第十一話 守るために仕える者
「どうして完璧で究極の私に矢なんて打てるの。そんなの喜べないでしょ。私を見て敬って私以外の奴と仲良くして私の喜ぶことをする。それがこの世界で唯一の喜びでしょ」
キンが狂気にも思う自分中心の考えをユウカが放った弓を交わしながらぶつける。ユウカはすぐに次の弓矢を構えながら襲いかかる魔族たちを避ける。
クーはキンに近づこうと接近しようとしても魔族たちに阻まれて前に進めず舌打ちを軽くしている。
「なんであなた達三人は私を敬ってないんですか。おかしいですね。どうして何ですか。どうしたらあんた達は喜んで私を見てくれるんですか」
キンが怒りながら数々の弓を交わし手にかかった血を近くにいた魔族の体にごしごしとつけその魔族を蹴り壁に魔族がぶつかった。
自分が蹴られて普通なら憎悪を抱くはずなのになぜかその魔族は至高の喜びを受けたかのように喜んでいた。体の四肢が折られて痛みが全身を襲っているはずなのに痛みより喜びが勝っているように見える。この世に生まれて一番気味の悪いと思える光景だった。
「やっぱり、あなた達三人が異常なだけですね。普通ならああいう感じなるはずなんですけどね」
「お前の考えは本当に傲慢だな。気に食わない」
ユウカがキンの考えを否定する言い方で発言する。
「傲慢?私のどこが傲慢なんですか?みーんなは私を見て私を喜ばせようとしているわけですよ」
確かにキンの行動や考え方は傲慢だが、キンは私はそうじゃないと強く否定する。どんな思考したらそんな考えが出てくるのかと疑問に思いつつ、キンに対して氷柱を放つ。
キンは躱そうとするも少し反応が遅れて頬にかすり傷が出来た。
その傷は何故か治り血も蒸発して消えた。それと同時に洗脳されている魔族の中の一人にキンと同じ傷が出来て喜んでいた。喜んでその場に倒れてしまった。いかれていると思いどう攻略するべきかと考える。あの傷の転移の仕組みが分からない以上キンを爆発させても他の魔族にその状態がうつりキンが復活する可能性がいがめない。
しばらくこの場は膠着状態になる。
広場の中央にて
大剣がアインの上空を切り襲いかかる。それを片手でいなし衝撃が後ろにある噴水に当たり噴水が水と共に爆ぜる。
「くそっ!」
「まったく、さっきから同じ攻撃しかしてないよね。それしかできないのかな。君の安易な攻撃には哀しさが出てくるよ」
コルドが何度も何度も荒々しく切りかかりアインがすべてを躱したり受け流したりしている。コルドが一度後ろに下がり何かしらの攻撃のタメを作っている。
「お前らは何がしたいんだ」
僕はその隙にアインに質問する。
「あぁまったく哀しいね。説明されないと分からないとか君らしくないじゃないか。覚えてないのかい哀しい哀しいね」
「……知らない、……お前なんて知らない」
何やらアインは僕を知っているかのように話すが目の前にいる男に一切の覚えがない、頭が混乱する。知らないはずの記憶が自分の中で流れてくる。
「ホントに覚えてないんだなんて哀しいね。一緒に生活したあの日々を覚えてないだなんて哀しい哀しすぎるよ」
出ていないはずの涙を救っているアインを見て頭がこんがらがる。どこかで見たことがあるようなないような記憶が脳にぶつかり、動きが固まる。
「僕はね君をまた捕えるために来たんだよ。あの時は惜しくもあと少しのところで逃げられたからね。哀しかったなぁ」
狂気に感じる笑顔を向け涙は流さないのに哀しいという言葉を繰り返す。
「無視すんな!大剣鬼流…居合鬼り!」
コルドが後ろから音を超えるような速度で駆け上がってくる。コルドの大剣がアインの手とふれあい大気が揺れその衝撃波がこっちまで伝わり、片眼鏡がぽとりと落ちた。その影響で髪色が変わった。
「おぉやっぱり髪色変わってたのか。なんで髪色を変えていたんだい。哀しいね」
目を凝らしてみるとコルドの大剣はアインの手と一センチ当たりのところで止まっておりアインの手のひらには外傷が見当たらない。
「無視するな!」
「さっきからうるさいんだよ。後で相手してあげるから黙ってくれないか」
コルドが空中で動きが止まり、そこの時間だけが止まっている感じだった。こちらに向かって一歩一歩歩いてくる。
「虚無なる破壊」
弓を素早く構え、アインに対して放つ。これも手のひらの少し前で矢が急激に動きが止まり、当たることはなかった。
「その腕邪魔だな哀しいよ。君が抵抗しなければこんな事せずに済んだのに。」
自分の動きもコルド同様に止まり、アインが横に歩いてきて縦に手を振った。左腕は肘から前が右腕は手が目の前に飛んでいった。なんで動きが止まるのかそれを考える前に痛みが襲ってくる。
痛い痛い 死なないから痛いという感情だけが永続的に続く。切断面が熱く感じる。血がドバドバと腕から流れてゆく。
血は流れは途中で止まり地面の寸前に止まる。出血死しないだけましなのだろうか。腕と手も地面に落ちず弓だけが落ちる、固定されているのはあくまでこの身体だと思った。
「あああああ!!!」
痛くて痛くて思わず声が出る。
「哀しいよ、君らしくないじゃないか」
あまりの痛さに意識が白くなっていく。アインという狂人の声も聞こえずらくなっていく。
死にたい、久々に思うこの感情。永遠に続く痛みから逃げたい。二度と味わうことがないと、幼少期に思っていた感情。死にたい、こんな痛みがずっとつづくなら。
死ぬんだったら、最期に一度クーの笑顔を拝みたい。あの太陽な明るい笑顔を。最期?
ふと疑問が浮かんだ。クーを悲しませたら従者失格なのでは。僕が死んだら誰がクーの買い物に付き合う?わがままに付き合う?
あの人に付き従えるのは僕だけ。ここでは死ねない。死んじゃだめだ!自己中だと言われても構わない!!
遠のいてゆく意識を無理やりにでも起こし体を動かそうとする。身体が動き始め、左腕で殴り掛かろうとする。
「流石だね。だがその抵抗は哀しいよ。これ以上は傷つけたくなかったのに」
殴りかかる左腕をしゃがみながら躱した。その勢いで足で空気を切り僕の足が切断される。
バランスが崩れ地面に倒れる。先程落ちた腕から流れる血が顔の半分に当たってくる。決死の覚悟で放った攻撃がかわされ、さらなる痛みが襲ってくる。
視界が霞み、痛みが全身を駆け巡る。足も腕も切り離され、耐え難い苦しみに襲われる。
それでも、体を無理に動かそうとする。
「まだ動くのかい、しつこいね。そこだけは変わってないね。そんな性格が哀しい哀しいよ」
足を切ろうとアインが手を上にする。振りかぶるその瞬間僕とコルドの下に魔方陣が現れる。
光が体を包み、屋根の上に移動した。
何が起こったのか分からないと視界に大きいの胸が飛び込んでくる。
「ごめんごめんねぇ。遅れちゃった」
お母さんだ。お母さんが僕を抱く。お母さんの涙が僕の髪に大量に流れてくる。僕も絶望の状況から救われたことで少し涙ぐむ。
コルドの方を見るとリバルがコルドの怒りを抑えていた。
「チっ、なんで邪魔するのかな。邪魔しないでもらえるかな。哀しいy・・」
アインの死角から強烈な剣の一閃が流れるように放たれる。アインはギリギリでかわしながら後ろに一歩下がる。
「何も言わずにいきなり切りかかるなんて自分の実力に自信がないのかな。哀しいよ」
「ほう今のを躱しますか。なかなかやりますね」
王妃が現れて剣を構えた。
しっかりとアインを見つめ、不審な行動を起こそうとするとすぐに動けるように構える。
僕はそこで気力が尽きて、意識が途絶えた。