第六十九話 海の街へ
「あっセロナさんだ! やっほーです」
「おっミストか」
約三か月が経ったある日のお昼すぎ庭でタンクトップを着ながら筋トレをしているセロナに声をかけた人物が現れた。体格に見合わないダボダボな灰色のトレーナーを着たキュウクの眷属の一人ミストだった。
「仕事が一段落しましたのでキュウク様からの命令でデザ兄たちより先に来ました」
「そうなのか。‥‥‥所で荷物はないのか?」
特段驚く様子を見せないセロナが気にしたのはミストの荷物のなさだ。小さいバックすら持っていなくそれどころかトレーナーのポケットにすら何かを入れたような形跡はなかった。
となれば空間魔法でしまっているのか。
否。
ミストは眷属の中でも特に魔法全般の魔力消費の燃費がバカみたいに悪いためずっっと魔力を垂れ流しそこにものをしまう空間魔法【空間鞄】は使えない。
というか常時使っているクーガやキュウクたちがおかしいだけとも言える。空間魔法空間鞄を応用して実物の鞄にアイテムバッグでありこちらは魔力を少し入れるだけで使用可能でいわゆる電池式なのだが今は関係のないことである。
「あっいえいえ、ちゃんと持ってきてますよ。あるバカが」
「ん?」
ミストの言葉にセロナは首をかしげた。その疑問はすぐに解消されることとなる。
「待てやごらぁっ!!」
ミストの後ろから大声で紅蓮の髪に燃えるような赤い瞳、大きなバックを二つ背中に持っている少年がセロナたちの方に走ってきた。
「えーじゃんけんで負けたくせに文句言わないでくれますぅー」
煽るような態度でミストは口に含めている飴玉をかじりきった。
「てめぇあれはどうみても後出しだったろうが!」
「知らない知らなーい。アクセルが負けたのが悪いんだよ」
「ざっけんなっ! アホミスト!」
少年__アクセルは荷物を降ろし怒りを浮かべながらミストに襲い掛かる。
「ばっ誰がアホだ!?」
青筋を浮かべミストは襲いかかるアクセルにつっかかる。二人は犬猿の仲という言葉が似合うくらいなにかと理由をつけるとすぐに喧嘩をしてしまうほどである。
珍しく眷属の中でも同じ年頃でもあり能力的にもどちらが強いと断言出来ないのも原因なのかもしれない。
「あっもう来てたんですか」
「キュウクか、皿洗い終わったのか?」
「えぇ色々と」
家の方から出てきたのはキュウクだった。昼食の皿洗いを済ませデザイアから報告を受けて本日先まずにミストとアクセルが来ることを知らされていたためその準備をしていたが想定より二人が来るのが早く急いで残っていた掃除を終わらせこちらに駆けつけた。
そんなキュウクだが喧嘩をしている二人に近づき重々しい面で二人の頭をがしっと掴む。
「迷惑かけるなバカ二人」
「ちょっキュウク様止めないでください!」
「そうだそうだ止めるなキュウの兄貴!」
「黙れ」
メリメリと掴んでいる力を強くしていく音が聞こえてくる。セロナは若干ながら驚いていた。そんな力を隠していたのかと。
「いたいたいいたい! ギブ! ギブです!!」
「あだだだだd!?」
ミストは掴まれているキュウクの腕を軽く何回か叩きアクセルはなされるがまま握りつぶされそうになっていた。
「キュウク離してやれ」
「はぁわかりました離しますよ」
流石に哀れに思ったのかセロナがキュウクに話すと仕方なく二人の頭部から手を離した。
「死ぬかと思った」
「ああまじであの世が見えた気が」
「なんでデザイアはこの二人送ってきたんだ。まだウェザーの方がましだろ」
天が地上へ日を照らす中頭を抱えるキュウク、そんなキュウクを苦労してそうだなとどこか遠い目をしながらセロナがいた。
「あっそういやキュウク様、クマラ様から一つ伝言を承ってます」
「は?」
キュウクは更に頭を抱える事となった。伝言の内容は何かの仕事を任せられるんだろうというのは分かっているし別に構わないのだが問題なのは何かを理由に任されることだ。
最近は特段悪いことはしておらず思い当たる節が浮かばず考えていた。
「えっとですね。『生活にも慣れてきた頃だろうし海の街【サーペント】にいって楽しんでこい』とのことです」
「え? それだけ?」
「はい! それとこの家の警護に関してはスチラー家が手配してくれるそうです」
キュウクは唖然としていた。あのお父さんが?という疑問が浮かんでいた。
「サーペント‥‥‥サーペントか」
一方のセロナはというと別のことで頭を抱えていた。
「どうしたんですか?」
「サーペントって確かオルカ家が管理している場所だよな」
「ええそうですね、どうかしたんですか?」
【サーペント】別名を海の街とも呼ばれる街は700年前に突如として頭角を現してきたオルカ家が管理している街であり元は荒れたならず者たちが集まるところを現オルカ家当主ベル・オルカが立て直した街である。
「いや少し面倒な知人がな。会わないと思うが」
「? まぁ詮索はしないですが‥‥‥なぁミストそれならお前たちが来ることなかったんじゃ」
「あいえ、私とこのバカは護衛兼連絡係らしいです」
「らしいって‥‥‥って別に連絡は念話でも問題なくないか」
ジパングでもなんとか届くのでそれよりは近いサーペントくらい連絡に問題はない。
「いやそれもそうなんですけど何かクマラ様から指名されまして。なんなんでしょうね」
「僕が聞きたい」
ミストと一緒に思考を巡らせた。キュウクは考えても仕方ないと思ってすぐにやめることにして無駄だと思うがセロナに意見を聞こうと振り向いた。
「はっは強いなお前!!」
「うおっ強っ!?」
殴ったり蹴ったり手加減してはいるんだろうがセロナがアクセルと模擬線らしきことをしていた。
「「‥‥‥はい?」」
目を離した一瞬でセロナとアクセルが戦っていることに脳が追い付けずミストとともにとぼけたような声が出た。
「(えっちょっキュウク様セロナさんとバカは何やってるんですか!?)」
「(いや分かんないって!? ミスト、お前止められる?)」
手で口元を隠しひそひそと近くによったミストと話し合う。
「(ばっ無理言わないでください! 私か弱い美少女ですよ!? キュウク様が止めてください! めんどくさい事したくないです!)」
「(か弱いやつは自分でか弱いって言わないわ! 飴玉あげるからいってこい)」
そういってキュウクはポケットから飴玉を一粒取り出してミストの片手に握らせた。ミストは恍惚な笑みを浮かべたがはっとしてから顔を横に振った。
「ば、買収しようとしないでください! まぁ貰ったものはいただきますが」
「おまっ返せ!」
ときすでに遅しというのはこのことだろう。キュウクが飴玉を取り返そうとしようと判断する一瞬でミストは普段からは到底見られない速度で飴玉を口の奥にまで運んでいた。
いつもどこに隠してるんだその速さ!?と心底キュウクは呆気に取られながら思っていた。
「やっぱうまぁ」
「チッ渡すんじゃなかった」
頬を抑えコロコロッと飴玉を転がしながら喜んでいる表情を浮かべているミストに舌打ちをした。これに関してはこちらにも非があるので諦めるしかないと判断しキュウクはため息を吐いた。
「喰らえ、二撃大砲!」
後悔をし喜んでいるミストを横目にセロナとアクセルの方を見ると一度アクセルが距離をとり右拳で二撃大砲という技を放っていた。
二撃大砲、確か相手にぶつかったタイミングで『加速』を発動し勢いを失っていく拳をもう一度相手にぶつける二回連続の技で大抵の相手には所見は決まりやすい。
うんまぁだが頭の切れる相手僕のお父さんなどにはアクセルの技名などから対策されるしそもそも強い例えば魔王キド様、王妃キキ様あたりだといとも容易く防がれる。欠陥があるといえば欠陥はある。
「ッ! なるほど」
「えっまじ?」
二撃大砲に少し驚いた様子を見せたと思ったら顔面に受けるギリギリでガッチリと手で受け止めた。
決まった、という自信満々なドヤ顔をしていたアクセルの表情がどんどん崩れていく。
「いっ‥‥‥いだだだだ!?」
「おっとすまないな」
そのまま手首があらぬ方向に曲がろうとした瞬間アクセルが悶絶した声を出しセロナが謝りながら手を離した。
アクセルが座り込み自分の手の様子を確認していると奥からクーガとカリが出てきた。
「アクセルじゃん! やっほー!」
「クーガの姉貴!」
クーガとアクセルが目を合わせるやいなやお互いどちらも近づき両手でハイタッチを交わした。アクセルがクーガを姉貴といい親しんでいるのは昔一度半殺しに近いほど殴られたこと経験があるからである。
「えっとどういう状況なのかな‥‥‥」
反対にオーバーサイズの白衣を上から羽織り腰に何本か試験管をぶら下げているカリは困惑していた。それはカリだけミストやアクセルなどのキュウクの眷属たちについて聞いていないこともあるがそれ以上にただ混乱したという。
「実はですね‥‥‥」
◇◇◇
「なるほどねー‥‥‥ってええサーペント!? えっマジ、サイエン家のボクも?」
「らしいですね」
キュウクから話を聞きカリは開いた口が閉じなかった。
「面白そう!」
逆にクーガは目を輝かせていた。
「じゃあさじゃあさ早くいこうよ!」
「いや準備とか考えたら良くて明日に」
「あっ‥‥‥」
目を輝かせ今にでも行きたそうな様子がキュウクの一言で足を止めしょんぼりしながら振り向いた。
「えぇしないとダメ?」
「はい」
げんなりとした表情を浮かべているクーガにカリやアクセルが近寄る。
「まぁまぁボクも手伝うからさ一緒にやろう!」
「そうだぜ俺も手伝うから!」
背中を優しく叩きながら励ましているカリとアクセルを見ているキュウクとセロナはというと。
「あいつら止めるぞ」
「えぇもちろん」
静かにクーガやカリたちを縛る用の縄を用意していた。そう二人は分かっていた。絶対にろくなことにならないと。
残されているミストは。
(ああ早く終わりませんかね。ねむっ)
呑気にも先ほどもらった飴玉を舐めながらあくびをかき目をこすっていた。
「楽しみー!」
そんな仲、クーガは太陽と同じくらい明るい笑顔で笑っていた。
「ですね」
キュウクもまたため息をつきつつ微笑みを浮かべた。




