22 ガールズトーク
「ささ、お掛けになって?」
「お邪魔します。」
病室に通されたシシアはクレハ様の正面にある備え付けの椅子に腰を下ろた。
個室は白を基調とした家具で統一されていて、いくつもの観葉植物が飾られていた。
「あ、あれは……。」
緑溢れる病室の中にひとつだけ大きな花瓶が窓際にあった。そこに生けてある花に見覚えがある。
「あれはね、今日メロウが持って来てくれたものなの。綺麗でしょ?」
やっぱりそうだ。
首都パウラニアで見かけたメロウ様が買っていた花。てっきりヒロインのシャルに渡すとばかり思っていたのに。
「ホッとした?」
「ぅえっ!?」
「貴方はメロウの事が本当に好きだと聞いているわ。花を送った相手が私なら恋敵にはならないでしょ?」
「あはは……。」
一瞬、心を読まれたのかと思った。
クレハ様が聞いていたのは私が転生する前のシシアの事だろう。今は違うのだけど、会ったばかりで否定するのも気が引けてしまいとりあえず笑ってみた。
「先ほどの精霊達の愚行、本当に申し訳ございませんでした。」
改まって頭を下げるクレハ。
咄嗟に立ち上がって否定する。
「あれは今まで私がしでかした愚行から来たものなので、どうか謝らないでください。」
私はクレハ様が味方をして下さっただけで救われたんだから。それで十分だ。
「貴方はとても美しい人ね。」
そう呟くクレハ様はまるで絵画のような色褪せない綺麗さを誇っていた。さすがメロウ様のお姉様。端正な顔立ちと面影が重なった。
髪はメロウ様より濃い緑色。
瞳は赤と白のオッドアイ。
まじまじ見つめていると吸い込まれてしまいそうだ。
「どうしたの?」
「あ、すいません。あまりに瞳が綺麗だったので。」
「んふふ。ありがとう。」
クレハは優しく笑うと、生けてある花瓶から白色の花を一輪取り出してシシアの髪に飾ってくれた。
「貴方も綺麗よ。」
見つめられた視線に胸がときめく。私が男なら確実に恋していた。いや、女でも危ない。クレハ様の近くにいると性別とか関係ないと思わされる。
「メロウが要らないなら私が貰っちゃおうかしら。」
「……ぜひ………………。」
思わず口から本音が漏れた。すると部屋の扉の方から『ガタン』となにやら物音がした。振り返ってもなんの変化もない。「通り風かしら」とクレハ様が微笑んだ。
「話を少し戻すけれど、精霊は髪と瞳で使える魔法の性質が分かるのよ。」
パン、と手を叩いて椅子に座り直したクレハ様は、自身の髪と目を刺して教えてくれた。
「例えばメロウの側近ザリール。彼は赤い髪と瞳から火属性の魔法が使える、みたいな感じよ。」
なるほど。
ならば琥珀色の髪と瞳を持つナリは地属性。ウルバは水属性と言ったところだろう。
ではクレハ様は?
彼女の髪も瞳も色が違いすぎる。
混乱する私を察したのかクレハ様が答え合わせするように口を開いた。
「私は三属性持ちなの。火と風と白魔法。」
精霊でも珍しいのよ、と教えてくれた。
二属性で優秀だと言われる中、異なる三属性魔法を操る精霊はまずいない。まさしく天才だ。
因みにメロウは火、水、風、地の4属性を操る化け物。これは小説でも描かれていて、彼は精霊国始まって以来の最強の魔術師。その圧倒的な力でヒロインのシャルを守っていく姿がとてもカッコよく、ファンが多い。
「魔法は色々な属性を混ぜるとこで応用が出来るのだけど、浄化と黒魔法は例外。この二つは天賦の才ね。」
この世界の魔法は四つの属性魔法の他に白魔法と黒魔法がある。白は治癒を司る。
浄化はこれに分類するが、原理は今だ謎な部分が大きい。そして黒魔法は呪いや腐敗を司る危ないものが多い為、禁忌とされている。
「この二つは特殊で使い手も少ないわ。だからこそ使い方を間違ってはダメ。それだけは覚えておいて。」
同じ白魔法が使えるクレハ様でも浄化は出来ない。浄化は白魔法使いの中でも限られた存在。だからこそ、小説に出てくるシシアは天狗になってしまった。
私はこの力を正しく使いたい。
今日、それを再度実感した。
「……はい。」
それからはクレハ様と色々な話をした。
メロウ様の小さい頃のお話だったり、モナルダ病棟の事だったり。他愛のない話に花を咲かせた。
「貴方と喋れて本当に楽しいわ。」
「私もです。」
「ここではジルバルがうるさくてお菓子の一つも食べれないのよ。」
「――っ!」
儚げにため息を吐くクレハ様。
なにか忘れていると思っていたけど、お土産だ!
急いで膝に乗せていたかごの中を覗くもクッキーはぐっしょりしていた。
かごは乾いていたからもしかしたらと思ったのだけれど、ダメだったらしい。これは渡せないな。
(ん? なにか光ってる……?)
かごの底を漁ると一つの魔石が見えた。
パウラニアで練習用に買っていた魔石だ。クレハ様に会う為に急いで準備したから誤って入ってしまったのだろう。しかも何故か白く輝いている。
(さっきトリルを浄化した時に魔石にも魔力が貯まったのかしら……?)
有り合わせで申し訳ないけれど、見舞いの品が無いよりこれを渡す方が良いかも。さっきの魔力が貯まったのなら魔石には浄化の力が宿っているはずだし。
「クレハ様、実はお見舞いの品を持って来たのですが、クッキーはその……、水に濡れて駄目になってしまいまして。」
クレハは気にしないで、と残念そうに笑った。
「代わりと言ってはなんですが、これを受け取って貰えませんか?」
かごから白い魔石を取り出し、テーブルに置く。
「まぁっ、これを……?」
「上手く魔力を込めれた自信はないのですが、浄化魔法が貯まっていると思います。良ければ受け取ってください。」
魔石を見て黙り込むクレハ様。
やっぱり駄目よね。流石に適当過ぎるもの。
謝ってから持って帰ろう。
「あの、やっぱり……」
「こんな凄い物を受け取って良いの!?」
「…………え?」
クレハ様が食い気味に興奮している。
そんなに凄い物ではないと思うのだけど、喜んで貰えたなら嬉しい限りだ。「どうぞ」と手渡した。
「こんなに凄い浄化の力が込められた魔石は今まで見たことがないわ。これは、これだけで小さな城が買えるレベルよっ!!」
浄化の力がそんなに金になるの!?
クレハ様も驚いているけど、それ以上に私の方が驚いていた。
あの魔石の大きさでそれだけ価値があるならここを逃亡したら私、魔石で大儲け出来るじゃない?
私、魔石ビジネスを始めようかしら……。
夢が広がる。最高だっ!
「ありがとう。こんな凄い物を貰ってはお礼をしなくては。」
「お礼だなんて求めてませんので。」
「そうはいかないわ。」
両手を握られ「私にお礼をさせて」と意気込むクレハ様。これは、断りにくい……。
「でしたら……、相談に乗って欲しいのですが。」
「お安い御用よ。任せてっ!」
クレハ様がパチンと手を叩いた。
するとふわっと風が吹き、小さなドーム上の半透明の幕が部屋いっぱいに貼られた。
「これで部屋の会話が誰かに聞かれる事はないわ。ねぇねに存分に聴かせて?」
ガールズトークを楽しむみたいに何処かウキウキのクレハ様。そんな彼女に言い出し辛いのだけど、はっきりさせておかないといけない。
一呼吸おいて、冗談と思われないように真剣に口を開いた。
「私、メロウ様と離婚したいと考えております。」
ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)
底辺作家脱却を目指してます!!
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