第三十七話 悪魔の襲来、緊急事態
勉強めんどい勉強嫌い勉強嫌い嫌い嫌い嫌い、ああああああああああああああああ!
セロナとカリが学院に戻った後……
「ここ汚すぎないか」
セロナがカリに案内されて学院の一室に入った直後の一言。
「キュウク君にもよく言われるよ。汚いって」
「掃除はしようとは思わないのか?」
「思わないね。綺麗だとなんか落ち着かないんだよね。意外とセロナちゃん、綺麗好きなの?」
「別に綺麗好きなわけではないぞ。ただ、ほこりが少しでもあたしのいる空間にあるのが気に入らないだけだ。というか物騒すぎないか」
セロナは部屋の中を少し見渡しながら床に散らかっているメスや本を拾い上げる。
「潔癖症ってやつだね。人によっては押し付ける人もいるらしいんだけど、そこのところはどうなの?」
「価値観は人それぞれだしな。あたしは自分の考えは他人には押し付けないよ」
「バラク家なのに?」
「余計だ。むしろバラク家だからこそ他人に押し付けないようにしてるしな。バラク家の考えは強いものこそ正義だが、その中の一つに郷に入っては郷に従えという物があるしな」
「そうなんだ意外だね」
カリがセロナの答えに少し驚きながら持っている二本の試験管の一本に中に水を入れてセロナに渡す。
「変な物は入れていないだろうな」
セロナは少し疑うように試験管に入っている水を見る。
「流石に入れてないよ。セロナちゃんのは」
カリはもう一本の試験菅にも水を入れ薬を一錠投下させて蓋をし軽く振る。すると、水の色が赤色に変化する。
「何を入れたんだ」
「あぁこれ?これは‥‥‥兎人族の血に変化させるものかな」
「なんでわざわざそんなものを?」
セロナは試験菅の中を飲み干して机に落とさないように置く。
「うーん、何となくとしか言えないんだけど、この腕との相性が一番合うんだよね」
カリは左腕をさすりながら試験管を飲み干す。
「それってどう動かしているんだ?」
セロナが水色の眼をカリの機械でできた腕に移す。
「仕組みは教えてくれなかったんだけど、自分で調べて何となくは分かったよ。これから目には見えないほどの小さな糸が出てて、脳に繋がっているんだよ」
「痛くないのか」
「たまに頭痛があるくらいかな。それも年に一回くらいの頻度だけどね」
カリが試験菅を机に置いて細く小さな指で頭をコンコンとつつく。
「さっき、セロナちゃんに渡したボタンは押すと、電気が糸をたどって脳を絶命させるものだよ。押してみれば」
カリは軽々しくすごい発言をする。その言葉の裏には涙が籠っていた。
「するわけないだろ。しかし、これ一人で作ったのか?」
「そうだよ。2年くらいかかったけどね」
「その長さは十分早いと思うぞ。というかこれは何だ?」
セロナは壁に飾ってあるおびただしいほどの数の試験菅を見る。
「別に大したものじゃないけど、うーん、なんて言おうかな、‥‥‥見せた方が早いか」
カリが一瞬考えた後、壁に飾ってある試験管を一つ取り外す。
《鷹ッ!!》
腕の機械に試験管をはめる穴があり、そこにはめると、軽快な機械音と橙色の光が部屋に響く。
「一体何なんd‥‥‥」
セロナが言い終わる前に。
__パリンッ!!
試験管が音と共に破裂して地面に散らかる。
「やっぱりダメか」
カリがまたかという顔をしながら散らかったガラスを拾う。
「同じことがあったのか?」
セロナがカリを手伝おうと身体をしゃがませながら聞いた。
「うん。なんか、人間以外の血と別の血の成分を混ぜると破裂するんだよね。原理はよくわかってないんだけどね。兎人族と鷹人族の組み合わせは駄目ッと」
カリがメモ帳を取りだして書き始める。そこには五十は余裕に超えている数のパターンが書かれている。
「すごいな」
セロナがそれを見てポロっと言葉を漏らす。
「ありがとね、セロナちゃん。これも飲む?液体を痰にする液体」
「飲むわけないだろ!?」
二人とも立ち上がってセロナがカリに差し出された試験管を割らない程度の強さで机にドンッと強く置く。
「なーんだ、残念」
「出会って一週間も経ってないがお前の性格はほぼ分かった気がするな」
セロナは少し呆れた態度で話す。
「そういえば、なんでここにベットが置かれているんだ?寮があるだろ」
「まぁボク、サイエン家だからさ」
カリが無理して作ったであろう笑みをセロナに向ける。
「すまないな、痛いところをついてしまって」
セロナはお辞儀をして謝る。
「別にいいよ。慣れてるし」
「そうか」
セロナが体を戻す。
◇◇◇__数分後。
「セロナちゃんっていい匂いだね」
カリが突然、突拍子もないことを話しセロナに近づいて金色の短髪を持って嗅いでいる。
「匂い?そんなものするのか?それとさっさと離れろ、気持ち悪い」
「ひどくない、その態度? まぁけど、するよ、雪みたいないい匂いがね」
カリがセロナから離れて、椅子に寄りかかる。
「セロナちゃんの雪みたいな匂いってバラク家の遺伝なの?」
「知らんな。そんな匂い感じたことがないしな。逆になんでお前は分かるんだ?」
「トリガーの影響かな」
「トリガー?」
「ボクの中にいる悪魔の名前だよ」
セロナとカリが会話を交わしていると、外から耳によく響くドン!という音が三つほど聞こえる。
『緊急!学院内にいる生徒たちはすぐさま訓練場へ避難もしくはその場で身を隠し、防護結界を張ってください!繰り返します! ‥‥‥』
女性の声が学院全体に響く。
「セロナちゃんはどうする?」
「ここからなら避難をした方がいいだろうな」
「なら、そうしようか」
セロナが扉を開けて訓練場に走って向かう。カリはセロナの後を追うように走っていく。
◇◇◇その途中で__
セロナの首に左側の壁から細い子供のような腕が勢いよく伸びたのがカリの眼に移った。
「‥‥‥ッ!?」
「セロナちゃん!?」
セロナの体と腕が右側の壁も突き抜けて教室の壁にまで衝突し、ほこりが舞う。
「スエイ、急ぎすぎだ」
左の壁に出来た穴から赤髪の青年が現れてくる。
「ごめん、ごめん」
子供__名前はスエイだろうか。スエイがほこりの中から青年に対して軽く謝る。セロナは一瞬だけ気を失ったがすぐに起きて氷柱を放ち反撃をする。だがその氷柱はスエイの拳による一撃で壊される。
「セロナちゃん!」
カリはセロナに駆け寄ろうとすると、目の前に泡が出てきてポンと軽く破裂する。
「‥‥‥」
カリが一歩後ろに下がり青年の方を見る。青年の後ろから奇術師の見た目をした青年と同年代くらいの女性が出てくる。
「えっと‥‥‥ボク達に何の用かな?」
カリは青年から漏れ出ている悪魔特有の魔力を受けて本能的に恐怖を抱きながら青年に質問する。
「別にあの女には用はない、ただ、お前に用があるんだ」
青年は淡々とカリを見下ろしながら答える。
「何か、勘違いしている可能性があったりしないかい。ボクの名前はカリっていうんだけど」
「貴様、トリガーではないのか。まぁいいお前の中にあいつの気配を感じるしな」
なるほどね、とカリは納得しつつ、試験管を取り出して青年を鋭い目で観察する。
学院の中で戦闘の幕が上がる。




