28 メロウは着実に、囲う
「メ、精霊王さま――っ!?」
姉のクレハが氷水を持って帰って来たと思ったのだろう。俺が病室の扉を開け入ると、シイナは座っていた椅子から飛び上がって驚いていた。
(シシアと呼んだ方が良いのだったな。)
「精霊王様がなぜここに!?」
クレハにはあんなに楽しそうな笑みを向けていたのに、俺には戸惑いと気まずさを浮かべるシシアが憎い。
「クレハにお前の泣き腫らした顔を冷やすように頼まれたんだ。」
「そ、そんな。精霊王様の手を煩わせるような事……。」
シイナだと分かると謙虚な姿も真っ赤な顔も全てが愛おしく感じてしまう。ただ、一点。どうしても気になる。
「メロウだ。」
「……え?」
「メロウと呼んでくれ。」
精霊王様だなんて、あまりに他人行儀で。
クレハの事はねぇねと呼んだくせに。俺にも少しで良いから笑った顔を見せて欲しい。
「出来ませんっ!」
「…………そうか。」
そんなに強く否定しなくても……。
いや、これは俺への罰なのだろうな。
「……。」
「……。」
さっき少しずつ溶かしていくと決めたばかりなのに。どうしても彼女の顔を見ると欲が沸いてしまう。
「…………あの、」
「待ってくれ。俺の話を聞いて欲しい。」
ゆっくり、ゆっくりだ。
野良猫を手懐けるように。
警戒されないように、そっと……。
「わ、かりました。」
「これまでの無礼、すまなかった。」
「ぅえっ!? 一体どうされたのですか!?」
「クレハに怒られてしまった。それでこれまでの事を反省したんだ。」
戸惑うシシアに近づき、頬に触れた。
俺が手を上げただけで身体をピクンと震わすシシアに、罪悪感が湧いた。せめて瞳を冷やす間は、触れさせくれ。
「本当に、すまなかった……。」
「…………精霊王、様?」
俺の謝罪など受け入れたくないだろうか?
シシアは俺を嫌悪しているだろうか?
不安で、仕方がない……。
「……泣かれたのですか?」
「――っ!?」
シシアの指先が俺の頬をなぞる。
瞳が、重なった。
「大丈夫ですよ。」
あの日の乙女がいた。
どうして分からなかったのかと言いたくなるほど、脳裏に焼き付いて忘れられなかった少女の姿があった。
「クレハ様はお優しいので許してくれます。」
「シシア、お前は?」
窓の外はすっかり暗く、月が登っていた。
ここは浮き島。月との距離が地上より近い。
大きく、輝く月明かりがシシアを照らす。
「え……?」
「シシアは俺を、許してくれるか?」
月下の乙女は、笑った。
「最初から怒ってませんよ。むしろ私の方こそ、今まで散々な態度ですいませんでした。」
お前がシイナだと知っていると言いたい。
そうしたら今すぐに抱きしめるられるのに。
シシアの指先が頬から離れるように、ここでそれを言ったら彼女は俺から離れて行くだろう。
(今はまだ、その時じゃない……。)
「頬は冷た過ぎないか?」
水魔法を応用して手から出す冷気に、シシアが自身の頬をピッタリくっ付けて「大丈夫です……。」と少し恥ずかしそうに呟いた。
(今、は、その時じゃっ………………!)
なんとか理性で抱きしめたい気持ちに蓋をした。
その上目遣いは反則だろっ!!
「かわい、過ぎる……。」
(その顔、俺以外の輩にも向けてんじゃねぇだろうな?)
可愛さ余って憎さ百倍とよく言ったもんだ。
他の奴にもその顔見せたら、俺は……。
「なにか言いましたか?」
「…………いや、なにも。」
しばらくの沈黙に、俺はひとまずこの愛おしい生き物を全力で守り抜くと誓った。
まずは、信頼を得るところから始めるとしよう。
「シシア、結婚時にした契約を破棄しようか。」
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