。羽根をパタパタと動かし騒ついている筈なのに、なぜか音がしない。


 私とメロウ様だけの空間の様で、思わず照れてしまった。いつもは強引にキスしてくるくせに、こんな時だけあんなに真剣に許可を求めてくるなんて、ズルい人だ。


「それではシシア、行こうか。」

「はい。よろしくお願いします。」

  

 ネックレスと付けて貰い、準備は整った。

 差し出された手を掴んで歩き出す。

 

 精霊国王代理を務める為、クレハ様とザリール様は国に残る。私達は少数精鋭の部下を連れ、色々な想いを馳せながらパーティーへと向かった。


 この時の私はまだ、和平パーティーで起こる事件とメロウ様の真意を知る由もなかった……。

 

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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