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13 契約の夜 3

「…………ぅ。」


 頬をなにかが撫でている。

 くすぐったいよ……。


「……んふふ…………。」


 小動物が顔の周りで遊んでいる様な、そんな感じ。

 頬から髪に移動した小動物はかまって欲しそうに戯れてくる。


「もう、ちょっと……一緒に寝てよぉー。」


 微睡むベッドの中が一番気持ち良い。

 髪で遊んでいた〝なにか〟を捕まえて胸元に引き寄せた。


 思っていたよりもずっとゴツゴツした手触り。でもすべすべであったかくて、肌に馴染む。


「すまんがもう起きる時間だ。」


 聞き覚えのある少し掠れた低音ボイス。

 瞼を開けると胸の辺りから知らない腕が伸びていて、私が顔を擦り寄せていた事に気がついた。


 ――――っ!?!!?


 頭を打たれたような衝撃に飛び起きるとガウン一枚纏っただけのメロウ様の姿が。そして一糸纏わぬ姿の自分。


 言葉にならない恥ずかしさに襲われ、ぼっと顔に火が付いた。時すでに遅いのは重々承知だが素早く毛布で身体を隠す。


「まだその演技続けていたのか。」


 メロウ様が屈託なく笑う。

 朝日が差し込んでキラキラと太陽が降る中、翡翠の長髪がふわりと揺れた。


「精霊王さっ……、ゲホォ、ゴホッ……」


 自分でも驚くほど喉が渇いており、咽こんでしまった。


(水を飲みたい……。)


「こっちを向け。」


 素直に従って視線を向けた先に水の入ったグラスを持つメロウ様がいた。


「あ、りがっ、と……」


 私の為に持って来てくれただろうグラスを受け取ろうと手を伸ばすと、メロウ様は持っていたグラスに口を付けた。


(――えっ!? 自分で飲んじゃうの!?)


 流石に性格が悪い……。


 そう思っているとメロウ様が無言のまま近づいてきた。思わず逃げようと後退りをするが、顎を掴まれ無理矢理上を向かされる。


「ちょっ……と…………んっ!」


 熱い唇の隙間から冷たい液体が流れ込んできた。

 どんどん流れ込んでくる水を必死に飲み込んでいくけど、量が多くて零れた水が口元から喉を伝って落ちていく。

 

「……あっ…………んぅ……」


 漏れる吐息が自分の声かと疑いたくなるぐらい甘くて、顎に添えられたメロウ様の手を支えにする様に握った。


「……ハァー、ハァー…………。」


 唇が離れていく頃には、酸素が足らず頭がボーっとしていて、肩で息をするので精一杯になっていた。

 そんな私を見るメロウ様は何故かご満悦の様でニタリと悪い笑みを浮かべている。


(メロウ様って、思っていた以上にドSだ……。)


「お前はもう少し寝ていろ。俺の魔力を流し込んだんだ。そのうち熱が出るやもしれん。」

「なっ!!!?!?」


 そうだった。

 昨日の事を思い出して自分の背中を触る。

 精霊にすると言われた事を思い出し、咄嗟に自身の背中に羽根が生えているかを確認した。


(羽根もないし、耳も丸い。人間のままだ。)


 良かった……。

 ホッと胸を撫で下ろすと、メロウ様が怪訝そうな顔をしてこちらを見つめていた。


「……本当に、もう俺の事は好きじゃないんだな。」

「え? 今なにか言いましたか?」

「…………いいや。そう簡単に精霊にはならない。何度もお前の中に俺の魔力を注いでいく必要があるからな。」


 なんど、も……?

 あの破廉恥な行為を何度もするの!?

 この男は真顔で何言ってんのよっ!


 身体中の血液が沸騰するぐらい熱を帯びていく。

 おそらく顔だけじゃなく、身体全体が真っ赤に染まっている事だろう。


「あのっ、私は精霊になりたいとは思ってません。契約も破棄させて下さい!」

「ならん。」


 メロウ様が即答した。

 

「なんで……っ!?」


 シャルがいるなら浄化師は必要ないし、愛してもいない私をそばに置いておくメリットはないでしょ。


「今後の事は後日改めて話し合う事としよう。」

「そんな…………」


 メロウ様の心が分からない。

 物凄く嫌いっている私を側に置きたがるのは、今までシシアが行ってきた嫌がらせの仕返しをしたいからなの?


 どうしたら許して貰えるのかしら……。

 私はただ、シャルと二人で幸せになって貰いたいだけなのに。

 

「それから、お前に護衛を付けよう。どこか行くなら必ず連れて行け。いいな?」

「…………分かり、ました。」


 それは監視役ですか?

 とは流石に聞けなかった。


「俺は部屋に戻る。」

 

 そういうと、メロウ様がベッドから立ち上がった一瞬、異物が見えた。


(穢れだ……っ!)

 

 昨日は夜で暗かったせいもあって見えなかったが、右脚のくるぶしから太ももに向かって穢れが伸びている。


「ま、待って下さい。」

「まだ何かあるのか?」


 メロウ様はため息を吐いてこちらを振り向く。


「脚のそれ、浄化します。…………キャッ!」


 立ちあがろうとベッドから急いで起き上がったら脚がもつれて床に倒れてしまった。


(うう、恥ずかしい………)


 顔を上げると呆れ顔だが、手を差し伸べてくれるメロウ様がいた。


「大丈夫か?」


 メロウ様は本来、精霊族でも特に愛が強い方だ。シャルに向ける溺愛ぶりは読んでいるこちらも頬を赤らめてしまうほど。

 今はシシアのせいで捻くれてしまっているが、困っている者を見捨てない慈愛深い良き王なのだ。


 どれだけ嫌っている相手でも見捨てないで手を引いてくれる姿に思わずドキっとした。


「あ、ありがとうございます。その、浄化するので、ベッドに座って下さい。」

「身体は大丈夫なのか……?」

「は、はい!」

「そうか、………分かった。よろしく頼む。」


 メロウ様は素直に従ってくれた。その様子に少しホッと胸を撫で下ろした、その拍子に気づいてしまった。


 自分が今、毛布だけ纏った痴女だとを。


(――――〜ッ!!)


 流石にこの状況は居た堪れない。でも精霊王を待たせるわけにもいかないし……。


「少々、お待ちを……。」


 ええい、こうなればヤケだ。

 メロウ様に背中を向けると纏っていた毛布を両脇で挟み、胸から下が隠れるようにぐるぐると巻きつけた。


(よし、これで大丈夫。)


 メロウ様に向き直り、そばの床に膝を付く。よく見るとガウンの中に伸びる太ももの大部分まで穢れが広がっていた。


(これでは相当歩きにくかっただろうに。)


 もしかしたら、ガウンで隠れている他の部分にも穢れがあるのかもしれない。


(そんなの、……嫌だな。)


「手を触ってもよろしいですか?」

「………ああ。」


 許可を貰い、手を握り強く祈った。


(穢れは全部、無くなって!)


 次の瞬間、二人の周りが白い光で包まれ、一瞬にしてメロウ様の身体から黒い穢れが吹き飛んだ。


 これにはメロウ様も驚いた表情をし、身体をあちこち見渡した。


「全部、浄化した、のか………?」


 その様子だと無事に成功したみたいね。


「良かった……。」


 急激な眠気が襲って来て、意識が遠くなる。


 本当はもっとちゃんと話したかったのに、

 シャルとお幸せにって言いたかったのに、


「メロウ様………、わたし、話………」


 ダメだ、起きてられない。

 メロウ様が何か叫んでるが上手く聞き取れない。


 すぐ起きるので、ちゃんとお話をして欲しいです。

 

ここまでご覧いただきありがとうございます(*´꒳`*)

底辺作家脱却を目指してます!!

ブクマや☆から評価いただけると執筆意欲に大きく直結します。どうか応援よろしくお願いしますっ!


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