プロローグ
新作投稿始めます!
よろしくお願いします。
扉が開く音がした。
今日もメロウ様が部屋にやって来た。
「シシア、元気にしていたか?」
彼の問いに私は小さく頷く。
「そうか。良かった。」
メロウ様は持っていた晩御飯をテーブルに置き、微笑む。海のような青い瞳が弧を描き、中性的な美貌により拍車がかかった。
どうやら今日は機嫌がすこぶる良いらしい。
(今なら、私の願いを聞いてくれるかもしれない。)
「…………外に、出たいの。」
「なぜ……?」
懇願を口にするとメロウ様は首を傾げて不思議そうな顔をした。一呼吸おいて「まさか」と地鳴りのように低い声を上げた彼の顔は怒りに満ちていく。
(これ以言葉を紡ぐのは危険だ………。)
「シシアは俺のモノだろ。それとも、俺以外の男に会いに行きたいのか?」
彼の青い瞳が濃くなり紺色に変わっていく。
「シシアから他の男の匂いと魔力の残り香がするなんて考えただけで気が狂いそうなんだが。」
彼の翡翠の長髪が魔力に当てられて膨らみ、揺れる。
「……それでも、外に出たいの?」
落ち着かせないと、恐怖より先にそう思って首を横に大きく振って否定した。
「なら良いんだ。」
取り巻いていた魔力が収まり、メロウ様は満足そうに笑ってこちらに歩みを進める。
コツコツと、部屋には彼が歩く靴の音と鎖が擦れる金属の音が響く。やがてベッドサイドで立ち止まったメロウ様が愉悦の笑みを浮かべ、見下ろす形で私の顔を覗きこんだ。
「じゃあ、始めようか。」
その言葉で今から始まる行為を想像した。
(逃げなちゃっ!)
咄嗟に逃げようとベッドから飛び起きたけど、簡単に捕まってしまう。原因は右足首に巻かれた鎖だ。
「キャッ………!」
彼が鎖を引っ張ったせいでベッドにうつ伏せの状態で倒れ込んでまった。痛くはない。でも背中が大きく開いたこの服のせいで彼を喜ばせる結果になってしまった。
「あらら、小さい羽根がこんにちはって言ってる。」
私の背中にはメロウ様と同じ、精霊の羽根が生えつつある。彼はそれがどうしようもなく嬉しいらしい。
「かぁいいね。」
愛撫するように羽根の付け根を優しく触られると身体がびくんと反応した。そして後から全身に甘い痺れが走る。
「俺たち精霊は羽根の付け根にも性感帯があるから、ここ気持ち良いだろ?」
甘い吐息が漏れた。
「や……めて……」
「なんで? 絶対にやめない。まだ自分は俺に相応しくないとか思ってるのか?」
羽根の付け根を撫でる手が激しくなる。
身体は心とは関係なくビクンビクンと波打つ。
どんどん身体に力が入らなくなっていく………、
「もう決めたんだ。どれだけシシアが自分を否定しても関係ない。君を俺の妻にするよ。」
服の中に熱を持った彼の手が入ってくる。
もう、抵抗する力も出ない。
「さあさあ、身体を作り変えていこう。あと少しだから、頑張って。」
「おね、がい……許、して…………」
「そんな可愛く言っても駄目だよ。ほら、これ飲んで?」
口元に近づいた彼の手には、いつもの薬が握られていた。
「い、嫌ぁ……っ!」
その薬は飲みたくない。馬鹿になっちゃう。
理性を振り絞って彼の手を拒み、口をつぐんだ。
「可愛いけど、ちゃんという事は聞きなさい。」
彼は笑いながら私の羽根の付け根を舌で舐めた。「キャッ」と小さな悲鳴と共に開いた口に素早く薬が放り込まれた。更に彼が私の口を手で塞いだせいで、薬を吐き出す事も出来ない。
「ちゃんと飲み込んで。」
「うゔ、ぅー……。」
彼は薬を飲み込むまで何時間でも待つだろう。
唾液で溶けた薬を身体が勝手に取り込み始めるまでずっと。ずっと待つだろう。
彼はそういう人。
それを深い愛情だと言ってのける歪んだ人。
でもきっと、彼をそうしてしまったのは私なんだ。
――ゴクン……。
「ちゃんと飲み込めて偉いね。」
喉を通る異物が、溶けていく……。
「今日の薬は早く身体を作り変える成分と一緒にいつも以上に気持ち良くなれる魔法を掛けておいたんだ。」
こんなつもりじゃなかったのに。
彼にはただ、純粋に幸せになって欲しかった。
悪役の私とじゃなくて、本物のヒロインと。
「すぐ効いてくるから……。」
彼は慣れた手つきで私の服を剥いでいく。
触られた部分が熱を帯びる。
甘い………
彼の声も手も吐息も全部、甘い。
「愛してるよ、シシア。」
彼は綺麗に口角を上げると、頬をそっと触り長いキスを落とす。彼の体重がのるたびに触れ合った部分が熱くて溶けてしまいそうで、
「俺の愛を受け止めて。俺と永遠を一緒に生きよう。」
「……っ。」
口に広がる唾液すら甘い。
こんなのダメなのに。
早くヒロインに彼を渡してあげないと。
理性が、思考が、溶けていく……。
「精霊の寿命は長いから。シシアが俺を好きになってくれるまで幾らでも待ってるよ。」
ダメ、なのに、
私は悪役、だから…………
「身体を作り変えてからじっくりゆっくり愛を育んでいこう。それだけの時間が俺たちにはある。」
あれ……、なんだっけ…………?
「楽しみだ。シシアもそうでしょ?」
「ハァー……、ハァー…………」
「ああ、もう聞こえてないか。」
「……あっ……んぅ…………もっ、とぉ」
「もっとキスしたいの? いいよ。」
ふわふわする……。
気持ちが、いい。
「ね、俺の名前を呼んで?」
こんなに執着し、溺愛してくる彼を嫌いになれない自分がいる。
彼の言葉一つ一つに身体が喜んでしまうの。
足首に噛む鎖が厭らしく音を立てている。
その音すら、心地良い。
もういつからこの部屋に居たかも覚えてない。
彼から逃げたいなんて思えない。
良い加減、認めないといけないのかも……。
「メ、メロ……ゥ。」
名前を呼ぶだけでこんなにも満面の笑みを浮かべる美しい彼に溺れ始めている。
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底辺作家脱却を目指してます!!
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