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16 精霊国と魔石

「んふふ……」

「シシア様、お顔がだらしないです……。」


 ナリの呆れ顔をする横で申し訳ないが、顔がニヤけてしょうがない。


 結論から言うと持ってきた宝石類はかなりの大金になった。これなら逃亡資金として十分じゃないかしら。

 もし追手が来たとしても、数年は隠れて生活出来るぐらいにはある。


 まぁ、シャルもいる事だし追手が来る事はまずないだろう。逃げてしまえばこっちのものだ。


 あとはどこに逃げるか、だけど。


「本当に、綺麗ね……。」

「もちろんです。我が精霊国の自慢の都市ですから!」


 ナリが胸を叩いて自慢するのも頷ける。

 精霊国の首都パウラニアは雲よりも上に位置し、まるで海に浮かんでいるよう。都市は綺麗に整備され、水と緑と都市が上手く調和していた。


 まさにファンタジー。


 精霊国にある五つの浮き島はそれぞれに全く違う景色なのだそう。それぞれが属性魔法にちなんでいるとナリが教えてくれた。


 水魔法溢れる水の都。

 土魔法で豊かな土壌が広がる放牧地。

 風魔法吹き抜ける森。

 火魔法で燃える湖がある荒野。

 そして全属性魔法が溢れ交流が盛んな首都パウラニア。


 逃亡を、と考えていたけど精霊国を旅してみたい。周りを見れば見るほど、一人旅に憧れ胸踊る。


(今ぐらい楽しんでも良いよね。)


 モナルダ病棟の事を考えると心苦しいけど、昨日までに色々あり過ぎて、今は羽目を外したい気分なの。少しぐらい大目に見て欲しい。


「色々と首都を観て回りたいわ!」

「それなら良い場所がありますよ。」


 そう言ったナリが案内してくれたのは色んな店が立ち並ぶ首都パウラニアのメインストリート。露店からブティックまでなんでもあり。


「うわぁーーっ!!」


 宙に浮かぶ水に泳ぐ魚。

 歌声で咲く花々。

 ここは活気で満ちている。


 どこもかしこも見た事がないものばかりで目移りしてしまう。そんな中、一際目を引く店が。


「あのお店はなに?」

「あれは魔石ショップですね。」


(あれが、魔石。思ってたよりずっとキラキラしていて宝石みたい。)

 

 アーティファクトを動かす動力にもなっていて魔力を貯めることが出来る不思議な石だ。小説内でも色んな用途に使われていて気になっていた。


「見て行かれますか?」

「ええ、ぜひっ!」


 シシアは目を輝かせて店に入った。

 中は色んな大きさの魔石が並んでいる。魔石は全て透明のクリスタルみたいだった。定員によると、込める魔力の性質で色が変わるらしい。


「値段もそれほど高くないのね。」

「前まではもっと高額だったのですが、陛下が即位されてから値段が引き下げられたんです。」


 魔石に魔力を貯めておけば魔法を使い過ぎを防ぎ、穢れが貯まるスピードが抑えられるから、という理由らしい。


「陛下は本当にお優しい方です。」

「この国で陛下を嫌う者は居ないと思います。」


 ナリもウルバもメロウ様を本当に信頼している。それだけで良き王なのだと分かる。


「そう、ね……。」


 そんな素晴らしい王なのに、私にはメロウ様の事が全然分からない。私を嘘つきと呼び睨みつける鋭い眼光、頭を撫でてくれた温かい手の温もり。


 想う女性が居るのに私と離婚したがらない理由も。

 私には、分からない。


「シシア様。魔石は大きさによって値段が変わり、込めれる魔力の量が変わるんです。試しに買われてみてはどうですか?」


 気落ちしていた私に気を使ってナリが明るく振る舞ってくれた。


(そうよ。逃亡するのだからメロウ様がどう思っていようが関係ないわ。今を楽しまないともったいないっ!)


「そうね、まずは小さい物から練習してみようかな。」

 

 選んだのは爪ほどの小さい物。


「これにどうやって魔力を込めるの?」

「私を浄化してくれた時と同じようにしてみてください。」


 こんな感じです、とナリが小さな魔石を両手に挟むと手の中が微かに光が上がり、透明だった魔石が琥珀色に変化した。


「うわぁ、凄い。私もやってみる。」


 ナリと同じ様に両手に魔石を包んで浄化を行う要領で祈ってみる。


(こんな感じでいいのかな……?)

 

 手の中に光が広がったがすぐにパリッと音がして魔石が割れてしまった。


「え、なんで!?」

「シシア様、魔力を込める量が多すぎです。このぐらい小さな魔石だとシシア様の魔力が収まり切らなくて割れてしまったのでしょう。」

「な、なるほど。もう一回挑戦してみるわ!」


 頑張って下さい、と羽根をパタパタしながら見上げてくるナリがとても可愛い。もしも私に妹が居ればこんな感じだったのかなと思った。


 出来上がった魔石をナリにあげたい。

 その一心で魔力を込めてみるも、


「ぜ、全敗。なんで割れちゃうのよぉー。」

「シシア様の魔力が多すぎちゃいましたね……。」


 何度挑戦してみても魔石は木っ端微塵に割れてしまった。ナリの進言で魔石のサイズを親指程度の物に変えてみても割れた。

 

 元々、浄化している時だって魔力を込めている感覚がないのだ。魔力の調節と言われても全然やり方が分からない。


「もっとキュッて感じですっ!」

「………ポッて感じで、魔力を込めればよろしいかと。」


 ナリもウルバも息を吸うように魔法を扱っていたからか、説明が残念過ぎるほど下手クソ。定員に聞いてみても同じような回答しか得られなかった。


 確かに呼吸の仕方を教えてと言っているようなものだから仕方がないのだけど……。


「今回は諦めるわ。お金が勿体ないしね。」


 せっかくの逃亡資金をギャンブルに注ぎ込んでいる感覚に陥り諦めて店を出ようとすると、横目に気になる物が見えた。


「二人ともちょっとだけ外で待ってて。すぐに終わるから。」


 ナリとウルバは不思議そうにしていたが快く了解してくれた。シシアが見つけたのは、魔石の付いた色々な雑貨。髪飾りから置き物まで幅広く取り扱っているようだ。


「これ、とっても可愛い。」

「当店人気は白色の魔石がついた物ですよ。」

 

 定員によると白は白魔法、治癒だったり幸せになれるおまじないが込められているんだそう。


「それはいいわね。」

「白魔法の使い手は精霊国でも珍しいので少し値段が張りますが、贈り物には最適なんです。」


(贈り物……。そうだっ!)

 

「すいません。これ下さいっ!」


 シシアは満足に買い物を済ませ店を出た。


「シシア様遅いですよぉー。」


 ぷくっと頬を膨らませたナリが店を出るとすぐに駆け寄ってきた。


「ごめんなさい。これを買ってたの。」


 そういうとナリとウルバに一つずつ紙袋を手渡した。


「これ、二人を想って選んだの。二人が幸せになれます様にって思って。受け取って貰えたら嬉しいのだけど……」

 

 白い魔石が付いた髪飾りをナリヘ、同じく白い魔石の付いた小ぶりのチェーンブローチをウルバへ贈った。

 

 それと手のひらぐらいある大きさの魔石を自分用に一つ購入した。これは練習用。城に戻ってから使うつもりだ。


「……。」


 なんの反応もなく無言の二人。

 もしかして気に入らなかったかな。


「あ、あの要らなかったら捨ててくれていいからね。」


 不安になって予防線を張った。

 するとナリがパッと顔を上げ満面の笑みを浮かべた。


「シシア様、こんな素敵な物頂いてよろしいのですか?」

「もちろんよ。いつもお世話になってるから。良ければ受け取って欲しい。」

「ありがとうございますっ!!」


 ウルバもいつもの無表情ではなく口元が少し上がり羽根をパタパタと揺らしていた。


「ナリ、私が付けてもいい?」

「お願いしますっ!!」

 

 ナリの茶色のふわふわ髪に優しく触れる。

 お姉ちゃんと呼ばせてみたい衝動に駆られたのをグッと我慢して髪飾りを付けてあげた。

 

「とても似合ってるわ。」

「えへへ、嬉しいです。」

「ナリ、可愛すぎよっ!!」


 照れるように笑うナリを思わず抱きしめて頬をすりすりした。羽根をパタパタさせていたからナリも嫌がってはないはず……多分。絶対っ!


「あ」


 そんな事を思っているとナリが小さく声を漏らした。不思議に思いナリの視線の先を追うと、


「………………メロウ様。」


 花屋で大きな花束を購入するメロウ様がいた。

 家臣を数人連れて、周りには沢山の精霊が集まっている。


「シシア様……。陛下の元へ行かれますか?」


 視線の先にいるメロウ様はとても優しい笑顔をしていた。私には絶対向けることのない、心から慈しむような表現。


「…………シシア様?」


 あの花束を貰うのは私じゃない。

 悪役の私には、相応しくないもの。

 彼はヒロインのシャルに会いに行くのだろうか?


「…………そう、に決まってるわ。」


 私にとってメロウ様は推し。これは決して恋じゃない。

 分かっているけど、見たくなかったなぁ……。


「喉が渇いたからカフェにでも行きましょう。」

「ですがっ!」

「ナリ、お願い。このまま見なかった事にして。」

「…………分かり、ました。」


 メロウ様に背を向け、歩き出した。

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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