第六十四話 序章が終わる
学院での戦いから一か月、魔王国では様々なことが起こった。
まず一つ、サイエン家の新当主及び取り壊しである。時は少し前に遡ることとなる。
◇◇◇
約四週間前、スチラー家やバラク家を含む魔王国の中でも生粋の名家である七つの名家七名家の当主と魔王キド・ブラシエルの会議が魔王城の大広間にて開かれていた。
赤と金を基調とした魔王に相応しい荘厳な見た目の椅子に堂々と座る魔王キドの右にはスチラー家当主クラマが立ちながら学院での被害などが書かれた資料を読み上げていて魔王キドの左にはバラク家現当主ユミク・バラクが座っていた。ユミクはセロナの一番上の姉に当たり96歳という平均寿命が800から700程度の魔族にしたら先日までは最年少の若さで当主になりつめた女性である。
そしてクラマの隣には紫ロングでシャチのような黒と白の尾を持つ女性が静かにまぶたを閉じ青色の柄の剣を腰に構えているオルカ家当主ベル・オルカがおり、その隣にこの中で最も年長者で白髪のオンコ家当主・グレント・オンコが座っていた。
また、ユミクの隣には白鳥のように真っ白な羽をもち眼鏡をかけた見かけだけなら少女にも見えるワイス家当主イズラ・ワイスが、またその隣に大剣たずさえた筋骨隆々な身体で虎の尾があるランド家当主エンバーズ・ランドが座っていた。
そして、魔王キドと向かい合うように反対側に座っていたのが先日サイエン家当主となったカリ・サイエンが無言のまま椅子に座っていた。
「――以上が先日学院で発生した事件の被害とサイエン家の現状となっております」
クラマが資料を一度一通り読み上げ一礼をしたあと席についた。
「ふむ、なるほどのう、帝級の悪魔と。それは事実なのかな? クラマくん?」
グレントが己の髭をなでながら口を開いた。
「ええ、レインからの情報でしょうし信頼は出来ますグレント殿」
「ほっほぉなら大丈夫じゃな」
今回の議題、それはこれからサイエン家をどうするか、現在サイエン家で生存が確認できているのはカリだけでありほぼ大多数のサイエン家の者は悪魔の襲撃によりなくなったと考えられている。
一応、安否が未だに不明なのはサイエン家次期当主候補だったリベラと数名なのだがリベラは5年前から突如としてサイエン家から消えており残る数名もほぼ一般人と同格であるため総力を上げ捜索する必要がないとされている。まあそれでも魔王直属の暗殺部隊が捜索に全力を出している。
「発言いいか、クラマさん」
ユミクが背筋をぴんっと伸ばしながら手を上げた。
「ええ、どうぞ」
「ワタシの妹、エルクを殺したのはカリ・サイエン貴様であってるな? 貴様本人からきちんと聞いておきたくてな」
全員の視線がカリに集まる。エルクを殺した、その事実は今まで隠されていたがサイエン家を調査しているとそのような資料がごろごろと出てきてユミクはカリに怒りをつのらせていた。
カリが顔を上に上げ口を開ける。
「うん、そうだよ。ボクがこの手で殺した。それは変えられないことだしあなたの怒りは受け入れるよ」
何一つよどみがない瞳でまっすぐとカリは答えた。
「貴様‥‥‥!」
「やめろバラク家当主、それ以上殺意を出すならばこの場でその首を斬り落とす」
カリに対して全力の殺意が溢れ出すユミクの首筋にいつの間にか刃が迫っていた。その刃の先にはまぶたを開け黒と青のオッドアイが輝くベルが剣を鞘から抜いていた。
「この状況でもいまだサイエン家とオルカ家は同盟関係、貴公が下手を打てば即刻バラク家に攻め入ることも可能だがどうする?」
「チッ、悪かったただ嫌気がさしただけだ」
殺意という矛先をしまい席に座り直すユミクをみてベルも剣を鞘に戻す。
「んでどうするんだ。サイエン家を潰すなら潰す、しないならしないでさっさと決着させたいんだがよ」
「拙としては潰すに賛成だよぉ。もちろん当主にはサイエン家が持っている情報すべてをはいてもらいたいけどねぇ」
眠そうな態度であくびをしながら話すイズラ・ワイスに堂々とした態度のまま話すエンバーズ・ランド。
「儂もイズラくんと同じ意見なのじゃが、オルカ家としてベルくんはどうなんじゃ?」
「別に今は同盟関係というだけ、それにもし私が否定意見をいっても多勢に無勢だろうオンコ家当主殿」
「よく分かっておるのう」
事実、この場でサイエン家の取り壊しに反対なのは魔王キドとベル・オルカだけであり、魔王キドはカリ・サイエンのためにという一人の少女のための意見でベルは仮にも同盟関係だからというだけでありそもそも多数決を取った時点で敗北が確定している。
「でぇ当のサイエン家当主さんはどう思ってるのかなぁ取り壊しについて」
「‥‥‥」
イズラがカリの方を見た。次にカリが発する一言それを見定めるために。ここで自分を守るような発言でもすれば上に立つべきものではないと即刻取り壊すことにもなるがはたして。
「取り壊しには賛成だよ」
「へぇ自分の家が壊れるのに?」
「うん、領土も研究資料も貴重な実験材料サイエン家が持っているすべての資産を魔王様に返還する。けどサイエンという名だけは消さないでボクに残してほしい。それが残ってるサイエン家の最後の一人として殺人者として背負うべき罰だから」
「‥‥‥」
魔王キドは毅然とした表情のまま心の中で驚いていた。それが自分の娘クーガと同い年の魔族がする目のかと言葉なのかと。脅威的にも見える覚悟、だがそれが気に入った、クーガやキュウクも仲良くするわけだと。
「では、本人のご意向もありますのでサイエン家の領土及び保管している全ての研究資料、材料などの資産を剥奪と返還ですがサイエン家の名だけは残すということでよろしいでしょうか。意見のある方は手を上げてください」
クラマの言葉に反対を示すものは誰もおらず首を縦に動かした。クラマはその様子を一通りながめたあとに再び話す。
「それではサイエン家の処罰はこれで決定いたします」
この決定により七名家からサイエン家は外されることとなった。当然、オルカ家との同盟もなくなりカリ・サイエンは一般の魔族と同じ格となった。
また、資産の剥奪ということでカリは学院の中からも除名ということともなった。
なお、カリ自身の私物は剥奪されはしなかった。
◇◇◇
これが起こった一つ目の出来事、そしてもう一つ、カリの学院除名が起こったことで三人の学生が自主退学することなる。
その三名はセロナ、クーガ・ブラシエル、キュウク・スチラーである。
またセロナはバラクの名を自ら捨てた。
◇◇◇
バラク家宅、その家の大広間の広々とした部屋の扉から一番離れた位置の椅子にユミクが座りその両隣にバラク家の重鎮たちやセロナの兄妹たちなどがずらりと並んでいる。
そして、ユミクの前には先日の戦いで怪我した左目を白い包帯で隠しているセロナ・バラクが立っていた。
「学院を辞めると私達バラク家と縁を切る、か。何のつもりだセロナ」
「そのままの意味だ姉貴、あたしはここを出ていく。文句でもあるか?」
「分かっている。だから何のつもりだと聞いている」
つい先刻、セロナがバラク家の名を捨てるとユミクに直々告げたことでバラク家全体に驚愕が走り回っている。
「何故だ、何故この家から出ていくんだ。七名家というお前の夢【最強】になるにはこれ以上ない環境のはずだが」
「友と一緒になるためとこの不自由な家から出たくてな。可愛い妹の最初で最後の願いだぞ姉貴、聞いてはくれないか姉貴‥‥‥は失礼か。当主様」
「‥‥‥」
ユミクは静かに切れていた。セロナのその目がどうしても気に食わなかった一週間前の会議にいたカリの瞳ととてつもなく似通っていて。
だが、仮にも一人の当主でセロナの姉であるためその怒りは表には出していない。
「ふざけるなッ! セロナ! たかが弱い妹の分際で!!」
それでも声を出した者がいた。ユミクの弟でセロナの兄でもあるバラク家の次男、リンガ・バラクが切れ列から抜け出してセロナに殴り掛かる。
「弱い妹か‥‥‥それは」
「ッ!?」
「いつの誰のことを指しているんだクソ兄貴」
リンガの拳が当たるその時だった。セロナがリンガの顔面を殴った、そうただ一撃でリンガは地に倒れ気絶したのだ。
バラク家全員に震撼が走った。バラク家の常識ではセロナは魔法の才能や実力は高いが体術はそこまで、かたや体術だけなら今のバラク家の中でも5本の指に入るほどの実力を持つリンガであったのだから当然であった。
ただ、そんなものセロナにとってはクソ喰らえだった。
「了承、その二文字を言ってくれるだけでいいんだ当主様」
「‥‥‥変わったな、あのカリってやつのせいか?」
「ああそうだな、カリとクーガ、キュウクそしてミストこの四人のおかげであたしは変われた」
「そうか‥‥‥」
ユミクが一度瞳を閉じ考える。その間でも列がざわざわと声が聞こえる。
「なら認める。好きにしろセロナ・バラクいやセロナ」
「!」
「ただし、約束だ、バラク家と張り合えるレベルまでその友達とやらと張り詰めてこい。のたれ死ぬのは許さん」
「言われなくてもそのつもりだバラク家当主様」
一礼をしセロナは部屋から出ていく。
◇◇◇
魔王城、キュウク・スチラーがクラマ・スチラーとルフ・スチラーの前に立って相談をしていた。
「––だから、学院をやめたいんです。だからどうか認めてはもらえないでしょうか」
キュウクは分かっていた、認めてもらえるはずではないと。仮にも推薦という形で入学しているのだから。それでもカリのために学院をやめ支援したいと思っていた。
キュウクは顔を上げお父さんであるクラマの表情を伺う。そして、ついにクラマが口を開くその言葉はキュウクが思っていたのとまったく別のものであった。
「いいんじゃないか、お前がそんなわがままいうなんて珍しいからな」
「! けど僕は推薦入学で‥‥‥」
「気にしなくていいわよ。だってそもそもあなたは子供、それに私達のわがままで生まれて辛かったでしょうからこういう時くらい素直になっていいのよ」
言葉を失った。けどそれは儚くも一瞬で次飛び出たのは感謝の言葉だった。
「‥‥‥! ありがとう!」
「ただし、クーガお嬢様の隣には‥‥‥‥」
「分かってますよお父さん、それともう一つお願いが‥‥‥」
◇◇◇
魔王城、キュウクが相談していた同刻クーガ・ブラシエルもまた魔王キドと二人きりで話していた。
「学院やめたい!」
「いいぞ」
たった二回の会話それで実質的な議題は終わりを迎えた。この間、約一秒である。
「うしっ、けどホントに?」
笑みを浮かべ拳をぎゅっと握っているクーガは質問した。
「まあ人生山あり谷あり一生きりだ、魔王になるものとして今やりたいと思ったことはすぐにやってみたほうがいいさ。少なくとも学院留年とかの危機にならないだけいいだろ」
「お母さん、怒らないかな?」
「あっはっはっ大丈夫だ。実はここだけの話しな、あいつ‥‥‥」
「!」
目を輝かせ元気に跳び上がりながらクーガはキドの昔話を数時間聞いた。
そしてこのあとキドとクーガはこっぴどく王妃キキ・ブラシエルにしばかれましたとさ。
◇◇◇
というのがこの一ヶ月の間にあったキュウクたちに関係ある主な出来事である。
そして、この先はこれからに続くお話である。
◇◇◇
「ここか、まったくクーガ達も無駄な世話を」
セロナは大きい茶色のバッグを背中に背負い明るいため息をつきつつ草原が広がる野原を歩いていた。その手に握っているのは一枚の地図。つい先日クーガとキュウクから送られてきた地図で赤いバツマークに住む用の家を手配したとだけいっていたのであった。
「ここか‥‥‥あいつらこんなぼろいやつ‥‥‥次あったら殺してやろうか」
場所につき家を見てセロナは静かに切れ笑顔のまま即刻地図を握りつぶした。
それもそのはずだった、二階建ての邸宅の城壁は植物で覆われているところもありカビも見受けられる。
庭園はもちろん雑草が生えまくっており噴水にも汚れがあって水なんて当然通ってなかった。
「‥‥‥ってセロナちゃん!? どうしてここにいるの!?」
「カリ!? お前こそどうして?」
セロナの後ろから両手に重そうなバックを持っているカリが声をかけてきた。お互いにおおいに驚いた。
「ボク、クーガちゃんとキュウク君にいわれた場所に来ただけなんだけど」
「まったく一緒だな。なんのつもりだあいつら」
二人が疑問を抱いていると家の扉が開き煙とほこりが噴き出す。その中から二つの影が見えてきた。
「げほっげほっ煙臭い!」
「バカなんじゃないですか、室内で爆発を使うなんて‥‥‥」
「そうだけど‥‥‥」
その影はクーガとキュウクであった。その様子にセロナとカリは開いた口がふさがらなかった。
「クーガちゃんにキュウク君これはどういうこと?」
「セロナにカリもう着きましたか。思ってたより早いですね、えっとこれは‥‥‥」
「私達も一緒に住むからよろしくね!」
キュウクは引っ張れるままクーガに連れてこられクーガ本人は笑顔のままセロナとカリの二人に向けて言い放った。
「どうして?」
「どうしてって友達だから! それだけだよ!」
「まぁ僕も同じですかね、カリ、セロナあなたたちが友達だからここまで手配したわけですし」
この家はスチラー家の保有する別荘なのだが見ての通り辺境の地でありいまだ手が回っておらず空き家となっていたのをキュウクがクラマにどうか使わせてもらえないかお願いしたところ許可をもらえクーガも盗み聞きでもしたのかキュウクともに掃除しにいくと駄々をこねて今に至るというわけだ。
爆発したのはまぁ色々あったのだろう。
「ホント、バカだなぁ二人ともボクとセロナちゃんのためにここまで」
カリは瞳にたまった涙を指ですくった。嬉しかった、自分を友達だと言ってくれる友達がいてただただ嬉しかった。それ以外の言葉で表そうにもどうしても嬉しい以外の言葉が浮かばなかった。
「カリの涙なんて初めてみましたね」
「私も初めて見た! カリ今とっても可愛いよ!」
「もしかしてボク可愛いって思われてなかった?」
ため息交じりの冗談を吐いてみた。そんなカリを見てキュウクは口元を隠しながらクーガは笑顔のまま笑った。そして、セロナもまた静かに笑っていた。
「そんなわけないといったら嘘になりますが実際は半分半分ってところですかね」
「私は前までのカリも可愛いとも面白いとも思ってたよ!」
「第一印象でお前が可愛いとは思えないぞ。少なくともあの変な薬作ってる間はずっとな」
三人の言葉を受けカリはこう答えた。
「最ッ高だよみんな!」
カリは左手で髪をわしゃくしゃにしながら太陽にも負けないくらい明るい笑顔を見せた。
カリ・サイエン、彼女という個体が生まれたのはこの世界の禁忌でありそして奇跡である。
◇◇◇
この物語の序章が終わり次なる章が始まる。最初に辿るのは果たして?
◇◇◇
ゆらり、ゆらりと薄暗い霧の中、海上に一つの幽霊船があった。甲板にはいくつもの樽が置かれ所々には壮絶な戦いが繰り広げられたと実感できる切り傷や弾痕、ボロボロの服をきたガイコツ達。ガイコツ達には顔がドロドロに溶けたり脳天を撃ち抜かれたものや完全に無いものなどがそれ以外にも上半身だけあるものや半身が壁にぺちゃんこにされているもの、その数20はくだらない。
船中のある一室、中にはカビだらけの人一人が入れるくらいの浴槽が一つと外の景色が堪能できる窓があり蜘蛛の巣は床天井の隅に張り詰められだが蜘蛛一匹どころか生物の気配を感じさせない。
だが一人、窓と壁の間にあるスペースに眠りながら座っている灰色の髪の少女がいた。いや眠っているというのは少し違い動いていないのだ。石像のように。
黒いローブでその白い柔肌を守るように隠し、やぶけホコリを纏っている白と青を基調にしたキャプテン帽をかぶり一切動かず壁にもたれかかっていた。
そして、船の下、海の中に赤い瞳孔を光らせる何かがいる。
◇◇◇
必要なのは思い出、【あめ】、変化、その答えはこの先にきっとある。
これにてカリ編完結! そして仕えるもの語の序章も完結!
今年はあと四人の掃除の様子を投稿して終わると思います。
皆さんメリークリスマス!




