第六十三話 閉幕一幕
カリ・サイエン、彼女という個体が生まれたことはこの世界における禁忌でありそして――である。
◇◇◇
「ッ!?」
「カリ!?」
「えっええ!?」
廊下でカリの身体がほんの一瞬光り氷も溶けたと思ったらカリの身体からリリスとトリガーの二人が後ろに転がり倒れながら出てきた。
「セロ‥‥‥ナちゃん」
「大丈夫だ。少し寝てろ」
「うん‥‥‥」
セロナも意識を取り戻し銀バッタの大量使用や一時的とはいえリリスに身体を奪われたことによる多大な疲労でセロナの胸元にふらりと倒れるカリを支えキュウクたちの近くまで移動した。
「ミスト、少しカリを頼む」
「任せてください」
セロナは静かに穏やかな寝息を立てながら眠っているカリをミストの背中にのっけた。ミストはセロナ、クーガ、キュウクの三人の一歩後ろに下がる。
「せっかくいい個体見つけたと思ったのに邪魔ばっか今日はついてないなぁ」
「‥‥‥」
リリスとトリガーは立ち上がりリリスはセロナ達を睨みトリガーは銃のクリップを握りながらすぐにこの場から離脱できるように準備していた。
(さっさと逃げようにもリリス様の目もある。何もせずに逃げたら後の弁明がめんどくさいな。一番いいのはカリだけを連れ去りリリスとカリ以外の他全員を全滅させること、かといって悪魔記録の銃を使って一掃でもしようとすれば‥‥‥ああくそめんどくさい)
トリガーは無傷で逃げ切るすべを考えるがどうしてもカリとリリスの存在が足を引っ張りどうするべきか悩んでいた。
そして、トリガーの結論が出るより早く場は動き出す。
「氷剣‥‥‥」
「鬼式流 流鬼舞‥‥‥」
「「一式!!」
氷の剣を持ったセロナと両刃剣を持っているクーガが同時に床を踏み込みリリスを斬りかかる。
「チッ」
リリスは舌打ちを吐きながら二つの刃を軽々といなし続ける。
「重い一撃!」
「ッ!」
クーガとセロナによる連続の猛攻の隙間から素早い矢をキュウクが放ちリリスに当たった。
「おいトリガー」
「あーはいはいっと!」
「「ッ!?」」
リリスがトリガーを常人ならそのまま気絶するか最悪は死に至るほど覇気で威圧するとトリガーは素直に動きセロナとクーガを後ろにはじいた。
「どうするんだリリス様」
「殺す、でもいいんだけど。まだこの世界との肉体合わせが完全には出来てないから派手にあれは使えないし。トリガーだってそうでしょ?」
「まぁな、ずっとカリの中にいたせいでな」
トリガーは眠っているカリの方を見た。この中だと一番弱いミストでも流石に視線に勘づいて警戒し更に後ろに下がる。
「あっそ、んじゃどうしますか」
リリスが腕を組み少し悩んでいると一人の少女が壁を壊しながら現れる。
「なら余がお救いしてあげます、重骨撃」
「「「「「!?」」」」」
その少女はドン・アジサイであった。橙色に輝く手甲を両腕に装備し不気味とも見える金色の瞳をちらつかせながら武の達人にも引けを取らない構えのまま現れた。
「へぇアジサイちゃんか」
「約五年お久しぶりです、リリス様。余がお迎えに上がらせてもらいます」
面識があるのかアジサイは頭を一度下げてからリリスと話している。それ以外のトリガーも含め皆驚いていた。
この少女は一体何者なのかと。
「お前は一体‥‥‥」
セロナはアジサイを睨むがアジサイはそれを無視し少し後ろにいるキュウクの方を見ていた。
「ん? あれ? 狐とエルフのハーフじゃないですか。やった今日の余運が良い。連れて帰ればアイン様に褒められるかな?」
拳でガッツポーズをとりながらアジサイは子供のように喜んでいた。
「!? お前アインについてなにか‥‥‥!!」
「もちろん知っていますよ。けど今日はあなたが目的ではないので安心してください。今日の余の目的はリリス様をお迎えすることだけですから、ね?」
「ッ!」
キュウクはアジサイの肩に向け矢を何発も放ったがいともたやすくすべてを掴み割り捨てる。
「では、リリス様と後ろの悪魔さん行きましょうか」
「りょーかい」
「あっあぁ、そうだカリが起きたら『殺しにこい』とだけ言っておいてくれ」
「させない!」
アジサイがリリスとトリガーを連れこの場から離脱しようとすると、セロナが床を力強く踏み込み氷剣でアジサイを斬ろうと跳びかかる。
「邪魔です、斬骨撃」
「ガッ!?」
「「セロナ!」」
肩から指さきに至るまでの脱力をしてから瞬時に力を入れ迫りくるセロナの顔面めがけ下から上へと腕を振り上げる。アジサイの攻撃にわずかながら反応が遅れ避けるのが間に合わず左目にクリーンヒットし後ろに倒れた。
倒れたセロナにクーガとキュウクが近づいて支える。
セロナの左目に重なるように出来た切り傷から生ぬるい真っ赤な血がゆっくりと頬をつたって床へと流れ落ちていく。
「どうするキュウ」
「すぐに治療しないとけどそうしたら」
「余たちを追えないってところですかね? まぁそのための攻撃なんで」
「くっ‥‥‥」
キュウクは舌をかみしめた。アジサイの言っていることに何一つ否定が出来なかっただからだ。怒りという感情がキュウクの心を周り重々しい口が開いた。
「お前らは何がしたいんだ、何をするつもりなんだ!?」
「何ってそう‥‥‥ですね、この世界と神への復讐‥‥‥ですよ? おっと失礼はやく帰らないと」
「待てっ! ッ!」
不敵な笑みを浮かべあとアジサイは地面がへこむほど踏み込みリリスとトリガーを連れて肉眼では到底見れないほど遠くまで飛んでいった。
学院の廊下の中はほぼほぼの原型を失い眠っているカリをおんぶしているミストと傷でもだえ苦しんでいるセロナを回復させようとしているクーガとキュウクだけが残った。
◇◇◇
一幕の戦闘が終わりを迎えた。この戦いに明確な勝者は存在しない‥‥‥けど運命という決められた道筋はほんの少し変わったのかもしれない。
これにてカリ編終わり!というわりにはなんかあっさりしていますがまだ少しだけ続きます。事後処理というか今後のために色々とね。




