第九話 星が歌う、祭りの本番
「……リート」
気持ちのいい朝、鳥のさえずりが窓を通してよく聴こえてくる。
目が覚めベットから起き上がり机に置いたブラシを手に持ち、ベットに座りながら髪や尻尾の寝ぐせを直す。
終わったら、私服に着替えようと思い、クローゼットに向かう。そんな時
「キュウ!おっはよー!」
毎朝同じタイミングでドアを開けてくるクーが挨拶をしてきて木にとまっている鳥が驚いて飛んでいく。なんてことのない普通の日常。
「はぁ、お嬢様、一回そこに座ってください」
クーをベットに座らせ寝ぐせを直す。
「ねぇキュウ、今日さ今日さ買い物行きたいから付き合ってよ」
クーの綺麗な髪を整えながらクーの質問に答える。
「別に構いませんよ」
「やったー!」
クーが喜び笑顔を僕に向け、寝ぐせを整えたらクーは急いで部屋を出て自分の部屋に戻っていった。その様子を見て僕はほんの少しだけ微笑む。
___一時間後
「キュウ早く早く!」
下町の商店街他の国の文化や自国の文化の食べ物や洋服などがずらりと並んでいる。小さな子供たちが走り回り、香ばしい匂いが商店街を包んでいた。
クーは短い白のシャツと赤色のスカート着ていて、クーの黒い髪がより目立っている。僕は長袖のシャツと黒のズボンを着ていてこれといって珍しい恰好はしていない。
「キュウ!あれ食べたい!」
クーの姿に見惚れていたら、クーが腕をつかんできてシュー・・・クリーム?という聞いたことない名前が書かれている看板を指さして言った。
「…いいですよ」
自分の魔物の皮を使って作った財布の中身を見ながら所持金を確認する。後で経費で落としてもらおうかなと思いつつお店の方に向かう。
「このカスタードシュー・・・クリーム?っていうのを二つください」
お店の前に立ち、人気一位と書かれているカスタードシュークリームというの頼んでみた。
「銀貨二枚と銅貨五枚です」
お金を出し、商品をもらいクーが座っているベンチに向かった。
「買ってきましたよ」
クーの隣に座り、袋を開けた。
「うわーおいしそう!」
袋から一つクーがシュークリームを取り出すとかぶりついた。あたりにカスタードのいい匂いが広がる。
「甘くておいしい!」
それは、クーがシュークリームを食べ口にクリームつけながら出した感想だった。
「口にクリームついてますよ」
僕はクーの口に指を付けクリームを取った。クリームが付いた指をクーはぱくっと食べた。
「おいしい!」
「はしたないですよ」
何事もなかったかのようにクーは僕の指から口を外しシュークリームの続きを食べ始めた。
その行為にほんの少し、本当にほんの少しだけ顔を赤らめて指摘し、指をポケットから取り出したハンカチでふく。
「キュウも食べなよ」
「僕は甘いものが苦手なので、残りも食べていいですよ」
「ふーん、ならもう一個もいただきます」
クーが袋の中にあるもう一個のシュークリームに手を出した。それも平らげ袋をアイテムバッグに入れ、ベンチから立ち上がり買い物を再開した。
___数分後
商店街を歩いていると前から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「こんなところで何をやっているんだ」
セロナの声だ。
「買い物だよ買い物!セロナこそそんなに袋をもって何をやってるの?」
セロナの服装はいつもの制服だが腕に複数の袋を抱えている。
「明日の祭りのくじ引きを引くためのと魔法の練習用に買っているだけだ」
明日の祭り?・・・・・・あぁそういや明日星歌祭の日かと思いつつ二人の会話の様子を見守る。
「祭りって明日何かあったっけ?」
クーが頭をひねりながら何かあったかと考える。そんな様子にあきれて言葉をかける。
「星歌祭ですよ。お嬢様。覚えてないんですか」
「えっあぁも、もちろん覚えてるにきまってるよ」
嘘だな。汗かいてるし目が泳いでるもん。
星歌祭は二年に一回ある祭りで当初は星に歌を届けるという名目で開催されているらしいが星に歌を届けるって何なんだろうなと考えながら、いつも参加している。
その中でもくじ引きは人気で確か銀貨10枚の物買うと一回引ける紙がもらえるんだっけ。
「その星歌祭で今年こそはくじ引きで一等を当てるために買い物をしているんだよ」
「えっ私もくじ引きしたい!キュウ引ける紙何枚ある?」
「今のところないですね」
財布の方をクーも確認するが一枚も入っていない。
まぁそんなものはこんな分かりやすいところに入れるわけないけどね。自分で引きたいし。
「残念。けど明日までに沢山買えばいいんだよね!」
クーはそういうと、僕とセロナを後にして商店街を先に走って行った。
「苦労してそうだな」
「そうですね。いつも苦労していますよ」
セロナが苦労してそうだなという目を向けこちらを見ていた。
「引く紙がないってのは嘘だろ。本当は何枚あるんだ」
「秘密ですよ。それではこれで失礼しますね。」
セロナとの会話を終わりにしてクーの後をついていく。
__翌日の夜
「おぉこれが星歌祭いろんなお店があるね!」
クーが綿あめとりんご飴を両手に持ち食べながら周りを見ている。
夜空に星がまんべんなく移り普段の夜の町からは信じられないほどの明るさが星の足元で渦巻いている。
「4時間後に歌姫のライブがあって祭りが終わるんですか」
思ってるより短いなと二年前も同じくらいだったけそんなことを思いつつ出ている店を回る。
「あっセロナだ!おーい!」
りんご飴を持っている右手を振りながら何かを買っているセロナに話しかける。その声に振り向きいちご飴をなめていた。
「クーガか相変わらずうるさいな」
自分の時間を邪魔されたのが嫌だったのか不機嫌な顔になっていた。
「これからくじ引きに行くのだがキュウクたちも来るのかい」
「今から行くところだよ」
クーが元気一杯に答え、くじ引きをしに行くことになった。くじ引きをするところはここから反対方向の歌姫が歌う広場を通ったところにあって、そこまで歩くことになった。
広場の中央のステージに誰かが立っていた。
「あっあっマイクテストマイクテストちゃんと聞こえてますか」
歌姫なのかなと思った。歌姫なのに男なんだと疑問が浮かんだ。だが、その考えはすぐに否定する。
ステージの後ろをよく覗くと二人の兵士が血を首から流して倒れているのが見えた。
「お嬢様、セロナふせて!?」
それと同時に
「えーでは星歌祭本番といきましょう」
声のトーンが下がり、その場にいる者の動きを委縮させる。ステージにいる男の手が空を切った。
半径二メートルにいた他の兵士の首がはね地面に血を吹き出しながら地面に転がる。僕とクー、セロナはかろうじてしゃがみそれをかわした。
「今ので死ななかったか、哀しいな哀しいよ哀しいよな」
周りの魔族たちはみな兵士が殺された場面を見て、悲鳴を上げ逃げ始めている。今までの楽しい明るさが一瞬にして塗りつぶされ悲鳴が聞こえてくる。
僕たちが元からいた場所では他の場所とは別の不気味さを感じる。
なぜか全員こんな状況で仲良くとある女性を見ている。
「キュウク、クーガこっちは任せたぞ」
その不気味さにセロナがいち早く反応し行動を始める。
「なんで僕に向かってこないかな、哀しい哀しいよ」
男は白々とした肌をしていて青色の目をしており、吸血鬼の特徴の牙をしていた。
「だれですかあなた」
「おっと、君は逃げないのか。逃げない君が死ぬのが哀しい哀しいよ」
男はこちらをしっかりとみている。油断でもしたらすぐに殺されるそんな空気が空間を支配していた。
「僕の名前はアイン。哀しいね僕の名前を聞いてくる勇敢な君が死ぬのが。哀しいよ哀しいだろ」
星が赤くなり、楽しいはずの星歌祭が地獄のような祭りになり果てる。