15 首都パウラニア
「シシア様、もう体調はよろしいのですか?」
「ええ、もうバッチリよ。」
メロウ様と一夜を共にした日から十日が経った。
あれからメロウ様とは一度会っていない。
私はあの日以降、体調を崩してしまいメロウ様が言っていた通り高熱にうなされていた。
看病してくれたジルバルが言うには、魔力の使いすぎとメロウ様の魔力が体内で馴染もうとした結果、身体に負担が掛かりすぎたらしい。
元々シシアの身体は貧弱。普通なら四、五日で治るところが倍の十日掛かってしまい、ナリは未だに心配される始末。
これまで苦労をかけた分、ナリには面倒をあまり掛けたくなかったのに、不甲斐ない主人で申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「では行きましょうか。」
「ええ。ウルバ、よろしくね。」
部屋にはナリの他にもう一人、ラフな服装に身を包んだ男性ウルバがいた。
「かしこまりました。」
「あら、また瞳の色が変わってる。」
「そう、でしょうか?」
「体調が悪いとかでないと良いのだけど。」
「問題ありません。」
ウルバはメロウ様が付けてくださった護衛だ。
水色の瞳が印象的なのだけど、時たまメロウ様と似た濃い青色に変化している。本人は自覚がないようだけれど、少し気になっていた。
「問題が起きたら言ってね?」
「かしこまりました。」
私達は今から精霊国の首都パウラリアへ行く事になっている。
と言うのも、正体がバレてしまったジルバルに事情を説明した上で、モナルダ病棟で働きたいと懇願したら却下された。なんでも、
『モナルダ病棟は今、修繕工事と今回の件の調査を行っている。今シシア様が来られては要らぬ混乱を招く。収拾が着くまで来ないでくれ。』
とのことだった。
ならばメイド服で〝シイナ〟として働かせてくれと提案したがそれも却下されてしまった。
『絶対に何処かのタイミングでバレる。バレたら国妃でも袋叩きにされるぞ。』
と言われ、改めてシシアの悪名の高さに失望した。
最初の一日は我慢したが、する事も娯楽もない部屋で一日中過ごすのにニ日目で飽きてしまった。
試しにシシアが今まで着ていたドレスを売って新しいドレスを買いたいと申請してみたら妃の予算を使えと大金と国中からデザイナー達がやってきてそれは大変な事になった。
(一国の妃にもなるとスケールが違いすぎる……。)
庶民派の私には場違い過ぎて居た堪れなかった。
と言う事で一般精霊達がどんな生活をしているのか見てみたいとごり押した結果、変装ありの半日だけ出かける許可が降りた。
「二人とも、早く行きましょう。」
町娘風のワンピースに身を包み、髪色はジルバルに魔法で茶色に変えてもらい、ナリとウルバを連れて意気揚々と城の城門を潜り抜けた。
◯●◯●◯●
「す、凄いっ!」
「シシア様、落ちない様にちゃんと掴まっていて下さい。」
精霊国には馬車と言うものがあまりない。
と言うのも、精霊国は空に浮かぶ無数の浮き島が連なって出来ているからだ。
移動は基本、飛行となる。
一応、人間の移動用にスクーターの様なアーティファクトがあるが、私はウルバに抱き抱えてもらって移動する事になった。
ウルバは華奢でしなやかな精霊が多い中で、比較的にがたいが良い方だ。しっかりと鍛えられた筋肉をしていて、近衛兵の中でも屈指の剣術の使い手らしい。
魔法主義の精霊の中では珍しいタイプ。
口数も少なく、いつも無表情で居るので最初は嫌われているものと思っていた。けれど諦めずに話かけ続けたら、照れ屋で恥ずかしがりやな性格なだけなんだと最近ようやく気がついた。
今だって掴まっていろと言うくせに、青色の短髪から覗く耳を真っ赤に染めてこちらを見ない様にしている。
「ウルバ、私重くない?」
「………………だい、じょぶです。」
「そう、良かった。」
彼はなんと言うか、意地悪したくなるタイプだ。
城を出て数分、目の前に一際大きな浮き島が見えてきた。
「精霊国の首都パウラリア、ね。」
「ええそうです。どこを見て回りたいですか?」
ウルバの問いに口角が上がる。
肩から斜めがけした大きめのバッグを抱きしめた。
「まずは持ってきた宝石類を換金したいわ!」
私がパウラリアに来たかった理由は見学だけじゃない。むしろ、本命は別にあった。
「自由に使える金なら貰って参りましたよ?」
「ナリ、私は精霊国の価格代を知りたいのよ。この国の妃ですもの。ちゃんと市民のお金に対する感覚を学ぶ良い機会だと思うのよ。」
もちろん嘘だ。
「な、なるほど……?」
「だから、自分で使うお金は自分で調達したいの。だからウルバさん、換金所までお願いします!」
それらしい事を言ってみたけど、自分でもさっぱり意味不明だった。
それでもいいの!
押し通してやる。
私がパウラリアに来たかった本当の目的は、逃亡用の資金の調達と逃走経路の確認だから。
メロウ様に離婚を承諾してもらえなかった以上、逃亡するしかない。もうあんな恥ずかしい行為をするのはごめんだ。思い出しただけで顔が真っ赤になってしまう。
ようやく身体を動かせる様になった頃、全身鏡に写った身体のあちこちが赤く染まっていたのを見た時の、えも言えない感情と言ったら……。
「シシア様、顔が赤いようですが大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫よっ!!!」
あの日、私は決意したのよ。
モナルダ病棟にいる患者を全員浄化したら城から脱走してやるって!
流石に精霊国の予算を着服して逃亡するのは気が引けるからシシアが人間国から持ってきた宝石や金目の物だけ持ってきた。
着実に確実に、逃げる為の準備するんだから!
「さ、早く換金所へ行きましょうっ!」
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