第四話 強さの追求と屈辱の狭間で
あたしは弱いやつが嫌いだ。反吐が出る。
バラク家という名門の家に生まれ、小さい時から弱肉強食を教えられ、自分自身それがこの世の絶対の真理だと思う。
あたしは生まれながらに魔法の才能を持っていて、10の時にはすでにバラク家一の魔法使いに匹敵する魔力量保持していた。
家では実力高ければ親だろうと何だろうと従う。強いこそ絶対!最強こそ正義そんな家だった。そんな環境だからあたしは最強になりたいと思うようになった。
だからこそ、魔王の娘に興味が湧いた、倒したくなった自分こそが天才で最強だと示したかった。
そして、学院に興味が出てきた。ここなら魔王の娘を倒す絶好の機会だと思った。
学院で見かけた魔王の少女は特権に頼っているように見えた。おかげでより魔王の娘をやつを倒したいという思いが強まっていった。
(あたしは天才で最強のセロナ・バラクだ!)
試験会場の中に入りあたりを見ると、奥に魔法を当てる用の的が見えた。たぶん試験用の物だろう。
「えーではこれからブラシエル魔族学院のクラス分けテスト実技を行います」
受付の人と同じ人が試験の内容を話し始めた。
内容は的に最も得意とする魔法を打ちその結果でクラスを分ける。威力と精度を50点ずつの計100点らしいがあの的だけでそれが図れるなんてすごいなと関心する。
「ふむ。それならば魔王の娘クー・ブラシエルこの試験で結果が高い方が勝ちという勝負はどうだろうか。シンプルでいいだろう」
「別に何でもいいよ。私がどうせ勝つし」
傲慢な態度をとるセロナに、さっき程から冷酷な怒りをまとっているクーの魔力はそれぞれがぶつかりながら会話を交わしている。
そんな空気の中話しかけることができるわけなく、滋賀にクーの半歩後ろで二人の様子を確認している。
「あたしが先にやろう。よく見ておいてくれ」
セロナはクーと僕の前に出る。
「壊れろ、破壊の氷!!」
セロナは的の空中に魔方陣を出し大きな氷塊が出てきて的にぶつかる。氷塊の冷たさがここまで届き肌が冷たくなる。
これで終わりかと思うと氷塊の上に新たな魔方陣が発生し膨大な熱量を持つ炎が放たれ、氷塊が爆発する。
それは瞬く間に起こり周りの魔族は唖然としていた。
当たり前だ、並みの魔族には見えない速度の攻撃でタメの動作が大きいものあたりさえすればクーでも相当な怪我をするだろう。当然当たる前によけると思うが。
そう頭の中で考えていると、壁の右側に100点中98点というスコアが表示された。ちなみに100点を取ったの僕の父クラマ・スチラーしかとってないんだとか。
「流石はあたしだな。次はあんたの番だ」
セロナはクーを指さしたて言った。
クーは無言で前に出て手のひらを上に掲げる。嫌な予感がする。僕は警戒をしながらクーを見る。
直後、クーの手のひらから巨大な白い魔力の塊が出てきた。
「なっ……!?」
セロナは驚いた様子でクーを見ていた。
無理もない、このサイズだと魔法使いが何十人も集まって何とか成功する可能性が見えてくるだけでそれを片手で一瞬で一人でやっているのだから。それができるのはクーの膨大な魔力と卓越した魔力操作があってこそだが。
「消えろ、『消去』」
クーは魔力の塊を的に向けうち当たる。
すると、空間がゆがんだのが地面がえぐれて的だけが残る。壁には98点というスコアが出された。
「えっ!?」
誰もが100点を予想していたが、98点だったためクーが怒った様子からいつもの無邪気な様子を感じる声を出した。誰もが驚いていたがどうやら精度がダメでため99点だったのは誰も知らない。
予想外な展開がありながらも続々と魔法をはなつ、たまに80点越えの魔族がちょくちょくいるくらいで目立ったことはなかった。
次は自分の番
「さて、君の従者はどんな魔法を見せてくれるのだろうか」
セロナは落ち込んでいる様子は見受けられないが、若干クーが魔法をはなつ前より顔が暗くなっていたので内心ではおそらく相当悔しんでいるだろう。
「キュウは私より魔法が得意だし100点余裕だよ」
いつものキュウにすっかり戻りセロナと同じベンチに座りながら話している。
座っているクーはこっちをキラキラした目で僕を見ている。
そういう憧れの目で見ないでくれと思いながらプレッシャーを感じながら放つ魔法を考える。
威力もあり、確実に当たる魔法どうするか?
悩んだ末、何も難しいこと考えずに自分の得意な魔法をはなつことにした
「ふぅーーー」
深呼吸し集中を高める。
「すぅふぅー」
更に深く深呼吸をして集中を限界まで伸ばす。
「虚無なる破壊!!」
目を開け、腕を前に出し炎をまとった透明な弓矢を持ち放つその矢は正確に的を射ぬき、的がこの世の法則を無視し的を捻じ曲がる。
シンプルながらも当たればセロナの破壊の氷より速くて強く、当たればどんな魔族でもただでは済まない。
捻じ曲げられた的は誰もが驚愕した。
クーやキュウのが大規模の攻撃で質量を極めたものとするなら、僕のは内側からの壊す質のみを極めたものだ。
100点中99点と壁に結果が張り出される。
「学院の記録の中で二番目の記録だと………!?まさかこのあたしが負けるだなんて」
「流石だねキュウ」
セロナは驚き自分の実力のなさに悔しさを出し、クーはキュウのすごさを認めた。
二人とも違う反応をしている。
周りの魔族は何が起こったのか分からずにいた。ただ何人かはわかっていそうな視線を感じる。多少は面白そうだなと考えていると、
「今回は敗北を認めるが、次は負けないぞキュウク・スチラー」
セロナが僕の目の前に歩いてきた。
「えっと…セロナ・バラクさん?」
今更ながらセロナの言い方に悩んだ。
「セロナでいい。こちらもキュウクといってもいいかね」
「あぁそれは構いませんよ」
その申し出はこちらとしてもありがたい。
「ところで一つ聞きたいこと‥‥‥」
「危ない!!」
セロナが質問をしようとしたとき、クーが大声で危険を知らせる。
セロナの頭に天井の岩が振ってきたのだ。気づいた時にはセロナは手遅れ「あっ…」という声しか出せず動けないでいた。セロナは
ぼくはすぐさま反応しセロナを抱えてよける。岩はドォンというすごい衝撃が音立て地面に落下する。
「セロナ、大丈夫ですか?」
セロナの安否を確認すると、
「助けてもらったことは礼を言う。だがそうずっと触れてないで早く卸してくれないかい」
「あぁすみません」
セロナをおろすと
「次こそは」
と言って、駆け足でこの場を離れていく。
「キュウ、大丈夫?」
クーが心配そうな声で声をかけてくる。慌てた様子で僕の体を見る。
「えぇ大丈夫ですよ。怪我もないですからそんなにみないでください」
「そういわれても。キュウがいなくなったら悲しいし」
クーが何を言ったのかは分からないが心配しているということだけは分かった。
「早く次の場所に行きましょう」
「了解!」
クーが元気な声を出しながら試験会場を後にする。その後ろに従者として身だしなみを整えながら僕は歩く。
「キュウさ数分くらい寝かせて?」
「なんでですか?」
前を歩ているとクーから驚きの発言が出た。
「いやーさっき、あの規模の魔法使ったから眠いんだよ。だから・・・よろし・・・」
言い切る前に道のど真ん中でクーが倒れた。
「ちょっちょっと。はぁ、全くこの人は。あっ皆さんお騒がせて申し訳ありません。すぐにどきますので」
周りの魔族が困惑と苛立ちを覚えていそうなので謝った。
クーをおんぶしながら次の会場に向かう。にしても軽いな、25キロくらいだろうか?どうでもいい些細なことを考えながら歩く。
そうして実技テストを終わった。
廊下で一人歩いているセロナが急に
「くそっ!くそくそくそ!!」
ドンと壁を強く殴りながらつぶやく。
周りの魔族たちはいきなりの行動に驚き彼女を避けている。
「あたしが負けるなんて」
最強だと思ってた。魔法の威力も精度も最高で最強だと思ってた。
そのプライドが今日初めて敗北という形で壊される。
しかも助けられた。助けられるなんて弱者のすること。何があっても助けられちゃダメなのに助けられた。その場は隠したが『屈辱』この言葉が心を覆いつくしていた。
何にもわからなかった。何がどうなってあの的がねじ曲がったのか。
自分より自分よりも強かった。威力も精度も。
今は悔しさが心を覆いつくしている。
「次こそは、あたしがあんたに勝ってやる。キュウク・スチラー」
そうつぶやくと、セロナは前を向け歩き始めた。
次は負けまいと上にあげていた顎を下に下げながら。
まっすぐと目を正面に向ける。