12 契約の夜 2
精霊に、する…………?
メロウ様の言葉に、小説『精霊の愛し子』の最後の方にあった一節を思い出した。
『力の強い精霊は、自身の体液と魔力を相手に渡す事で最愛の人間すら精霊の姿に変える。』
メロウ様とヒロインのシャルがハッピーエンドを迎え、シャルがメロウ様との寿命の差に悩んでいた時に発せられた言葉だ。
なんとなくで読んでいたけど、これは……っ!!
今から行われるだろう行為を考えると頭が真っ白になってショートしかけた。
「はっ、こういう事は覚えてるんだな。」
皮肉めいた笑いを浮かべたメロウ様の上裸は顔と同じく陶器で出来た作り物の様な美しい肉体美をしていた。いつもは一つに括っているの翡翠の長髪を下ろし、風に遊ばせる姿はもはや芸術。
「こんなの、望んでません!」
パニックと恐怖で声が上擦るし、目のやり場に困って逃げようにも、メロウ様が私の腰を掴んで離してくれない。
「ふむ。それは良い。」
「な、なにがですかっ!?」
メロウ様は私の上でほくそ笑む。
「いつも望まない事ばかりされたからな。意趣返しが出来ているようで気分が良い。」
それに関しては同情する、けどっ!
今の私はシシアじゃない。こんな卑猥な事をされる謂れはないのよ。
「いや、離れて下さい!」
なんとか動かせる部分で必死にジタバタしてみるも馬乗りになるメロウ様はビクともしない。
「めんどうだ、暴れてくれるな。」
そう言うと私の両手首は簡単に捕まれ、魔力の輪で拘束された。外そうと暴れたら余計に強く拘束されてしまい、手首に痛みが走った。
「今までの事は反省してます。もう二度と暴れたりしませんから。」
「散々嘘を付いてきたお前の言葉をどうやって信じればいいのだ。それともこの演技も俺を誘う新しい手段か?」
「本当に、離して欲しいだけです!」
シシアの日頃の行いが悪すぎる!!
何を言っても信じて貰えないし、全ての行動が裏目に出てしまう。
「はぁー。お前が望んだ事だろう。」
「私がっ!?」
シシアは精霊になりたかったの?
そんなの小説に書かれていなかったじゃない!!
こんなの詐欺よ。
「黙ってろ。」
苛立ちを隠せないメロウ様が私の首元に巻かれた包帯を乱暴に剥いだ。下からは黒穢になった精霊に深く噛まれ刻まれた歯型がくっきり付いていた。
「わざわざ他の精霊の跡と魔力の残り香まで付けて、これの何処が望んでないだ。」
「こ、これは……、」
「上書きしてやるよ。」
そう言うとメロウ様が首元に付いた歯型の上から思い切り自身の牙を突き立てた。
「――っ!!?!」
全身に電撃が駆け巡る様な痛さに言葉にならない叫びをあげるので精一杯だった。
「ぃ……いた、いよぉ…………」
「これで俺の跡になったんだ。嬉しいだろ?」
じわりと滲む涙。
首元から広がる痛みが熱を帯びる。
「なぁ、そうだろ?」
「そんなの、わかり、ませんっ……」
「そうか。なら分かるまで何度も噛み付いてやるよ。」
その言葉通り、メロウ様は首元の歯型に合わせるように噛みつき、傷を癒すように舌で舐めを執拗に繰り返した。
次第に脳が麻痺したのか痛みは甘い痺れに変わった。
拘束された両手は簡単に押さえ付けられ、逃げる事も叶わず、耳元に響くメロウ様の吐息を聴く。
(早く終わって…………)
そんな事を思っていたら、ネグリジェの中にメロウ様の腕が入って来た。
「ひぃっ!」
ていうか、私いつの間にネグリジェに着替えたんだろう。
もう何にも分かんない。
頭が追いつかないよ。
男性経験なんてないし、肌に触れられた手を拒もうにも、拘束されていては思うように抵抗もできない。
このままじゃ駄目だ。
メロウ様の腕がどんどん上へと上がってくる。
触れられた部分が熱い。ゆっくりと、確実に熱は全身へと広がっていった。
「ああ、拘束したらお前が脱げないか。拘束は解くが、萎えるから動くなよ?」
メロウ様が魔力の輪に触れると一瞬で拘束が解かれ、いとも簡単にネグリジェは剥ぎ取られてしまった。
死にたいぐらい恥ずかしい。
身体を隠したいのにメロウ様は許してくれない。
私を見下ろす視線から逃れるように顔を背けた。
意味が分からない。
なんで、私がこんな目に遭うの?
「お願い、します。なんでもしますから、もうやめて……」
大粒の涙を流し、弱々しい声で懇願する。
「…………あの子も、こんな風に泣くのかもな。」
「ふぇ?」
温かい指先が瞳に触れた。
メロウ様の声と触れ方が急に優しくなった気がした。
「なぁ、ずっとそうして震えててくれ。」
なんで、メロウ様がそんなに辛そうな顔をしているの?
「そうすれば……」
深海の瞳はどこか辛そうに、悲しそうに。
吹けば飛んで行ってしまいそう。
「そうすれば、お前の中にあの子を見れる。」
それはヒロインのシャルのこと?
そうよ。もう二人は出会っているのでしょ?
私は要らないわよね……。
「メロウ様。私達、離婚しましょ?」
もっと早く伝えてあげるべきだった。
そんなにも苦しんでいたなんて、知らなかったの。
本当に、ごめんなさい……。
「………………急に、なにを言い出す?」
メロウ様は明らかに動揺を見せた。
「私、本当に記憶が曖昧なんです。だから、貴方を愛していた事すら覚えてません。今の私は貴方と共に生きる理由が無いんです。」
これ以上、メロウ様を苦しめる様な事をしたくない。私はただ小説に出てくるメロウ様のファン。彼にはハッピーエンドを迎えて欲しい。
「………………どうせ、すぐに思い出す。」
私は転生しているから記憶がないし、戻ることもないと分かっているけど元のシシアを知っていればメロウ様のように考えるのも理解出来る。
「それなら今のうちに離婚した方がっ!」
「もう喋るな。」
「――っ!」
両手首は再び魔力の輪で拘束され、輪とベッドボードを魔力の鎖で繋がれてしまった。
両手はバンザイをしたよう姿になり、全身が露わになったまま、身動き一つ取れない。口にはメロウ様の指が入ってきて舌を弄ばれた。
「離婚はしないし、お前は精霊にする。」
なんで――!?
「その化けの皮剥がすなよ? そうすればより中に注いでやれそうだ。」
メロウ様の瞳を弧に曲げ、笑っていた。
(そそ、ぐ………?)
顔が真っ赤になるのが分かる。
嫌だ、そんなの望んでないのに!
涙で滲む視界。肌をすり抜けていく下着。
鎖が擦れる音と艶かしいリップ音が室内を満たす。
「うぅ――っ!」
メロウ様の指先は優しく全身を駆け抜けて、私を甘く溶かしていく。
「お前はそのまま俺に身を委ねておけば良い。」
漏れる吐息と滴る汗を直視出来ず、ギュッと目を瞑ると甘く痺れるような感覚が全身にかけてゆくのを敏感に感じた。
「俺の名前を呼べ。」
「…………メロウ、さま。」
名前を呼ぶとメロウ様は時々笑って私の肌に顔を埋めていた。そこからは朧げで声はすぐに枯れてしまい、何度も何度も打ちつけられた腰の重さを感じながら白んだ空を横目に意識を手放した。
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底辺作家脱却を目指してます!!
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