第十二話 痛みを超えた後
澄んだ空気、涼しい風が吹く。数々の動物や虫が生き生きと動いている。鳥は大空を大きな羽を羽ばたかせながら飛んでいる。草の温かみが足から伝わって体の芯まで届いてくる。
自分の体を確認すると切断されたはずの手足が何事も無かったように傷跡もなく繋がっていた。
不思議な空間、夢のはずなのに現実だと錯覚してしまうくらい心があったまる。
平原の真ん中に一本だけ細々とした木が立っていた。 その木に一人の少女が寄りかかりリスや狼などの様々な動植物達と仲良く触れ合っていた。
その笑顔はクーの笑顔に似ていた。 少女がこっちに気が付き振り向いて手を振る。
「こんにちは。えっと初めまして‥‥‥かな? いやぁそれにしても本当にあの人に似てるね」
転移したのか急に少女の前に移動した。 少女は白髪で前髪の一部が濃い朱色であった。
「あなたは?」
僕は質問をする。
「ふふ、わたしは・・・そうだなブラシエルとでも言ってくれて構わない。クモの始祖でもいいけどそっちの方が呼びやすいだろ」
「えっ? あぁまぁはい」
「わたしがここにいられるのは短いんで一つだけ、君にはこれから数々の運命が待ち受けている。ごめんね。けど抗ってほしいだ。私たちの子に」
「は? 運命って‥‥‥?」
ブラシエルさんに急に言われた運命とは何か聞いた。そんな時後ろに誰かが歩いてくる。その人はあの不気味な空間にいた人と同じだった。 その人が一歩一歩歩くと触れた場所の生命が黒くなり塵となっていく。
「まったくこんな場所まで干渉するなんて、厄介な子をうんじゃったよな。みんな逃げて」
ブラシエルさんに群れていた動物たちが逃げてゆく。ブラシエルさんは近づいてくる少女と戦おうとする。
「僕もやります!」
「頼もしいね。けどまだ早いんだ」
「!?」
ブラシエルさんは僕を手のひらで足元に落とし穴が発生した。落とし穴に落ちて意識が反転し闇に包まれゆく。
「君がハッピーエンドに‥‥‥!!」
その言葉がうっすらと耳に響いた。
◇◇◇
目が覚め何回も見た魔王城の天井が見えた。
周りを見回すとクーが椅子に座りながらりんごの皮むきをやっていた。
明るさがなく瞳には光が宿ってあらず悲しそうな顔をしていた。
ベットから僕は起き上がる。
「キュウ‥‥‥!!」
クーがりんごと皮むきをしていたナイフを落として僕の胸に飛び込んできた。
「よかった‥‥‥! よかったー!」
クーが大粒の涙を流す。その涙で来ている服が汚れる。
「やめてくださいよ。服が汚れます」
服が汚れていくのみてクーを離そうとするが、心の中でこの温かみをまだ感じたいと思っている。
「キュウク! 起きたの!」
その時、奥から扉を開ける音がした。 王妃とお母さんが入ってきた。お母さんは僕が起きているのを見ると大きな胸と共に走って飛び込んできた。
「起きたんですか」
王妃はその様子を微笑みながら見守っていた。
「あの後何があったんですか」
僕は冷静に王妃に質問した。
それから僕が気絶した後の話を聞いた。 どうやらあの後アインは「目的の一つは果たした」と言ってキンという少女と撤退したらしい。
僕の体はどうしたのかと聞くとこちらはかなり不思議なことが起こったらしい。 魔王軍最強の治癒術者のお母さんでも止血までしかできず、切断された四肢はつなげられなかったらしい。
しかし一晩立つと何故かくっついていたらしい。僕が目を覚ましたのはあの祭りから二週間後だった。
話を聞いた直後、胸を締め付けられるような痛みが広がる。 痛みが信じられないほど胸を中心に増していきベッドに倒れ込む。
「キュウ!」
「はぁ、はぁ、!」
荒い息しかできずクーの声も徐々に遠くなっていく。
「解呪」
お母さんの声がうっすらと聞こえ、胸の痛みが引いていく。
「はぁ、はぁ」
荒い息を戻し、体調が戻っていく。
「キュウ大丈夫?」
クーが心配そうな声で話しかけてくる。
「今のは一体‥‥‥?」
「あなたが寝ている間ずっと痛みに苦しんでいたんですよ」
聞くと一時間に一回ほどは苦しんでいたそうだ。そのことだけを聞いてお母さんに痛みを抑える薬がいっぱい入った瓶をもらって王妃とお母さんは部屋を出ていった。
◇◇◇
「ところでお嬢様、学院ではなにかありましたか」
この二週間寝てしまったわけだから学院で何があったか知りたい。
「いや、まぁ‥‥‥特にない。けど、」
「何かあったんですね」
クーがだんまりしたので続きを聞いた。リバルとユウカ、コルドの三人があの祭り以降一切学院に来ていないらしい。
「ほかにはありますか」
「・・・あっそうだ!明後日、テストがあるらしいよ!」
クーは三拍子だけ考えて手を叩き元気を取り戻しながらそういった。
テスト、テストねぇ対して難しくないだろうなと思いつつベットから立ち上がる。
「もう動いて大丈夫なのキュウ!」
「‥‥‥大丈夫ですよ。‥‥‥何とか動けるので」
少し胸の痛みもあり歩くのはつらいが何とか我慢できる痛さではある。窓の方を見ると、もう夕方になっていた。まぶしい光が目に当たる。
久々のご飯は何を食べようかと考えながらクローゼットから服を取り出す。
着替え始めようとする僕の背中にクーの頭が優しくぶつかる感じがする。
「キュウの馬鹿‥‥‥バカ! バカバカバカ!! 一人であんなに二週間も寝込んで。私‥‥‥心配‥‥‥したんだから!!」
涙が床に落ちる音がする。クーは弱くも強い気持ちがこもった右腕の拳で何度も僕の背中を叩く。
遠くで鳥の声が聞こえ、夕風が窓からそっと吹き込んだ。その静けさが、クーの涙の音をさらに鮮明にした。
「ごめんなさい。心配をかけてしまって」
振り返らずに僕は謝る。クーを一人にしてしまうところだったことを。二週間寝た切りの状態だった重みを強く感じる。
「‥‥‥私を‥‥‥置いて‥‥‥先に死なないでね」
あふれ出ているであろう涙を叩いていた右腕でふく音が僕の体に伝わってくる。
「分かってますよ。僕はあなたを死なせないそしてあなたを決して一人にしないですよ」
クーの心配そうな声で話し続ける。僕はそれに絶対にそんなことはさせないと決意を込めた声で返事をする。
窓のカーテンが風により動き、夕日の明るいオレンジ色の光が僕の瞳に差し込んでくる。一滴の涙が目か ら流れ頬を伝って落ちてくるを感じる。
夕日の光が部屋全体に染み込み、オレンジ色のグラデーションが壁や床に静かに広がっていた。クーの涙はその光を反射してキラキラと輝き、宝石のように床に落ちると、まるでその静寂の中でひときわ大きな音を立てるようだった。
静寂の中で、遠くの鳥の声が響く。僕たちの涙の音がその静けさに溶け込んでいった。
すみません、一部内容が変わりましたのでそこらへんご了承ください。




