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仕えるもの語  作者: マッド
禁忌あるいは、奇跡
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第三十八話

テスト終わったぜ!ひゃっはぁー!!!

(どうするべきかな)

 カリは考える。目の前の青年からは悪魔特有の魔力が出ていることから悪魔なのは確定でセロナちゃんと二人がかりでやっても絶対に勝てない。それだけでも絶望なのに青年の後ろにいる女性とセロナちゃんの近くにいるスエイという子供も恐らくだけど悪魔。

暴走(ハザード)になればいけるかな?けど、そうしたら……)

 そうしたら、セロナちゃんも巻き添えになって殺してしまうかもしれない。それだけは防ぎたい。


「カリ大丈夫か」

 セロナが服がちぎれボロボロになりながらボクに近づいてくる。

「うん全然大丈夫、セロナちゃんは大丈夫なの」

「大丈夫だ、と言いたいところだがまずいな」

 セロナの体にはあざが何個か見受けられてひどい状況なのが見て取れる。


 ◇◇◇


「スエイ、なぜ殺さなかった。簡単に殺せただろう」

「そういわないでよリン。少し強く戦っても壊れなくて楽しいんだよ」

 スエイはセロナをじっと見ながら久々に面白いそうなおもちゃを見つけた時のような喜びで心がいっぱいになって笑みを浮かべる。


「……」

 スーラは自分で泡を作り出して一人で悠々と遊んでいる。

「何をやっているんですか。スーラは」

 リンが少し呆れながらスーラに聞く。

「……リンとスエイなら……勝てる……私……安心」

 スーラは片言で話しながら泡を出して消し出しては消す行動を繰り返している。

「まぁ、確かにあなたが出る必要はないですからね。そこで邪魔しないようにしていてくださいね」

「……」

 リンからの言葉にスーラは無言で泡を作りながら片手でグットポーズを送る。


 ◇◇◇


「カリ、お前は逃げろ、あたしが時間を稼ぐ」

「え?それってどういう」

 セロナから出てきた言葉にカリが呆気に取られる。

移動(テレポート)を使ってクーガ達の所に逃げろ。ここにいるよりは安全なはずだ」

「そんなことをしたら、セロナちゃんが……」

 カリはセロナの言葉にうろたえながら話す。


「もう待てないなぁ」

 スエイがしびれを切らしたのかドンッ!という音と共にセロナとカリの前に急接近して殴り掛かろうとする。

「チッ、氷壁(アイスウォール)

 セロナを舌打ちをしながら自分たちの前に氷で出てきた壁を出す。その壁でスエイの拳が二人に届くことはなく氷の壁を壊すだけに留まる。


「カリ、あたしのことはいいからはy……」

「あなたに用はないですから黙っててください」

 セロナが言い終わるより先にセロナの腹にリンの蹴りが入り壁にたたきつけられる。

「ゴホッ……」

 セロナが血を吐きながら気絶する。

「セロナちゃん!セロナちゃん!」

 カリがセロナに近づき体を揺らして起こそうとしながら声を必死にかける。


「もう何やってんのさリン。せっかく楽しめるように手加減してたのに」

 スエイががっかりしたような顔をしながら肩を下す。

「……玩具……横取り……ひどい」

 スーラはスエイに同情したのかリンの背中に平手打ちを放つが痛いのかスーラがその場に座りながら手をゆする。果たしてスーラの体が弱すぎるのか、リンの体が硬すぎるのか。


 ◇◇◇


(どうする、逃げる?けど、そんなこと許してくれないだろうし)

 チラッとスエイたちの方を見ると楽しそうに会話をしていたが隙があるようで隙を感じなかった。むしろ、下手な行動をすれば一瞬で命を刈り取られるような空気を感じる。

「カリ……あたしの……ことは……置いて行って……いい。早く……逃げろ」

 セロナがかすれた声で話す。

「そんなことしたらセロナちゃんが……」

「いいから!」


 セロナの目はまだあきらめていなかった。この状況でも最も最善の道、悪魔たちの目的がカリならクーガやキュウクがいる魔王城に逃がした方が安全。この学院にいるよりかは。

(我ながら、馬鹿な考えだな)

 その判断は自分が弱いのを認めていると同じ。だが、それでもカリを逃したかった。

(会って一週間も経っていないのに情が湧くなんて、自分らしくないな。まぁそれだけ、その数日が濃かったってことなんだろうがな)

 ハハッ、心の中で軽く笑いボロボロの体を無理やり動かして立ち上がる。


「カリ、お前は……逃げろ」

「でも、……」

「あたしは!ここで……最強になって生き延びる!だから、逃げろ!」

「……ごめん」

 カリは魔方陣を展開させて目を閉じ座標を計算し始める。


 ◇◇◇


「逃がすはずないでしょ」

「あはっ、面白そう!」

 狭い廊下の中でリンとスエイがセロナの間を抜けて左右からカリに殴り掛かろうとする。

「させない、氷の遊技場(アイスランド)氷刃の型!」

 廊下全体が冷たい冷気と氷で支配される。そしてリンとスエイの下と横から氷の刃が目で追えない速度で伸びる。

「めんどくさいですね」

「最高!」

 リンは面倒くさそうな顔でスエイは満面の喜びの笑みを浮かべながら刃を避けるようにセロナの前に戻る。


「カリには指一本触れさせない!あたしがお前らを倒して最強になる!」

 セロナは意気揚々と大きな声で話し集中しているカリの前に立つ。

「へぇいいですね、じゃあ、倒してみたらどうですか」

 リンが不敵な笑みを浮かべながら槍を生み出して両手で持ち構える。

(うーわ、リン、最強って言葉にでも反応したかな。あいつはいざ、戦闘ってなったら面倒くさいんだよな。しかも、俺の出る場面なくなるしさ)

 スエイがリンを武器を構えたことでセロナを敵として認定したことに自分の番が無くなったことを理解し、ただ立って傍観しているスーラの横に座る。


◇◇◇


「氷刃の型!」

千突千渦(せんとつせんか)

 無数に伸びる氷の刃と複数の槍を操っているのかと錯覚する速度の一本の槍が何度も何度も交錯して火花がそのたびに散る。

「面白い」

 リンが一度後ろに下がり、突撃の構えを取る。

 セロナは氷の壁を何重にも張り巡らせてリンの攻撃に備える。


「死突」

 リンが爆発的に加速をし氷の壁を突き破っていく。セロナが危機を本能的に感じ少し体を左にそらす。

セロナの本能は正しく、リンの槍が最後の氷の壁を貫いてセロナの左肩も貫通する。

「グッ!」

セロナの肩から血が流れて槍をたどりリンの手につく。

「捕まえた」

「何?」

 セロナが笑みを浮かべて言葉を述べる。

「氷刃零度……血氷(アカ)

 セロナの肩から流れた血が赤く凍り、鋭利な氷柱へと成り代わる。その氷柱は肩から槍、槍から腕へと伸びていく。

 リンが振りほどこうとするも氷で槍と腕が繋がっており振りほどけない。

「仕方ない」

 リンが動く腕の方で動かない腕の肩から先を切断する。

リンは一度後ろに下がり腕を再生しようとする。

「させない!」

 セロナがその隙を見逃すはずなく追撃をしようとすると目の前に半透明な泡が出てきて中心から爆発する。

 危機一髪で直撃を避けてバック中をしながらカリにぶつからないギリギリまで肩を抑えながら後退する。


「寒い……冷たい……あなた……倒せば……温まる」

 スーラが前に出てきて泡を周りに浮かせる。

「珍しく、スーラやる気じゃん。俺も手伝おうか?」

 スエイがスーラの横に立って笑顔を浮かべながら話しかける。

「いらない……私……勝てる」

「ホントに?」

 スエイがからかうようにスーラに突っかかる。

「じゃあ……頭……なでなで」

「別にいいけどそれでいいの?」

 スエイはスーラに無表情で頭を撫でられながら聞く。そう光景は場違い感が強く感じるもので戦闘しているとは思えないほど時間がゆったりしていた。

「氷刃!」

 セロナは残り少ない魔力を使ってスエイとスーラの時間を切り裂くように攻撃をする。

「あなた……寒い……嫌い」

 スーラはそういうとスエイを守るように抱きしめて襲い来る無数の氷の刃に泡を破裂させて氷の軌道を変えて頭上で衝突させる。スーラが衝突して綺麗に結晶が散り落ちる様子を見てここぞとばかりに帽子の位置を調整して杖を持ち直してセロナに見せつけるようにポーズを決める。


 ◇◇◇


(まずいな)

 この状況で動かないでじっと止まっていた女性__スーラが動き出した。それなのに自分はすでにボロボロで魔力の残りが少なく廊下を支配している氷が若干溶け始めているのが見て分かる。

(けど、せめてカリがここから逃げるのを目で見るまでは)

セロナはより一層集中して悪魔たちの方を見る。


 ◇◇◇


(どうして、どうして!?座標計算がうまくいかないの!?)

 カリは焦っていた。何かに邪魔されて魔力操作が乱されて上手くできないことに。

『よぉカリ、お前が逃げるなんてボクが許すわけないだろ』

 脳内にトリガーの声が響く。そこでカリは邪魔をしていた人物が誰かが分かった。トリガーだ。

『トリガー、お前……』

『まぁなんだあの女を逃がすんだったたら協力してやってもいいぞ。一秒、それだけあれば十分だろ』

 トリガーはカリをからかうように提案をする。一秒だけでは座標の計算なんて不可能、そのことを考えてトリガーは提案する。

『いいよ、乗った』

『てめぇ、ホントに馬鹿だな』

 カリが提案を飲んだことにトリガーはにやりと心の中で笑いカリを馬鹿にする言い方で話す。

『いや、トリガー、ボクに一秒の時間をくれた君の方が馬鹿だよ』

『何?』

『__暴走(ハザード)起動(オン)

 カリの体からどす黒い魔力が一気にあふれ出す。

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