第二十六話 誘惑の声、最強の魔王
カリ視点
セロナちゃんがドームで周りを包んで照明で中を照らしてくれている。外からものすごい音が聞こえてくるが今はクーガちゃんの治療優先!
「大丈夫かカリ」
「うん、ボクは大丈夫なんだけどクーガちゃんの状態がおかしいんだよ」
「というと」
セロナちゃんがボクの汗を冷やしながら質問する。
「クーガちゃん薬の耐性や魔法による治療への耐性が強すぎるんだよ。薬の耐性はいつも失敗した薬を飲んでくれるから助かってたんだけど、まさか、こんなところでそれが邪魔になるなんて」
薬の耐性は前々から知ってたけど、まさか魔法への耐性もあるなんて、キュウク君よく回復を軽々使ってるけどあれって普通の回復より魔力多めに使ってるんじゃ。いや今考える事じゃないな。頭の中で出てきた考えを振りほどきクーガちゃんの治療に集中する。薬を使っても数秒しか止血が出来ず、残り少ない魔力を使って止血をしている状態。
頭に声が響く。
『ボクが手伝ってやろうかカリ』
ボクの声とうり二つの声が聞こえる。
『うるさい!悪魔は黙ってろ』
ボクは声に焦りや不安などの感情をのせながら怒鳴る。
『ボクが手伝えば、すぐにそんな奴直してやるよ。だから、ボクの力を借りなよ。そうすればボク達は無敵だ』
声は誘惑するように囁く。
『お前の力は絶対に使わない』
『チッ、まぁいい、お前はいつかボクを必要とするときまで待ってやるよ』
舌打ちを最後に言い残して声が途切れる。
ボクの手が震える。体中に嫌な寒気が広がる。声の持つ存在感が、ボクを押し潰そうとしているのを感じる。
「カリ、大丈夫か?」
セロナちゃんの声が、現実に引き戻してくれる。
「うん、大丈夫」
キュウク視点
「魔王様なんでここに?」
僕は目の前にいる魔王様に質問する。この人一応一国の王だよな。どうしてここに。それは僕たちにも言えますけど。けどあれは事故というか何というか。
僕の頭は怒りがすっとなくなりこんがらがる。
「それに関しては後で話すとしよう」
魔王様の指が僕のおでこに数秒間触れてから一言。
「なるほど。状況は理解した。今はこの竜を倒さないとダメそうだな」
魔王様が淡々と話しているとジパングが炎を放ってくる。
「危ない」
僕が魔王様に言うと同時に魔王様が竜の方に瞳を向けて、腕を上にあげる。
次の瞬間、竜が包丁で縦に一回切ったニンジンのように真っ二つになった。
「はぁ!?」
思わず声が出てしまった。いや、えっどういうこと、強すぎない。
強いのは前々から知っていたけどここまで強いの!?想像していた以上の強さに驚愕して口をぽかんっと開いているのが分かる。
「次はあいつだな」
魔王様が炎の壁を斬りラクンとカレンが激しい戦闘を繰り広げる光景が目に入ってくる。
「なんでここにいやがる」
ラクンが魔王様の姿を見て目を見開いて驚いている。無理ないだろうな。
「わが娘を傷つけた代償は払ってもらうぞ。爆発」
カレンが後ろに下がり、ラクンの周りに無数の魔方陣が現れて出てきた火の玉が連鎖して破裂していく。
「くそがっ!」
爆発の中からラクンが捨て台詞を吐きながら鋭い鋭利な形をした魔力弾を放つ。
「!?」
「!‥‥ほう」
魔王様が上にそれを飛ばそうとする前に空間が何故かゆがんで消滅する。これには魔王様も少しだけ驚いていた。
「ふむ思ってたよりは抵抗するな。なら、もう少し強くするぞ」
魔王様がそう告げて、爆発の勢いが一段と強くなる。
「逃げたか」
魔王様が魔方陣を消し、爆炎の中からラクンの姿が消えていた。
どこに行ったのか探ろうとしたら氷のドームからどす黒い魔力を感じてドームの方を見る。
そこには、どす黒い黒色の髪になって黒いローブに身を包みながらカリがセロナの首根っこを掴んで立っていた。カリがこちらに少し顔を向けた。瞳がいつもの赤一色ではなく右目が青色、左目が赤色のオッドアイになっていた。
横になっているクーの傷は治っているのが見えたが次はセロナが一番危険な状況になって苦しんでいる。
「カレン、カリを止めろ!」
何がどうしてそうなっているのかは後で考える。今はカリを止めないと。
「了、命令を実行します」
カレンが剣でカリの腕を斬り落とそうとすると、カリがセロナから掴んでいる手を離し、セロナの腹を蹴りカレンにぶつける。
「あの特有の姿、サイエン家の者か。なら」
魔王様がカリの前に立ちおでこに何かを描きながら指をあてて押す。
触れたところからまばゆい光がカリの身体を包んで元の姿に戻りその場にカリが倒れる。
「後で事情は聞かせてもらうとして、今は国に戻るぞ」
魔王様が倒れているクーとカリを持ち上げて、話す。僕は意識が今にでも消えそうなセロナを支える。
「んと、その前に逆向」
そういいながら魔王様は指パッチンをすると周りの壊れたり散乱している物が何も最初からなかったかのように元に戻った。
「なんですか、それはぁ‥‥」
もう驚きを通り越して呆れしか出なかった。




