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18 クレハ様を訪ねて 1

 シシア達一行が城に帰宅したのは、日が傾きかけた頃。ウルバが大きな紙袋を二つ持って、ナリは嬉しそうにキャンディを頬張り満足した外出となった。


「……あら、あそこって私の部屋よね?」


 自室に繋がる長い廊下。シシアの部屋と思われる前に見慣れないメイドが立っていた。

 こちらに気がつき、深く礼をしたメイドは品の良い年配の女性だった。


「あの、私になにかようですか?」


 この城でシシアに話しかける精霊は少ない。というかほぼゼロ。当たり前なのだけれど、皆シシアを怖がって近づいてこないのだ。そんな中で怯えずにまっすぐ目を見て話してくれる精霊は貴重だ。


 無礼が無いようにしないと……。


「お初にお目にかかります。私は第一王女クレハ様に使えるポーラと申します。」


 第一王女クレハ様……?


「この度は我が主人を助けて頂き誠にありがとうございました。」


 ああっ!

 メロウ様のお姉様で、私がモナルダ病棟で助けた女性の事だ。


「そんなご丁寧に。私は出来る事をしただけです。」

「出来る事、とおっしゃいますが誰もが出来た事ではありません。ご謙遜なさる必要はございません。」


 見た目の印象と違わずとても優しい方。こんな丁寧に接してくれる精霊はナリとウルバ以外で初めてのこと。胸がじんと熱くなった。


「ありがとう、ございます。」


 思わず泣きそうになったのをグッと堪えて礼を尽くした。そんな様子をみたポーラは愛情深い微笑みをくれた。その姿が私を唯一愛してくれた祖母のようであの時、本当に頑張って良かったと思えた。


「ところでクレハ様のメイド様がなにかご用意でしょうか?」


 ナリがひょこっと顔を出し伺う。


「クレハ様がお目覚めになられました。」

「本当ですかっ!?」

「はい。心身ともにお元気にしておいでです。」


 大事を取ってまだモナルダ病棟に入院しておいでですが、と聞く前に涙が溢れ限界が来てしまった。


「あ、すいません……。どうしよう、涙が……、」

「おやおや、聞いていた話とは随分と違う可愛らしい王妃様ですね。」


 ぽろぽろと溢れる涙に動揺しているとナリが気を利かせて「ここではなんですから」とシシアの部屋に入るよう提案してくれた。


 部屋に入ってからもポーラは私が泣き止むまで背中を摩ってくれ、優しくありがとうを繰り返していた。それが更に涙を誘っているのだけど、亡くなった祖母に褒めて貰っているみたいでやめてくれとは言えなかった。


「グズッ……、もう大丈夫です。わざわざ伝えに来て頂きありがとうございました。」

「ふふふ。話はそれだけではないのです。」


 ポーラは私の涙をハンカチで拭いながら話を続ける。


「実はクレハ様が貴方様にお会いしたいと希望しております。」

「私に、ですか!?」


 思わぬ提案に声が上擦る。

 私もクレハ様に会ってみたいと思ってはいたけど、どうせクレハ様にも嫌われているだろうから会う機会はないと思っていた。

 

「ええ。命の恩人様に是非、感謝を伝えたいと仰っております。今からお時間を貰えないでしょうか?」

「い、今からですか!?」


 流石に今すぐは心の準備が出来ていない。

 正直、断りたい……。

 日を改めて、せめて明後日。いや、一週間後ぐらいが良い……。


「お支度は僭越ながら私が務めさせて頂きます。」

「い、いやぁー……。今の姿じゃ流石に時間が掛かりすぎてしまうかと。」


 髪はジルバルに茶色になるよう魔法を掛けて貰っているし、見た目だって町娘だし。


「私、こう見えてもクレハ様のお支度を数十年務めて参りました。元が美しいシシア様のお支度にさほど時間はかけません。」


 うっ……、手強い……。


「で、でもポーラ様にお手間をお掛けするわけには……」

「シシア様、ポーラ様の手腕はこの城でも有名なんですよ。ナリもポーラ様のお仕事を間近で見て勉強したいですっ!」


 なぜかナリがウキウキでポーラの援護射撃をしてくる。ウルバなんて「お支度の間、外で待機しています」と颯爽に部屋から出て行ってしまった。


「さあさあ、お早く済ませましょう。」

「あ、あの……ポーラ様?」

「シシア様、急ぎましょう!!」

「ナリまで!?」


 これはもう、逃げ場がない……。


「お願い、します……。」


 今さっきとは違う涙が流れそうになったのをグッと堪えた。



 ◯●◯●◯



「ほ、本当に凄い……っ!」


 ポーラによるお支度という名の施術は最高の一言だった。入浴に始まり、エステ並みに身体をほぐされ香油で仕上げまで、全てが一級品だった。ナリが興奮するのも分かる。


 出来上がった姿を鏡で見ると、まさに王妃に相応しい出立ちになっていた。


 派手過ぎず、落ち着いた色合いのドレスは私好みで肌の露出が少なく、それでいて品が感じられる。こんな服あったのかと思っていたらポーラが「お直ししておきました」とさり気なく教えてくれた。


 この出来をわずか短時間で済ませてしまうとは、流石の一言に尽きる。

 気が進まないと思っていたのに、ここまで素敵に仕上げてくれると今すぐにでも出掛けたい気分になった。


「ポーラ様、ありがとうございますっ!」

「私の事はポーラと、気軽にお話ください。」

「じゃあポーラ、またお願いしてもいい?」

「ふふふ。もちろんでございますが、ここにいるナリのことも使ってやって下さいまし。」


 隣で「そーですよ、ナリもおります」とプンスカするナリ。完全に忘れていたのは黙っておこう。


「そうね。ナリもよろしく。」

「お任せ下さいっ!」

「じゃあ、クレハ様に会いに行きましょう。」


 部屋の前でポーラと別れ、ウルバとナリを連れてモナルダ病棟に急いだ。


ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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