20 クレハ様を訪ねて 3
「人間は非を詫びる時は土下座をすると聴きました。」
プライドの高いシシアを貶めるには丁度良く、無様な姿も観られる土下座は最高の選択でしょうね。
案内役も男もジルバルがシシアの言葉を信じると思ってないからこんな大胆な行動をしたんだ。
「私達はずっと苦しめられてきたのです。そのぐらいして貰う権利はあると思います。」
ここでシシアが癇癪を起こすか逃げ出すか、どちらの選択を取ったとしてもこの先ずっと今日を笑い物にされるのは間違いない。
素直に土下座をしたところで結果は一緒だろう。
世間的にシシアを殺す。彼らはそれが狙いなんだ。
「俺は腕を斬られそうになったんだぞ。それに対する謝罪もまだだしな。」
このままじゃいけない。折れたら、ダメ。
帰りたいなんて弱気になるなっ!
ここで負けたらこれから先もずっとこれを許してしまう事になる。
私だけならまだ耐えられる。でも私のせいでナリやウルバが辛い思いをするのは絶対に嫌だ。私が城を去った後、二人が後ろ指を刺されながら生きていくなんて事にならない様に。
(私は、今この瞬間を戦わなくちゃいけないっ!)
水溜まりに浸る足にグッと力を込めた。
「事情は理解した。この場は所長の俺が預かる。皆は仕事に――、」
「いいえ、お待ち下さい。」
ジルバルの声を遮った。
震える身体に力を入れて、腹から出す声は大木の様に太く大きく。ここにいる皆に聞こえるように。
(私はシシア・フォンブール。)
稀代の悪女。
まさかこの言葉が力になる日が来ようとは。
元々シシアは気が強い。
こんなところで涙を流すようなタマじゃない。
こんなところで泣き寝入りするような繊細さなんてないんだからっ!
「私はシシア・フォンブール。この国の王妃。」
やってやる。
あんた達には屈しない。
呼吸を整えて、私は深く深く頭を下げた。
「申し訳ございませんでした。」
「シシア様――っ!?」
正しいかどうかなんて分かるない。それでも真摯に謝ることから始めないと。
「今までの愚行、私が間違っておりました。皆様から反感を買うのは当たり前です。謝って簡単に許してもらえるとは思っていません。ここで土下座をしてもそれは変わらないでしょう。」
慌てて止めに入るジルバルを静止して続ける。
ねぇ、シシア。
私が貴方の尻拭いをしてあげてるんだから、貴方の傲慢で我が儘を通す力を今だけ私にちょうだい。
「私は、ここにいるすべての方の穢れを浄化すると約束いたします。それが私がしてきた罪の償いだと思うから。」
静まり返る病棟に響くはシシアの足音。
真っ直ぐに男を捉えて近づいた。
「な、なななんだよっ!?」
さっきまであれほどいきがっていたのに。彼にとってシシアが素直に謝るなんて思いもよらなかったのだろう。
「数々の愚行、大変申し訳ございませんでした。」
ジルバルが見守る中、シシアは男にも頭を下げた。
ざわつく周囲を無視して彼を落ち着かせるように笑みを浮かべた。
「呼び名で構いませんのでお名前をお教え頂けますか?」
「…………トリル、だ。」
「良い名前ですね。トリルさん、手をお貸りします。」
戸惑うトリルの左手を掴み、自身の手を重ねて祈った。
「何すんだよっ!?」
握られた手から放たれた光はトリルの左腕を包み、一瞬で穢れを浄化してみせた。驚くトリルは自身の左腕をまじまじと見つめる。
「……うそ、だろ…………。」
「遅くなってしまいましたがこれでもう大丈夫です。あなたの穢れは全て浄化されました。」
「俺の浄化は半年以上かかるって言われてたんだぞ。」
これでシシアが凄い浄化師だと分かって貰えただろう。あとは……。
「案内役のお二人。お名前は?」
「ひぃっ!!」
喧嘩を売ったこと、私は忘れてないからね?
「……お名前は?」
「ヒイラ、です。」
「マリです。」
「そう、ですか…………お名前、覚えましたからね。」
二人には満面の笑みを贈った。
あえてここで貴方達が吐いた嘘をジルバルに言いふらすような事はしない。
でもね、次はないから。
それは周りにいる精霊全員にも言えることよ。
静まり返った病棟にシシアの声がよく通る。
「私などに浄化されるのは嫌だとは思います。ですが私は浄化師です。目の前に穢れを持つ方がいれば必ず助けます。それだけは信じてください。」
これは偽りのない本音。
私はこの国で浄化師として生きていく。
どうかこの覚悟が伝わりますように……。
「……ジルバル様。ここへはクレハ様に会いに来たのだけど、この格好じゃ失礼になってしまうわ。後日出直して来ると伝えておいて貰える?」
くるりとジルバルに視線を向けると今にも泣き出しそうな彼の姿があった。
「え、えっ!? どうしたの!?」
「俺こそ、散々酷い言葉を貴方様にぶつけてしまったのに…………」
「それは仕方がなかった事よ。気にしてないわ!」
慌てて駆け寄るも、自分が今ずぶ濡れの状態だったときがついた。触れたらジルバルも濡れてしまう。
(かごに入れてきたハンカチも濡れてるから貸してあげられない。どうしよう……。)
ふわり。
焦るシシアを包むように暖かい風が吹いた。
「道を開けて。」
美しい声と共にシシアの身体が舞い上がり、服と身体が一瞬で乾いた。
「メロウ、様……?」
群衆の隙間から現れたのはメロウ様だった。それから、メロウ様にエスコートされる様に腕を組んだ美しい女性の姿があった。
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