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仕えるもの語  作者: マッド
禁忌あるいは、奇跡
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第四十九話  失敗は出会いを生む

 とりあえず絵本は読めるところまでは読んだ。中盤からびりびりに破られていたため最後はよく分からなかった。

 けど、読めた最後のページにはこう書かれていた。


『私たちは触れていけなかった。女神様は確かに悪魔だった。___‥‥ごめんなさい』


 最後、『ごめんなさい』に繋がるまでの言葉は文字で消されていたから読めなかった。何があったのは分からない。

 ボクはそれでその絵本を閉じた。もしかしたらまた気になって開くかも、と思うくらいにはボクはこの絵本が気になった。


 この絵本を読んで少し心が軽くなった気がする。だから、今日は寝るのが少し怖くない気もする。

 そう思いながらボクは無駄に綺麗に整ったベットに横になった。別にまだ三時くらいだろうけど急に眠たくなった。

 それとここまでベットが綺麗なのは一応ボクがサイエン家の三女だからなのか単純に素晴らしい実験対象(モルモット)だからなのか。


 ボクは今はもう遠い遠い昔のように感じる一年前のあの出会いを夢で見た。


 ◇◇◇__一年前


 一年前、ボクは経過観察という意味も含めて今以上には自由に動けた。

 その日は商店街に買い物に行っていた。家の中にいると最悪な空気に呑まれるので暇があったら家の外に出ている。まぁそれでも監視役が必ずついてくるが‥。


「はい、どうぞ。いつもありがとね、ゆっくり食べな」

「あ、ありがとうございます‥‥」


 ボクは緊張しながらアンパンを店主からもらった。ここのアンパンは絶妙に甘くて好きだった。とはいえたまには他のにも手を出すべきなんだろうがどうしてもいつもアンパンを選んでしまう。


「うわぁぁぁぁぁ!!ちょっとそこどいてぇぇぇぇ!!!」

「へ?」


 アンパンを食べ頬を落としながら商店街を歩いていると後ろから大声が聞こえてきたから後ろを振り向いた。


「「あっ‥‥」」


 声が重なった。それと同時にボクと声を出していた人は勢いよく吹っ飛ぶようにぶつかった。


 それがボクとエルク・バルクの出会いだった。


 ◇◇◇__数十分後


「いやぁごめんごめん。これお詫びのホットドッグ、私好きなんだよねー」

「あ、ありがとう、ございます?えっと‥‥温かい犬?」

「分かる、その気持ちわかるよ!最初は名前聞いたらそうなるよね!!」


 初めてエルクと話した時の第一印象はとても明るくて不思議な人だった。


「年いくつくらい?」

「えっと‥‥九歳です」

「私の妹と同じくらいかー。ねぇ名前は?」

「え?えっと‥‥」


 質問責めでボクは少し言葉が詰まった。


「あぁごめんね。名を聞くんなら先に自分の名からだよね。私はエルク・バラク。これでも一応バラク家の次女をやらせてもらってます。アッツ!?」


 そういいながらエルクはホットドッグにかぶりついていた。ボクもそれに続くようにホットドッグを食べた。中に挟まっていたソーセージがパリッという肉汁が飛び出る音を出しながらケチャップがちょうどいい酸味を含んでいてとてもおいしかった。


「あ、その‥‥ボクはカリ・sa‥‥」


 そこまで言おうとしたらボクは口を止めた。ボクがサイエン家と知ったらこの人はボクを遠ざけてしまう気がしてたまらなかったから。


「言いずらいよね、君サイエン家でしょ」

「ッ!!!???」


 その時、エルクから飛び出た言葉を初めて聞いた時とても驚いた。それと同時に怖かった。拒絶されるのが。


「なんで‥‥分かったんですか?」


 怖がりながらボクはエルクに聞いたのを今でも覚えている。


「なんでって、そりゃぁねぇ後ろにあそこまで殺気立って奴がこーんなにもカワイイ少女を監視させるのなんてあの家だけでしょう」


 それを分かった上でボクに接してくれたエルクの対応はとてもうれしかった。生まれて初めて優しさを感じられた瞬間だった。


「君が望むならあんな奴ひねりつぶしてあげるけどどうする?」


 願ってもない事だった。けどボクはこういった。


「やめて‥‥ほしい‥です」


 そう言った。前に一度監視役を倒して家に帰った時それはそれはひどい扱いを受けた。暴力や罵声は当たり前のことのように一週間ほど続いた。だからボクは断った。


「ふーんならいいけど」


 エルクはこの時ボクのどこまでわかっていたのだろう。少なくともボクの事情を分かった上でその言葉を言ってくれた気がした。


「あの‥‥質問何ですけど」

「ん?何だい?」

「その‥‥さっきなんなんですか」

「あーあれね‥‥すーーえっとーーねー」


 エルクは口に残っていたケチャップを笑顔でふき取りながら汗をかいていた。


「なんか言えないことでもあるんですか?」

「いやそういうわけじゃないんだけど‥‥よし!教えてあげよう!あれは水素の爆発力を最大限応用しようと思ったもので‥‥」

「水素?」

「あっそっかそこからか‥‥」


 ◇◇◇


 少しして商店街まっすぐに抜けて右に回ると人の雰囲気を一切感じさせない公園があるのでそこのベンチに座った。


「これが電気分解装置でそれに入れるのがこの水!と言いたいところだけど電気を通りやすくするためにこの水酸化ナトリウム水溶液を使います!」

「? 水酸化? ナトリウム? 水溶液? 電気分解?」


 頭にハテナばかり浮かんだ。聞きなれない言葉が連なってパンクしそうになった。


「そういう難しいところは後で教えてあげるから今は気にしない!気にしない!」

「は、はぁ‥‥」

「で、だ。まずこの電気分解装置に水溶液を入れます。その次にこの電源装置を分解装置の下にある棒にを付けて電源をオン! すると!」

「わっ!! なんか泡出てますよ!? 大丈夫なんですか!?」

「うん、ここまで」

「ここまではって!?」


 ◇◇◇


 数分後電気分解装置の二つの穴に泡が溜まり切ったのか泡はもう出なくなった。ただ二つの穴ごとに泡の溜まり具合は結構変わっていた。


「よし。でこっちの泡がよく出ていた方の栓を抜いてこれを近づける」


 そういうとエルクは手のひらを軽く振って魔法による火を生み出した。


「さてカリちゃんこの火を近づけたらどうなると思う?」

「え?どうなるって何も起こらないんじゃ‥‥」

「じゃあ正解と行こうか」


 エルクは栓を抜いて火を近づけた。すると、


__ボンッ!


「!?」


と勢いよく爆発したような音が響いた。


 ボクは驚いて耳を抑えた。


「アハハ、いい反応!私の兄妹達じゃそんな反応してくれなかったから新鮮すぎる!」


 エルクはそんなボクの様子を見て楽しそうに笑っていた。


 ◇◇◇__数分後


「で、この水素に火をつけた時の爆破力を利用して前後に進む物を作ったらどこか設計をミスってて止まることができなかったというわけだよ。どう理解追いついてる?」


「まぁ6、7割くらいは‥‥」


「うへー私の雑な説明でよくそこまで理解できるね。私なんてこういうの理解するのに結構時間かかったんだけどなー」


「そうなんですか?」


「うん、私ね、兄妹達の中でも一番魔力が少ないしフィジカル面も終わってるし頼みの綱の頭脳も正直並程度なんだよね。大体の才能を兄妹達に吸われて残ったのは最低限の才能しかなかった」


「いやけどあなたも‥‥」


 すごいじゃないですか、そう言おうとしたのに途中で口が固まった。


「バラク家はよく天才が生まれやすいって言われてるよ。まぁそれ自体は間違ってないと思うし私だって世界をみれば恵まれてる方とは思ってる、それでも私は君みたいな人に少なからず憧れを持っている。だからこそ! 私はこの科学に会えた! 科学があれば魔法にだって追いつけるし追い越せる! 私はそう思ってる」


 その時のエルクはとても希望に満ち溢れてるように見えた。目指すものが分からないボクと違って目には見えないけど確かに目指すべき道があったのだろう。


「あ、あの‥‥」

「ん? 何?」

「ボクに‥‥その科学を教えてくれませんか」


 ボクはベンチから立ち上がりながらおじきをしてエルクにお願いした。『科学』という物にこの世界に生まれて初めて興味が湧いた。だからもっと知りたかった。エルクともっと話したかった。


「いいよ、ちょっとこっちよって」

「え? あ、はい!」


 少し困惑しながらもOKをもらえたことが嬉しくてエルクの近づいた。


__ちゅ


 ボクのおでこにエルクの唇が優しく包み込むように当たった。突然のことでボクの顔がほんの少し赤くなった。


 ◇◇◇


「じゃあ、また明日ここで会おうね!」

「は、はい!エルクさん」

「いやエルクで良いからね」


 器具を片付けてエルクは明るくこの場から帰っていった。ボクは今日エルクと出会ったことで生きる意味が生まれた‥‥気がする。


「また明日‥‥か」


 ボクはうきうきしている気持ちを抑えながら公園を後にする。

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