23 月下の乙女
「………………なぜ?」
一瞬、目を丸くさせたクレハ様は思っていた以上に私の話を真剣に聞いてくれた。
実は自分の記憶がなく、彼を愛していた記憶すらない事。メロウ様にそれを伝えても信じて貰えない事。精霊になりたいと今は思えない事も。
今日までに起こった全てを嘘混じりで若干濁している部分もあるけれど必死に伝えた。
クレハ様はとても聞き上手で否定も同意もせず、ただ黙って聞いてくれる。それがとても心地よくて、本当に姉が居たらこんな感じなんだろうかと少し羨ましくなった。
「私はここに居て良い人間じゃないのです。メロウ様には、もう心に決めた方がいるのですから。」
そう。ヒロインのシャルがいる。
私は悪役。すぐにでもこの地位も場所も開け渡してあげるべきなんだ。
「それは〝月下の乙女〟の事を言っているの?」
月下の乙女?
小説には出て来なかった呼び名だ。私には分からないけどクレハ様も知っているならシャルの事なのだろう。
「そうだと思います。」
メロウ様にはシャルと幸せになってほしい。
嘘じゃない。だってそれが二人にとって一番の願いなんだもの。私は、そんな二人を見守れたらそれで良いの。
「…………彼女の事をどこまで聞いていますか?」
伏見がちのクレハ様。
表情から察するになにか良からぬ事になっていそう。
私は「全く知りません」と首を横に振った。
「彼女は行方知れずなんです。」
「えっ!?」
そんな筈はない。
二人は必ず出会うはずなんだ。
「何故ですか?」
「実はね――……。」
クレハ様から十二年前の事を聞いた。
まさか、小さい頃に二人が出会っていたなんて……。
(小説に描かれていなかった設定だっ!!)
正直、めちゃくちゃ興奮した。
ファンとしてはご褒美以外の何物でもない。
「…………ありがとう、ございます。」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫ですっ! ありがとうございますっ!!」
小説ではメロウ様とシャルの初対面はとてもロマンチックに描かれていた。
内容は人間国で開かれた和平パーティーで穢れに苦しんだメロウ様が、パーティーから抜け出す所から始まる。
黒穢になる事を恐れたメロウ様が自殺を図ろうとしたその瞬間、ヒロインのシャルが現れメロウ様に駆け寄る。
「離れろ」と抵抗するメロウ様に「放っては置けない」とシャルが祈る事で浄化の力が覚醒するのだ。
そして二人は互いに惹かれ始めていく……。
物語の印象的な導入部分だった。
思い出す度にキュンキュンしてしまう。
そんな二人はまさか幼い頃に出会っていたなんて。
シャル視点では描かれていなかったという事は、メロウ様だけの思い出なのだろう。小説ファンとしてこんな嬉しい裏設定はない。
最高過ぎる……っ!!
そして思う。
私、シャルの居場所知ってる!!!
これを伝えれば円満に離婚出来るじゃん!!
「クレハ様。私、解決の糸口を見つけたかも知れません。」
意気揚々に椅子から立ち上がった。
「それは良かったわ。お役に立てて良かった。」
「本当にありがとうございます。」
立ち上がった拍子に見えた窓の外を夕日が照らしている事に気がついた。もうすぐ夜が来る。
「あ、長居してしまって申し訳ございません。そろそろ帰ります。」
「全然良いのよ。気にしないで。」
どこまでも優しいクレハ様に癒されつつ、帰り支度をしているとクレハ様が私の瞳を見つめて真剣な表情をした。
「私からも最後に質問してもいいかしら?」
「もちろんです。私が答えれる事ならなんでもっ!」
意気込む私を他所にクレハ様の口から出た言葉は衝撃的だった。
「貴方は一体、誰ですか?」
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底辺作家脱却を目指してます!!
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