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24 私の名前 1

「………………ぇ?」


 まさかの言葉に理解出来ず固まってしまった。


「貴方がシシア様でない事は分かっています。」


 冗談を言っているようには見えない。

 瞳は確信を持っている。


「魔法は属性を混ぜる事で応用が出来るとお伝えしましたね。私は三属性の魔法を駆使して個体が持つ魂の色を見ることが出来ます。」


 窓から降り注ぐ夕日に照らされたクレハ様の瞳は薄らと光を帯びていた。

 

「オーラが見える、と言えばいいでしょうか。どれだけ記憶を無くしていようが、魂の色が変わる事はありません。数年前に一度、私は人間国でシシア様をお見かけした事があります。」


 そこまで話したクレハ様がため息とあからさまに侮蔑的な表情を浮かべた。

 

「その時に見たシシア様の魂の色は赤と黒が入り乱れ、渦巻いていました。欲と愛に飢えた哀れな方。あの方とお近づきになりたいとは思えませんでした。」


 今日見てきたどの人よりも冷たく、怖いと思った。それを向けられているのは他でもないシシアだ。

 クレハ様が魂の色が分からなかったら出会い頭にこの顔をされていたと思うとゾッとする。


「ですが、貴方からは赤も黒も見えない。色が薄まる事はあれどここまで違うとなれば、それは別人を意味します。」


 クレハ様は最初から分かっていたんだ。

 今思えば、この病室に入ってから一度も〝シシア〟と呼ばれていないような……。


「貴方はシシア・フォンブールではない。違いますか?」

 

 目が笑っていない笑みをこちら向けるクレハ様。


(ちょっと待って……。最初からシシアじゃないと分かっていたなら、記憶喪失って嘘を吐いたのもバレバレだったって事?)

 

 全身から血の気が引いていく。

 これはかなりまずい。ここでクレハ様を敵に回してしまったらバッドエンドがかなり近づいてしまう。


 それだけは避けないと。

 どうしよう、どうしようっ!!


 パニックになった私の脳裏によぎったのはナリの姿だった。


「た、大変、申し訳ございませんでしたぁぁっ!!」


 気がついた時にはナリ以上に美しい土下座を披露していた。


「…………。」

「…………。」


 静まり返る病室。


「………………フッ。」


 誰かが耐え切れず吹き出したような声がした。

 

「あれ? 今の声……?」


 パッと顔を上げ、周囲を確認する。

 メロウ様の声が聞こえた気がしたのだけど。


「んふふ、あはははっ!」

「ク、クレハ様……?」

「まさか、そんな綺麗な土下座をするなんてっ!」


 お腹を抱えて笑うクレハ様はひとしきり笑った後、「怒ってないわ」と手を差し出してくれた。これだけ笑っているのだからバッドエンド最短ルートは回避出来たの、かな?


 椅子に座り直して安堵した。


「貴方の身に起きた事を教えてくれる?」

「はい。それが――。」


 私は自身の身に起きた事を今度は包み隠さず話した。


 最初は嬉しかった。

 初めて私を見つけてくれる人が現れたのだから。


 本当に嬉しくて、話せば話すほど、涙が止まらなくなってしまった。


「ここ数日、本当に、怖かった。苦しかったんです。」

「ええ、そうね。」

「私は、シシアじゃないって叫びたかった。でもどうせ誰も分かってはくれないから。黙っているしかなくて。」


 初めて会ったメロウ様に、あんな瞳で睨まれなくはなかった。クレハ様を救った夜、悲痛に歪むメロウ様に抱かれたくはなかった。


 ずっと居心地が悪かった。私はなにもしていないのに、精霊達はいつもヒソヒソと陰口を叩く。目を合わせぬように素知らぬふりをばかりする。


「ずっと、ずっと……、やるせなさが消えなくて。」


 挨拶をしても怖がられ、虐めていると思われた。

 私の部屋の前でナリが他のメイド達に冷やかしや、哀れみの声を掛けられていたのも聞こえていた。


「どうすればいいのかも、分からなかった、です。」


 小説の中に転生する女性主人公はどうしてあんなに頑張れたのだろう。私は、小説のように上手くは出来ない。処刑されるかもしれないと思うと不安で仕方がなかった。


「私……、まだ死にたくないよぉー……。」

「大丈夫よ、貴方は死なないわ。」


(私はずっと、誰かに話を聞いて欲しかったんだ……。)


「よく、頑張ったわね。」

「うぅ……ひぐっ、うわぁぁーーん。」


 クレハは聞き役に徹してくれ、泣きじゃくる私の背をそっと撫でてくれた。


「私、こんなに泣く方じゃないのに……」

「だいぶ疲れが溜まってたのよ。」


 クレハ様はポーラと同じく「よく頑張った」「偉かった」と繰り返し声を掛けてくれる。その声は暖かく、瞳は慈愛溢れる女神様。


 彼女の懐の深さを感じた。


「ありがとうございます。もう、大丈夫です。」

 

 ひとしきり話し終えて、差し出されたハーブティーに口をつける。ほんのり甘く心安らぐ香りに溜まっていた不安と焦りが全て押し流されて行くのを感じた。


「少しは落ち着いたかしら?」

「はい。お恥ずかしい所をお見せしました……。」

「良いのよ。泣きたくなったらいつでもいらっしゃい。ねぇねのお胸を貸してあげるわ。」


 それはぜひお願いしたい。

 自身の胸をポンっと叩くクレハ様に自然と笑みが溢れた。


(そう言えば私、まだ本名を名乗っていない。)

 

「あの、私の本当の名前なのですが――。」

 

 言いかけたところで口の前に人差し指を当てがわれ、制止させられた。

 

「精霊にとって名前はとても大事な物。愛称だけ教えて?」


 そうだった、と頷く。

 でも愛称か……。

 

 日本人の私は名前がそんなに長くないし、友達と呼べる人もほぼいなかった。愛称で呼び合うなんて経験がない。

 

 さて、どうしたものか……。

 愛称を自分で考えるのもなんとなく恥ずかしい気もする。普通でいいか。


「私の名前は、シイナです。」

 


ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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