第八十話 撤退と激昂
大通りよりかは人気のない場所へ抜け出したその少女は周りを見回した。
全員が敵、外のもの、あの方に従わないものは皆、敵、そんなことが脳を何度何度もめぐる。
「おいたが過ぎたな、お姫様」
「ひいっ!? フ、フリートさん……」
そんな少女の後ろにネルト教団の文様が描かれた黒皮のマントを頭から顔が見えないように垂らしている男性__フリートがもとからそこから居たかのようにライフルを肩にしょって現れた。
少女の肩を触れたその手はとても冷たく、体温がないようだった。
子鹿のように怯える少女をフリーとは優しくなだめるように口を開く。
「さ、家に帰るぞ。大丈夫だ、姫様の好きなドーナツも用意してある」
「う、うん……勝手に逃げ出してごめんなさい」
姫と呼ばれるその少女はフリートの手を握る。
やはりその手のひらは冷たく、命を静かに刈り取ってしまうような冷たさ。
「世界に救済を」
姫を見下ろすフリートは静かにつぶやいた。
殺意をフードという仮面で覆い隠しながら。
◇◇◇
「コロスゥ!」
直後、いきなりゲラルは大振りに空に掲げで二本の青竜刀を僕たちめがけ振り落として来る。
僕、ハザードはそれぞれそれを身体を左右にそらして躱し、呼吸が重なるかのように隙が生まれたゲラルの背中に拳を勢いよくぶつける。
直後、ガンッ! という音が響き渡る。
「かったっ!?」
「……」
拳を襲った衝撃はまるで鉄の塊を殴ったかのような痛みだった。
ゲラル、バカにならねぇ硬さしてる。
様子を伺うため一度後ろに距離をとる。
「ケケケ、オレ、ツヨイ!」
起き上がったゲラルの表情は僕には理解できなかった。そう思えるほどに狂気に満ち溢れた笑みだった。
どうにかしてあの硬さを突破しないとか。
となれば、あの刀を……いや冷静になれ、あれを無闇に使っとして途中、決定的な隙が生まれたらハザードに守られる。
それだけは避けなくては。
絶対! 何が何でも!
「……」
「ハザード!?」
ひとまずハザードの出方も見るため視線をずらすとなにかを悟ったのかゲラルではなくリグスの方に向かっていった。
「……っ」
「あらあら、強くってねぇ」
振りかざした拳はリグスの手により幾重にも重ねられた鎖により防がれた。ハザードは特にこれと言った反応を示さずに……呼吸を整えていた。
「……」
「なっ!?」
銀バッタたちで視界を覆い尽くしその隙にリグスの後ろに回り込み肉眼では見えない遠く前で蹴り飛ばした。
ハザードは身体を空で回転させながら僕のすぐそばに着地し小さな声で僕に囁いた。
「よくて10秒だ。あの硬い身体どうにかしろ。さっき使った蝗害よ喰らい尽くせはあと5分だけほしい」
「了解です。じゃその間……」
「残念だが守られるつもりはない。というかすでにお前の方が守れ……」
「なら、あいつの硬さぶち破ればチャラですね」
やりたくないが『破壊』を使う、イメージ的には『破壊』を拳の薄皮一部分にだけ付与するように流し込む。
もしくは弓矢の先端。
時間は多少食うが不可能ではない、問題はゲラルの動きだが……警戒しているのかなかなか攻めだしてこない。
ならば、こっちから攻める。
「はっ!」
「ナッニ゙ィ!?」
弓矢を先に放つ、がそれは青竜刀で簡単に弾かれる。ただ、その青竜刀は見るも無惨なヒビが先端から入りそのまま塵となり壊れた。
「はぁっ!」
「ゴバァッ!?」
油断をさらけ出したその隙に『加速』を使いゲラルの懐まで急接近し力強く腹のど真ん中に拳を打ち込む。
ゲラルは血反吐を吐きながら屋根に膝を落とした。
「ハハッ、ハハッ、ハハハハハハ!」
「何がおかしい?」
すると、ゲラルは突如として不気味に高笑いを叫んだ。
「もういい、もういい、俺達は役割を果たした! 姫様は逃げ切れた!」
「まさか?!」
「なるほど、確かにどこにもいない。しくったか」
こいつらはあの少女__姫様を逃がすことが目的で僕らを倒すことは第一目的ではないんだ。
ハザードも同じことを思っているはず。
「だから俺達は離脱する!」
身体を立ち上がらせ発した言葉通り逃げようとするゲラル。
逃さない、もう一度殴ってその後に捕まえて情報を吐かせる。
「逃がすか!」
「止まれキュウク、10秒だ!」
踏み出したその瞬間、ハザードの声と共にいくつもの鎖が天より襲ってきた。
「チッ!」
らしくないが強く舌打ちをしながら襲い来る鎖を身体をそらしたりしてすべて避けきり後ろに下がる。
「これを躱すとは……!」
鎖の先には先程ハザードにより蹴り飛ばされたリグスがいた。
「また、また会おう! その時こそ全力で殺す!」
「「!?」」
煙幕!? 白い煙が目の前いっぱいに展開し視界が最悪になる。
逃げていていく足音だけがいくつも聞こえる。なんだ、これ?
いや、それよりも早く追わなくては。
再び『破壊』を使用、この煙幕を壊す。
拳は空を描き煙幕はきれいなまでに霧散する。
「くそ、逃げられた」
すでにそこにゲラルとリグスの姿はなかった。
「まぁいい、一度戻るぞ」
「いや、追いかけます」
あの少女のことが気がかりだ。
なにか手を伸ばさないと後悔する気がする。
「気持ちは理解しているが駄目だ。ここは一度ガラとやらに情報をもらったほうがいい」
「ですが、あの子を放っておくにはいかない……!!」
「いささか、感情的になりすぎだ。いいか、今あのように生かされてるということは最低限やつらが殺す可能性は低いんだ。それにこれ以上無闇突っ込んで返り討ちにされた方が問題だ。クーガやセロナが心配する」
「でも……!」
「じゃあなんだ! お前は知っているやつより今日出会った見ず知らずやつを優先するのか?! 違うだろ!?」
「ハザっ!? ……分かりました」
珍しく、というより初めてみたハザードが激昂している。
反論する気など起きるはずもなく僕はハザードに従いガラ達の方へ戻ることにした。




