第二十四話 氷の壁と蜘蛛の糸
キュウク達がジパングで戦闘始める数時間前魔王城にて___
魔王城の城内では魔王の王妃でクーのお母さんやキュウクの父親クラマ・スチラーなどを筆頭とした使用人たちが大慌てで姿が見えない二代目魔王キド・ブラシエルを探している。
「王妃様、寝室にはいらっしゃいましたか」
「いえ、いなかったわ。まったくあの人ったらどこに行ったんだが」
(あいつ、マジでどこ行ったんだよ。後で殴る!)
心の中で魔王の側近で一番の親友のクラマ・スチラーはキド・ブラシエルの行動に怒りや呆れを生みながら叫ぶ。
その時、脳内に聞きなれた声が聞こえる。
『クラマそっちは大丈夫か』
親の顔なんかよりも聞いたキド・ブラシエルが悪意の籠ってない声で話しかけてくる。
『お前!今どこにいるんだよ!こっちは大騒ぎだよ!』
『わりぃわりぃ、今はジパングに向かっている。昨日の夜でキュウクと話してたの盗み聞きしててよー、クーガ達今ジパングにいるんだろ。迎えに行ってやってんだよ』
『はぁー、それに関してはもう馬車手配させてんだよ。早く戻ってこい馬鹿野郎』
クラマ・スチラーは大きなため息をつきながら自由すぎるキド・ブラシエルに怒りをあらわにする。
『もうジパングまでの道のりの折り返し過ぎてんだ。このままクーガ達迎えに行ってやるよ。それまでそっちは頼んだぞ。じゃあな』
『ちょ、待っt…』
キド・ブラシエルはそれだけ言い残しクラマ・スチラーとの会話を切った。
(あぁもうあの馬鹿野郎は!なんであんなに自由なんだよ)
クラマ・スチラーはキド・ブラシエルにさらなる怒りを覚えたが頭を冷やしジパングがある方向の窓の外を覗いた。
◇◇◇
ジパングにて__
「氷壁」
ラクンの目の前にセロナが氷柱で積み重なった壁が出来る。
「バン!」
クーが氷柱の壁を包み込むように指から蜘蛛の糸を射出して氷柱の壁の隙間に挟まり壁を補強する。
「おぉークーガちゃんの糸ってああいう感じで出るんだ。もしかして大きさとか粘着度とか色々調整できるの?」
カリがクーの蜘蛛の糸に興奮した顔で戦いの最中にクーに蜘蛛の糸について詳しく質問する。
「まぁある程度はね。えっと…魔法を操作する感覚に近いのかな」
クーが照れながらカリの質問に答える。戦闘中に何やってるんだと思いながらその光景に何故か心が温まる。
そんな時間もつかの間、ラクンが鷹の翼を伸ばし氷柱の壁の上から脱出して上空から僕たちを見下ろす。
「少しだけ本気で遊んでやるよ」
ラクンが頭に青筋を頭に浮き彫りにしながら、先程の魔力弾より何倍も速く大きい魔力弾を何発も放つ。
「鬼式流 流鬼舞一式!」
クーが冷や汗を浮かべながらもう一度剣で受け流そうと僕たちの前に出る。
「・・・ッ!」
何発かは建物の方に受け流したがすべては受け流しけれずクーの剣が折れてクーの顔面に魔力弾が当たりそうになる。
「入れ替え!」
僕が指と指で音を鳴らしその場に転がっている建物の瓦礫とクーの体の居場所が入れ替わる。
「ありがとう。助かったよキュウ」
「別に当然のことをしただけですよ。それより・・・」
僕はクーの無事を確認した後にラクンの方に目を移す。先程より魔力があふれ出ていて強者故の余裕さを出している。どうする、倒す方法は発見したがあれでは難しくなる。
「セロナ、氷柱あいつに向けて打てない?足場としてあいつに近づきたい」
「分かった。だが、くれぐれも気をつけろよ」
クーの提案にセロナが賛成して動き出す。
「氷柱雨!」
セロナが魔方陣を宙に何度も発生させて無数の氷柱を放つ。
「鬼式流 流鬼舞・・・」
クーは飛んでいく氷柱を重力を無視するかのように軽やかにラクンに接近する。
「三式!」
ラクンの目の前にまで近づき剣を振り上げようとしたら、
「ごほっ・・・!」
クーが言葉を放った後に下から魔法を放とうとする僕の顔に一滴の血が当たる。
クーの方を見ると、クーの体がラクンの生成した剣によって内臓などの複数の箇所が後ろから突き刺されて血を流している。瞬間的に頭の中が真っ白になる。は?何が起きて…。
「お嬢様!」
「クーガ!」
「クーガちゃん!」
僕が大声で叫ぶ。それに続いてセロナとカリが叫ぶ。
クーの体から剣が抜かれていると重力に従って僕の腕に落下してくる。
「…キュウ…ご…めん…」
かすれた声で落ちてきたクーを横にして身体の状態を急いで確認する。
服は赤い血で真っ赤になっている。意識はもうすでになく閉じきっていない瞳には光が宿っておらず小さい息づかいとかすかな心臓の鼓動が聞こえる。まだ生きてる!まだ救える!セロナやカリがこちらに近づきセロナがラクンの魔力弾による攻撃を氷の盾で防いでくれる。
「カリ、あなたの回復薬で何とかなりますか」
「いや、この傷じゃ止血しかボクにはできないよ。キュウク君の回復は?」
「僕のはこの状態からだと効果がほぼ意味がないです」
頭の中で情報を整理しながらクーを救う方法を自分の脳が焼き切れるくらい全力で考える。
「そんな弱いやつ放っておいて俺と戦って楽しもうよ」
そんなラクンの言葉に心の中で何かがプッツンと切れる音がする。
こいつは殺す…冷酷な声で心の内でつぶやく。
「カリ、止血だけでいいのでお願いします」
「うん、分かったよ。キュウク君はどうするのさ?」
「…俺は、ラクンを殺します」
一人称が僕から俺に変わり、俺は片眼鏡を外して髪色を変えてもう一本尻尾を生やして、セロナの方に目を移す。俺の声には静かな怒りと激しい怒りがごちゃ混ぜになっている。
「セロナ、カリの隣で衝撃を抑えててくれませんか」
「分かった。お前一人で大丈夫か」
氷の盾で魔力弾を防ぎながらセロナがこちらに振り向く。
「大丈夫です」
「分かった。気をつけろよ」
セロナが僕たちの近くに降りてきてクーとカリ、セロナを包むように氷のドームを作る。
それを確認したらラクンの方に金色の眼を向ける。
「おぉようやく本気でやってくれんだな。俺を楽しませてみろよ!」
ラクンが怒りが喜びに変わったのか先程の魔力弾より更に速く強いものを放つ。
「防げ、カレン」
「了」
俺の尻尾が一本だけ光り目のまえにメイド服に身を包んだ朱色と金色の髪が織り交ざった長髪の少女__カレンが現れて魔力弾を手で無駄なく丁寧な動きで受け流す。
「カレン。俺の未来予測の演算を補助の手伝いとクーを全力で守れ」
「ご命令、恐悦至極に存じます」
カレンは氷のドームに近づき魔法で結界を形成して立ちながら目を瞑り瞑想を始める。
「ハハッいいね、その怒り。それでこそ君だ」
ラクンが高笑いしながら剣を空中に何個も作り、俺を見下ろす。
「その口、耳障りだ。すぐに殺してやるよ。…第二段階『加速」
僕の低く冷たい声があたり一面に鳴り響く。




