17 契約の内容
「ふぅ、結構歩いたから疲れちゃった。」
「シシア様……、その大丈夫ですか?」
カフェに着いて椅子に座るとナリが心配そうに尋ねてきた。さっき見たメロウ様の事を言っているのだろう。
「ええ。全然大丈夫よ。」
そう。これで良いの。
ヒロインのシャルと仲良くなってくれたら私は晴れて自由の身。精霊国を旅するって夢も叶えられる。
「……そう、ですか。本当に変わられましたね。」
「そ、そうかしら。」
「そうですよ! まるで別人ですっ!」
鋭いナリの言葉にドキッとした。本当に別人なのだけど、流石に伝えるのは気が引ける。自分でもどうしてこうなったのか言葉に出来る自信もない。
「あはは……、記憶を無くして価値観が変わったのかも。」
ふわっとぼかす事にした。
「前までのシシア様だったらすぐに陛下に駆け寄って花束を奪い取っていたでしょうに。」
「……私ってそんな強欲だったの?」
ナリとウルバが二人して大きく頷いた。
自分に相当な自信を持っていたシシアならそのぐらいしてもおかしくないだろう。
「それだけじゃありません。花束を渡していた定員を殺すとか言い出してましたね。」
「…………あはは。」
ここまでくるともう笑うしかない。
シシアの性格の悪さは物語を進める上で大切だったのは分かる。それでもシシアは殺される最期の瞬間までメロウ様を愛していた。
断罪のシーンで涙を流して「なぜ私を愛してくれないのですか?」と懇願するシシアに自分を重ねて憎めなかった。
愛して欲しかったと言う気持ちだけは痛いほど分かったから……。
シシアは美人だし、愛したのがメロウ様じゃなければ幸せになれたのかも知れない。そして今シシア自身を幸せにしてあげられるのは私なんだ。
「私、頑張って良い浄化師になるわ。」
「ナリは応援しますっ!」
ウルバも小さく笑って応援してくれた。
出会った当時とは考えられないほど優しく接してくれるこの二人こそ、シシアでも変われるという証明なんだ。
(頑張ろう。絶対に離婚してみせるわ。)
私は深く決意した。
「それでね、聞きたい事があるのだけど。」
ちょうどメロウ様の話も出た所だし、タイミングは今しかない。ナリが「私の答えられる事なら」と励ますように言ってくれるのが心苦しいばかりだ。
「私がメロウ様とした契約の内容を知りたいのよ。全然思い出せなくて。教えてくれない?」
思い出せないのではなく知らないだけなのだけど。
ずっと気になっていた。私はシシアがメロウ様を脅迫して結婚したと思っていた。それなのに実際は二人がなんらかの契約を交わしていたなんて。
私の言葉にナリとウルバは二人して顔を見合わせた。
「シシア様、本当になにも覚えてないのですか?」
「……ええ。そうみたい。」
なにかまずい事を言っただろうか?
信じられないと言った顔の二人。
脱走しても契約のせいで困る事になっては意味がない。モナルダ病棟の浄化と合わせて契約の破棄は必須事項なのでどうしても知っておきたい。
「では私が……。」
バツが悪そうにナリが紅茶の入ったカップを置いて口を開いた。
「契約内容は全部で三つあります。」
指で三を作るナリが端的に教えてくれた。
・シシアを精霊国の王妃にする
最愛の儀はしない代わりに他の姫を召し抱えない
・シシアを精霊にする
出来た子供は王族として認知する
・公務をしない(浄化の助言のみ)
モナルダ病棟の浄化を試みる
以上の3つ。
「マジ、か……。」
一応取り引きとしては成り立っているけど、シシアに有利なものばかり。とてもじゃないが平等とは言えない。更に契約を破ると身体に大量の穢れが溜まっていくらしい。
穢れの貯まらない人間のシシアにとって契約をどれだけ破ろうがダメージはない。対してメロウ様は死のリスクを背負った恐ろしい契約になっている。
(通りでメロウ様の身体があれほど穢れに蝕まれていた筈よっ!)
「今すぐに契約を破棄しましょう!」
「出来ません。」
「なんで!?」
「互いの魔力を込めた契約の更新は半年に一度だけです。」
と言う事は、あと三ヶ月はこのままの状態ってこと?
「…………嘘、でしょ。」
言い換えればあと三ヶ月でモナルダ病棟の人たちを全員浄化して、メロウ様を契約解消させるように説得しないといけないって事だ。
逃亡なんて言ってる場合じゃない。
契約更新の期限を逃せばまた半年間の我慢をする事になる。
「全然時間が足りないじゃない!?」
契約解消には契約書と二人の魔力と血が必要。
まずは契約書を探す所から始めないといけない。
「ナリ、ウルバ。今すぐに城に帰りましょう。」
勢いよく立ち上がったシシアに釣られて二人も慌てて立ち上がった、のだが……、
「シシア様、どうかされましたか?」
「………ナリ、やっぱりお菓子だけ買って帰りましょ。」
顔を真っ赤にして恥じらうシシアを見た二人がクスリと笑って大きく頷いた。
「ええ、もちろんですっ! 精霊国のお菓子は面白くて美味しいって有名ですからね。」
「うぅー、恥ずかしい……。」
その後、お菓子や露店を堪能したシシアが城に帰ったのは外出可能時間ギリギリだった。
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