第七十三話 変な気配
キュウクたちがサーペントに向かうことになることになる日より少し前、神々に反逆する者本拠地の一室にて優雅に椅子に座りフリフリの真っ黒なミニスカを履いて薄い紫を基調に白と銀のラインが入ったロングコートを羽織っているリリスがいた。
またそのリリスの斜め後ろにトリガーが壁にもたれかかるように立っている。
碧を基調にした長袖の軍服に身を包み両腰に皮でできた長方形型のホルダーを掲げている。
そんな部屋の扉を開けきっちりとした白衣に身を包んだアジサイがティカップ一式を置いた皿を持って入ってきた。
「リリス様は紅茶でいいですよね?」
「別にそれでいいよ。‥‥‥しっかしアジサイちゃん割と似合ってるねぇ」
「どうも、しつこいですがあなたはこちらに味方してくれるということでいいんですね?」
カップにゆっくりと紅茶を淹れリリスに差し出す。
「うん、ま、そうだね。少なくとも邪魔だけはしないよ。トリガーもそれでいいよね?」
「あぁ‥‥‥」
リリスは後ろに振り向き紅茶を飲みながらトリガーをニヒルな瞳で睨みつける。当然トリガーに頷く以外の回答はなかった。
「これからリリス様はどうするおつもりですか?」
ほんのりと湯気を上げる紅茶を口に運びながらリリスに問いかける。
「リカが持ってた神殺しの『変化を促す者』でも探しに行くよ。それがあれば君たちのしたいことは多少は楽になると思うよ」
「変化を促す者‥‥‥あぁあれですか。それを使ってそこに以前手に入れた『命の車庫』を使えばあれが可能ですかね?」
「さぁね、普通なら可能と言えるだろうけど器の片方が【存在してはいけない者】だしもうもう一方のクーガって子は私でもよくわからないし。‥‥‥さて、とトリガー行くよ。ほら整えて」
「どこにだ?」
カップを机に置きミひらりとニスカを揺らしながら席から立ち上がるリリスの服を整えながらトリガーは問う。
「前に適当に作ったネルトの様子を確認とあと少し気になる知り合いに会いに行こうかなって」
「知り合いですか? もしかしてですかリヴァイアサンでは?」
アジサイも自身で作ったドンに身の回りの世話を放り投げつつリリスと向き合った。
「そうだよ。なんかようでもある?」
「そうですね‥‥‥できればリヴァイアサンの血を採ってきてくれますか? ポンペイとジパングは回収できてるので」
「なるほど竜の血ね。オッケーオッケーアジサイちゃんの頼み事ならなんでも聞いてあげるよ」
「‥‥‥」
誇らしげで気さくな笑顔を浮かべるリリスにトリガーは内心辟易しつつも表には出さないよう心がけ無言でリリスの髪をクシで整えている。
アジサイはどこか見た目通りの幼い子どものような微笑みを一瞬浮かべたがすぐに思考を切り替え真剣な眼差しを向け感謝を述べる。
「ほんと毎回ながらありがとうございます、リリス様」
「そういうのいらないって。ま、私としてはその指輪の仕組みが結構面白かったから君といることにしたからね。‥‥‥んじゃトリガー行こうか」
「あぁ了解したリリス様」
部屋を去っていくリリスの半歩後ろにつくトリガーの背中姿をアジサイはするどい獣のような目つきで――
「悪魔にしてはどうも変ですね」
とおとぼけているようにも聞こえる声で発した。
◇◇◇__現在に戻る
ミストの分身体はサーペントの人混みの隙間をヘビのように通り抜け駆け回っていた。表向きは偵察裏の自分自身の目的は三つ美味しいもの探しと街全体の構造の把握。
そして最後の一つはのんびりと一人になれるような過疎っている場所。
望むならベンチがありつつ日差しがわずかに差し込むような木が埋まっている場所だが最低限日が当たる場所なら問題ない。
自由に広大な青空さえ見られるのならどこでもいいと思いつつ分身体は街を駆け抜けていく。
「ん? だんだん人が減ってきたかな?」
街外れに近づいていくうちに人混みが若干だが減ってくる。微々たる差でもあるが周りの景色が見やすくなるのはありがたいと考えていると隙間から一つの宿屋が見えた。
【ウォータニング】と目をこすらないと見えないくらい薄く霞んだ文字で書かれた看板が掲げられており特段代わり映えのしない普通の宿屋だがいかんせん足を止めた。
なにか足を止めてしまうような魅力があって入らないと行けない責任が本能的に感じる。
「船長‥‥‥?」
ゆっくりと宿屋に歩んでゆく足を止めるように近くから凛とした声が耳に響いた。ふと振り向くとそこにはベル・オルカが驚きや困惑が混ざりあったような表情でこちらを見ていた。
当然ミストとベルに接点なんて皆無であり姿どころか名前すら知らず分身体自体人違いだろうしそうじゃなくてもめんどいことになりそうだ、と判断しわずかながら名残惜しくもその場をあとにする。
「待ってくれあんたはなぜここにいるんだ‥‥‥!」
去っていく中、まだ聞こえる知らない誰かの声にうんざりとし速度のギアを上げていく。路地裏が見えチャンスだと思い右折してから行き止まりのところにたどり着き霧となって霧散した。
「っ、一体どこに」
少し遅れてからベルは路地裏の行き止まりについた。すでにそこにはなんの気配もなかった。
「はぁ‥‥‥はぁどう、したんですかベル様?」
またもう少ししてから全速力で走ったのか息を切らしながらラサが杖を支えにして現れた。
「‥‥‥間違いじゃないのか」
そんなラサを横目にベルは一言呟いた。




