第五十四話 合図は鳴る
◇◇◇学院にて__
「ん、そういやレイン、グレイが今どこにいるか知っている?」
「? 何故あのグレイなんですか?」
レインの腕から抜け出したリリスは身体を軽く上に伸ばした後に聞いた。
「別にこれといった理由はないけど、無性にあいつの顔殴りたくなってね。あいつだってこっちの世界に居るんでしょ」
「まぁそれはそうですね。ですがワタシは知りませんよ、あんな自由人の場所なんて」
グレイというのは帝級の悪魔の一柱で400年前、悪魔界から忽然と姿を消した悪魔界一の自由人といわれている悪魔である。
「噂でいいからさ、なんかない?」
「噂‥‥‥ですか。そうですね、‥‥‥この国の東側に位置する和ノ本という国に灰色の目の大鎌を持った男が現れたとか‥‥‥ですかね。確証はないですが」
まぁ所詮風のうわさですかとつぶやいたレインを横目にリリスは首をぽきぽきと音鳴らしながら動かす。
「ふーんまぁそれだけでも嬉しいね。ところでレイン‥‥‥『逆命』だっけ? あのレインコートどうしたの」
「! 分かりましたか」
リリスの言葉にレインは眉をぴくっと動かしてスーラの方に向けていた視線をリリスに移した。
「そりゃぁ、ねぇ。前まであった変な魔力がすっかりなくなっているし。で、どうなの」
前に出会った時は身体全身に金色の魔力がうっすらと染み付いていたがその魔力が綺麗さっぱりなくなっていた。
「とある錬金術師に預けました。ただ、それだけですよ」
「変わったね、レインが自分の物を上げるなんて、ボク少し驚いたよ」
リリスは口を隠して軽く笑った。だがその笑いは次のレインの言葉でひっくり返る。
「何言ってるんですかリリス。利子付きでですよ」
「訂正、やっぱ君なんにも変わってないね‥‥‥!?」
あははと真顔のまま答えるレインの言葉にリリスはうわーと言いたげそうな表情になった。
「うぅ、、は‥‥‥母‥‥‥様!?」
「ふふっ800年ぶりですねスーラ」
気絶していたスーラが目をこすりながら目覚め目の前にいたレインに驚いた。
「へ? あっその‥‥‥おはようございます‥‥‥?」
「おはようございます。いやあやっぱりスーラの声は至高ですね。ユウカも似たような声質でいいのですがやはりスーラの声からしか得られないものがありますね」
「? ありがとう‥‥‥?」
状況が飲み込めない中スーラはレインと言葉を交わした。スーラの怪我している足をスーラの泡で出来た小悪魔たちが支える。
「はぁ、起きちゃったか。レインさえいなければ‥‥‥」
「ひいっ!? リリス様!?」
スーラがリリスを見ると爆速でレインの背中におびえるように隠れた。
「リン‥‥‥スエイ‥‥‥!!」
隠れていたスーラの目に移ったのは気絶して仰向けに倒れていたリンとスエイだった。一見死んでいるように倒れているが脈が動いているのを近づいたスーラは確認した。
「‥‥‥! リリス、こちらに多少はまともな魔力が二つ来るようですが気づいてますか?」
「あーはいはい分かってるって。まぁ準備運動がてら魂ごともらうとするよ。レインの方はどうすんの」
「何の‥‥‥事‥‥‥?」
レインとリリスの会話にスーラはぴんと来ていなかった。
「ワタシはこれでも大規模な商会の会長をやらせて貰っているので帰らせていただきますよ。スーラはもちろんのことそこの二人も連れて。構いませんよね」
「うん構わないよ、別にボク、レアみたいに逆らったやつを殺すとか馬鹿げたことしないし。秩序がどうとかマジうんざり」
リリスが笑ってふざけるように吐く演技をした。
「それは同意見ですね。あの女本当だるいしめんどくさい‥‥‥おっとつい素が。じゃあ生き残ったらまた会いましょう」
「へー、ボクが死ぬとでも? 帝級の悪魔だぜ、ボク」
「だからといって死なない理由にはなりませんよ。実際リカがそうですし。ではまたいつか移動」
それだけ言い残しレインはスーラ達三人も連れて学院から姿を消した。一人残されたリリスは片目を閉じた後に一言陰に呑まれるくらい静かにつぶやいた。
「レイン、その言葉いつか返してあげるよ」
そしてその一言をちょうど言い終わった瞬間この学院に青い魔方陣がまばゆい輝きを放ちながら現れる。
「「カリ!!」」
クーガ・ブラシエルとキュウク・スチラーは既に臨戦態勢の状態でこの場に現れた。




