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02 シシア・フォンブール

 シシアになった翌日。

 ベッドの上で頭を抱えていた。

 

 このままでは確実に殺される。それだけは絶対に回避したい。


 こういう時は落ち着くのが大切よね。

 まずは置かれている状況を整理してみよう。


「シシアは人間国で数少ない浄化師なのよね。」


 恋愛小説『精霊の愛し子』の世界には三つの国があり、特に親密な関係にあるのが人間国と精霊国。


 この世界にはマナと呼ばれる魔法を使う為の元素が漂っていて、人間は体内でしかマナを生成出来ない。そのため魔法を使える者が極端に少なく、使用出来るのは一部の貴族ぐらいだ。


 平民は魔法道具(アーティファクト)を使って日常生活に必要な魔法を行使するのが一般的。


 対して精霊は大気に漂うマナを呼吸と同じように無意識に吸収している為、魔法の威力に違いはあれど誰でも魔法が使える。


「シシアは公爵家の産まれで、数少ない魔法が使える人間。それもただの魔法じゃなくて精霊の〝穢れ〟を浄化出来る限られた才能の持ち主だったはず。」


 精霊はマナを吸収する際に『穢れ』と呼ばれる不純物も一緒に吸収してしまう。この『穢れ』はどんどん蓄積していき、身体の表皮の一部が黒く変色させて機能を奪ってしまう厄介なもの。


 放っておくと穢れは身体全体に広がっていき、最終的に魔力が暴走を起こし手のつけられない『黒穢(こくえ)』と成り果てる。

 一度『黒穢』となってしまうと救う事は出来ず、敵味方関係なく暴れ回り、魔力を求めて同族を食う化け物となってしまう。


 そこで浄化師が必要となる訳だ。

 浄化師は穢れを浄化出来る唯一の存在。


 人間国は浄化師を、精霊国はアーティファクトを提供することで二国は生活に必要なものを補い合い、平和を築いていた。


 問題は浄化師として秀でた才能を持つシシアがどうして悪女と呼ばれ嫌われているのか、という事。


 小説の内容を思い出すほど頭が痛くなる。


「シシアって本当に性格が最悪で典型的な〝我が儘令嬢〟だったのよね……。」


 公爵家という高い地位にある家で産まれ、才能もある。


 極め付けがこの美貌。


 願えばなんでも買い与えられ、自分の物に出来る。

 シシアを叱れる地位にある人間はまずいない。

 両親もシシアが問題を起こせば金で解決するような人間で、彼女の傲慢さにより一層磨きをかける要因になってしまった。


 みんなが顔色を伺い、言う事をを聞く環境で育ってきたシシア。世界は自分を中心に回っていると本気で思っていれば、我が儘娘に育つのは当たり前なのかもしれない。


『なんで私がお前如き低級精霊の浄化をしないといけないの。』

『穢れが酷く身体が思うように動かせないのです……。どうか、救ってくださいませ。』

『穢れた部分なんて斬り落としてしまいなさい。』


 貴族らしく気位とプライドが高く、癇癪持ちのシシアは精霊を人間以下の存在と見下した。


『そうね、私の奴隷になるなら救ってあげてもいいわ。』


 精霊と人間の外見の差は、長く尖った耳と背中に羽根があるかどうか。それすら精霊が魔法を使えば人間の見た目になる事も可能で、二種族の間に差別はないのだけれど。

 

 シシアにとって精霊はオモチャ同然だった。

 壊れたら捨てて新しいのに取り替えるだけ。


 まさに極悪非道。

 これがシシア・フォンブールという悪女だ。


 そんな彼女の人生は、穢れを浄化するために使節団の一員として無理やり連れて行かれた精霊国で、精霊王メロウ様と出会ってしまったことで一変する――。



 ◯●◯●◯



『お前が国一番の浄化師だと?』

『そうです。』


 一目惚れだった。

 この男を我が物にしたい衝動に駆られた。

 いいえ、私のものよ。絶対誰にも渡さないわ。

 

『ふん。世も末だな。』

『ですが、貴方の穢れを浄化出来るのは私だけ。』


 貴方が生きていくためには私が必要よ。

 だって力の弱い浄化師三人が頑張って力を込めても、片手の穢れを浄化するのに五日も掛かってる。

 

『……。』


 私なら全ての穢れを一日もかからず浄化出来るわ。

 

『保有出来る魔力量が多いと穢れの進行も早いと聞きます。貴方の場合、月に一度は浄化が必要なのでは?』


 穢れに侵された身体は苦しいでしょ?

 貴方の隣に相応しいのは私よね?


『私と結婚して下さい。そうすれば月に一度、貴方の穢れを浄化してあげましょう。』


 そうしてシシアは精霊王の浄化を口実に、精霊国誕生以来初めて人間の妃として迎えられた。


「それなのに、あの嫌われよう。」


 昨日の晩、突如部屋に乱入して来た男こそ精霊王メロウ様だ。

 

 精霊国に来てシシアは何をしでかしたのかしら……。

 どうせ碌な事じゃない。考えただけで頭が痛む。

 頼むから取り返しのつかないことをしていないでくれと祈るばかりだ。


 ――コンコン。


 深いため息を吐き途方に暮れていると、扉を叩くノック音がした。数秒おいて「失礼致します」と部屋に一人の少女が入ってきた。


「お、お顔を洗うお水をご用意致しました。」


 大きな桶を両手に抱えてやって来た少女は昨晩とても綺麗な土下座をしていた彼女だ。


 少女がシシアの世話役なのだろうか?

 貴族の輿入れって普通は侍女も連れてくるものじゃないのかしら。シシアが見下している精霊に身の回りの世話をさせるなんて思えない。


 とりあえず彼女に事情を聞くのが良さそう。

 出来るだけ優しく、怯えさせないように……。


「あ、あのー、」

「ひゃい!?」


 ――ビシャっ!


 笑って話かけたつもりだったのに……。

 少女は怯えて持っていた桶をひっくり返し水浸しになってしまった。


「もももも、申し訳ございませんっ!!!」


 そして流れるように華麗な土下座を披露。


 喋りかけただけでこれだ。

 先が思いやられる……。


ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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