第十八話 苦い中に潜む一時の安らぎ
キュウが店を去ったあと、店の奥から頭に巻いている白いバンダナを取りながら若い青年が出てきた。
「よかったんですか、大将。あれ渡しても」
「おお何だ悪いか」
店主が青年の言葉に反論をすると、
「別に悪いとは言ってませんけど、あの刀、切れ味だけなら最高の業物なのに魔力や生命力を奪う一種の呪いを持つ危険な業物じゃないですか。いつもだったら触らせるのも止めるはずですよね?」
キュウが購入した刀は1000年前に災厄が使用したとされる業物で壊せないし危険だから代々この店で管理されていた。だから、青年は店主がその業物を売ったという事実が信じられなかった。
「あいつなら使えそうな気がした。ただそれだけのことだ」
店主ははっきりとした声で話す。
「確証はあるんですか」
青年が店主の言葉に不安を持ちながらに質問する。
「職人としての勘だ。まさか、信じてないのか」
店主はまっすぐとした目を青年に向けながら話す。青年は呆れながら小さなため息をつく。
(そういって当たったことなんて数えるくらいしかないじゃん)
「話は終わりだ。早く戻れ」
青年は店主の言い分に不安や恐れを抱きながらも店主の言葉に納得して店主に言われたように再びバンダナを巻き店の奥に戻っていく。
刀を空間魔法でアイテムバッグで連結させてその中にしまって街中を歩いているとベンチで座っているクーとセロナ、カリを見つける。
「キュウもこれ食べる?」
近づくとクーが食べている物を差し出してくる。
「いや食べませんけど、何ですかそれ」
僕はクーの申し出を断りながら食べている鮮やかな赤色の物について聞く。
「これはアイスクリームという物らしい。甘いものが苦手のキュウクは好きじゃないと思うぞ」
「えっ!?キュウク君って甘いの苦手なの!?」
「そうですよ。知らなかったんですか」
クーの左隣でセロナは深い緑色のアイスクリーム?という物をなめながら食べている。
カリはそのセロナの隣で僕の甘いものが苦手という情報に驚きながら色々な色が複雑に絡まっている維持色のようなアイスクリームを食べている。僕はカリの意外な反応に驚いた。
「なんか…独特な色ですね。どんな味なんですか」
三人とも違う色のアイスを食べていたので味に関して興味が湧いた。
「あたしは抹茶でクーガがイチゴ、カリがレインボーシャーベットという物らしい」
セロナが味について教えてくれた。
「そうなんですか、それって溶けやすそうな気がするんですけど」
周りを見ると多くの人が買っているようだが急いで食べていて溶けて手がべたべたになっているのも見える。
「あたしの冷気で冷やしているんだ。流石だろ」
あぁだからかと納得しつつ、アイスクリームを売っている店の方を見た。
試しに、ブラックチョコレートという物を頼んできた。
僕は、スタンドで購入したブラックチョコレートアイスを片手に三人の元へと戻ってきた。濃い茶色の滑らかな表面がキラリと光り、周囲のカラフルなアイスと対照的な落ち着きを放っている。
「それってブラックチョコレート?地味な色だね!」
クーが笑いながら指さすと、僕は軽く肩をすくめた。
「甘すぎるのは苦手ですから。これなら食べられると思ったんですよ」
セロナは冷静な目でキュウとそのアイスを見比べると、口元を緩めながら言った。
「なるほど、キュウクらしい選択だな。味はどうだ?」
僕はスプーンで一口すくい、小さく息を吸い込んでから口に運んだ。冷たい感触が舌に広がり、すぐに濃厚なカカオの風味が支配した。それから少し遅れて控えめな甘さが追いかけてくる。そして最後にほんのりビターな後味が残る。思わず眉を上げ、静かに頷いた。
「甘すぎなくて悪くないですね」
「おぉ~、キュウでも甘いもの食べて満足するなんて、珍しいね!」
クーは大げさな身振りで笑い、隣のカリも興味津々に僕のカップを覗き込んできた。
「それ、どんな感じ?一口だけ試してもいい?」
僕は少し考えた末に、スプーンを差し出した。カリが嬉しそうに一口食べると、彼女の目が大きく見開いた。
「わぁ、これすごく濃厚だね!甘さ控えめなのにしっかり味があって、おもしろい!でも、ボクにはちょっと苦いかな?」
僕はカリが一口食べる様子を見ながら、小さく微笑んだ。ブラックチョコレートの独特な味を彼女がどう受け止めるか興味があったが、満足そうにしている彼女の反応を見て安心した。
「これ、カリには少し苦いかもしれませんね。でも、意外と受け入れられたんじゃないですか?」
僕が尋ねると、カリは肩をすくめながら答えた。
「そうだね。でもボクはどっちかっていうと、もっと甘いのが好みかな~。でも、キュウク君にはぴったりだろうね!」
彼女の言葉にクーが大きくうなずきながら、「確かにキュウらしいよね!」と笑い声を上げた。
一方でセロナは冷静にブラックチョコレートのカップを見つめ、興味深そうに口を開いた。
「なるほど、このアイスは苦味と甘さのバランスが特徴的だな。キュウクのように甘さ控えめが好きな者には絶好だが、一方で苦味に耐性のない者には少しきついだろう。無論あたしは余裕だが」
彼女の分析に僕は少し照れながら、そっと答えた。
「まぁ、あまり甘いものを積極的に選べないので…これはありがたい発見でしたね」
その時、クーがふと街角の店を指さした。
「あっ、あそこのアイス屋さん、もっといろんな種類があるっぽいよ!今度みんなで試してみようよ!」
彼女の提案に、カリがすぐに目を輝かせた。
「いいなねぇ。新しい味というのは挑戦したくなるよね!」
セロナは一瞬考え込んだが、静かに頷いた。
「確かに珍しい体験ができるかもしれないな」
僕は少し笑いながら三人を見渡した。アイスクリームという単純なものが、彼女たちをこれだけ楽しませるとは思わなかった。
「よく食べますね。なんでここに飛んだのか考えないといけないのに」
僕が小さくため息をつきながらつぶやいて、街の賑わいの中にゆったりとした時間が流れた。