番外編 第二話
魔王城の北の塔。私が口の中で飴玉を転がしながら階段を一歩踏み出すたびに、どこからか妙な風が吹いてくる。いや、別に自然現象じゃない。これは絶対ウェザ兄がわざとやってるやつだ。ウェザ兄の『天候』でやってるんだろうな。
「ったく…なんで私がこんなこと頼まれちゃったかなぁ」
私はため息をつきながら塔の最上階にたどり着く。
扉を軽くノックする。すると、予想通り、すぐに聞こえてきたのはあの特有の声。
「フフフ‥‥‥ついに世界は嵐の導きによって新たな境地へと達する‥‥‥我が力よ、目覚めの時は近い‥‥‥!」
‥‥‥ああ、やっぱり今日も絶好調だね、ウェザ兄。今日も本に書かれているような魔法使いの恰好している。
「ウェザ兄、おーっす!キュウク様が呼んでるよ!現世に降臨するときが来たんじゃない?」
私は適当に扉を開け、軽く手を挙げる。
ウェザ兄は深々とため息をつきながら、暗がりの中からゆっくりと姿を現した。片手を額に当てながら、哀愁たっぷりのポーズ。‥‥‥いや、あのね、そんな演出いらないでしょ?
「ミストよ‥‥‥なぜ我をこの場から引き離そうとする…今、嵐の流れが我を呼んでいるのだ」
「いやいや、嵐とか知らないけど、キュウク様が呼んでるって言ってるでしょ?さっさと行かないとまた面倒なことになるよ?」
私は肩をすくめながら答える。一発殴ってもいいかな‥‥‥?
「フン…しかし、キュウク様が我を召すということは‥‥‥何かしらの運命的な交錯が訪れる兆し‥‥‥」
‥‥‥はいはいもう分かったから、早く来いよ。まじで手が出る数秒前だから。
「運命的な交錯がどうとかいいから、単に『会議だから来い』ってだけだよ!ほら、出発!」
私はウェザ兄の腕を軽く引っ張る。
するとウェザ兄は急に腕を組み、厳かに目を閉じた。
「‥‥‥よかろう。キュウクが我を召すならば、この身を現世に降ろすとしよう」
「だからさぁ!! その言い方やめなって。普通に『行く』でいいじゃん!」
私は呆れながら、ウェザ兄の後ろを歩き始める。
こうして、また今日も私はウェザ兄の世界観に振り回されるのであった。ほんと、毎回これだよ‥‥‥。




