第十話 哀しみの吸血鬼、傲慢な喜び
夜空には無数の星が輝いているが、広場全体には不気味な静けさが漂っていた。その中心に立つ吸血鬼の男は、白い肌と青い瞳が月明かりを反射し、不気味な光を放っていた。
そんなとき上空から一つの影が舞い降りた。
「アイン!」
コルドだ。コルドの振りかざした大剣は吸血鬼の男__アインの手のひらにぶつかったがその手には一切の傷ができなかった。
「哀しいね。話の最中にいきなり剣をぶつけてくる君が哀しいね」
コルドが後ろに下がり次の攻撃に移る。
「俺を覚えてないのか、アイン!」
普段のコルドの気だるそうな性格から一変怒りが顔に出ている。
「知らないね。なんで僕が君のことを覚えないといけないかね。君の考えが哀しいね。君なんかに興味ないよ。僕の目的はそっちの方だよ」
コルドの質問を一蹴しコルドの方を見ず僕の方を見ている。もしかしたら自分の記憶に関係があるでは思い、アインの行動を伺いつつクーの方を見る。
「キュウ私もセロナの方に行くね!頼んだよ!」
「ちょっ勝手に行かないでください」
クーは綿あめとりんご飴を食べ終え棒をごみ箱に捨てセロナの方に向かう。それを止めようとしてもクーはセロナの方に走って向かっていく。
「君も一応目的の一つだから動かないでもらえるかな。哀しいよ」
さっき兵士を殺したのと同じ攻撃を仕掛ける。仕掛けは分からないが透明な刃?なのだろうか。
クーはその攻撃をしゃがみながら躱しセロナがいる方向に更に加速しながら走る。
「俺を無視するな!」
自分を無視する行動にコルドが怒りを募らせ大剣を振りまわしながら攻撃する。
「無視してるつもりはなかったんだがな。君の短気さには哀しさが出てくるよ。哀しいと思うだろう。そもそも僕は君の顔に見覚えがないんだけど。どこかであったっけ?」
「お前がお前が!家族を親友をカレンをやったんだろ。!」
「知らないね。いちいち覚えているわけないだろ。まぁけど君が生き残り何だったらその時に死ななかったことが哀しいね」
この場の空気はコルドの怒りとアインの不気味さに飲み込まれている。そんな様子を横目にセロナの方向を見る。
セロナ方向
「何だこの状況」
あたりを見渡すと周りの魔族たちが全員が謎の美少女の方を見て仲良く腕を組んでいる。
謎の美少女は暁色の長髪で独特な透明感がある。水色の瞳は自分の全てを覗いているような不気味さがある。
「あれ私の前でなんで喜んでないんですか。私という誰もがうらやむ完璧で究極の美少女の前で前でなんでみんなと仲良くしないんですか?私を中心にみーんな仲良くなるはずなんだけどな」
謎の美少女の発言を聞いてこの状況について考える。
(あいつの力で洗脳されているのか?)
「あいにくあたしはあたしが認めた奴としか仲良くしないんだ。というか洗脳して仲良くさせるなんてふざけてんのか」
「洗脳?私はそんなことしませんよ。みーんな私の容姿をみていがみ合いや喧嘩をやめて仲良くしてるだけですよ」
おっとりとした少女は口調で話し続ける。
(無意識に発動しているのか?そんな魔法あったか?もしくは魔法じゃないのか?)
洗脳をする魔法はあったと思うが無意識に発動するのは聞いたことがない。自分の自動防御魔法も魔力がないと発動しない。
魔法には魔力が必須。他者に影響を与える魔法なら影響を受けた相手に自分の魔力の一部がうつる。そのはずなのに洗脳されているとされる魔族たちには一切魔力の濁りを感じない。
「あんた名前は」
「あっ名前を知らないから仲良くしてくれないんですか?そうですね私の名前はキンとでも呼んでください。ほらぁ金って鉱物はどんな人だって聞くだけでとっても喜んでくれるじゃないですか。これでみーんなと仲良くしてくれますか?」
「そんな気は起きないよ」
謎の美少女__キンはそう名乗り少し微笑んだ。彼女の発言的にキンという名前が本名かは分からない。
「私が名前を教えたんですからそっちも名乗ってくださいよ」
「あたしはセロナ・バラクだ。よく覚えてくと言い」
キンに対して名乗りを上げる。名前を言って洗脳される可能性もあったがこれだけの魔族が全員名前を名乗るなんてことはないと思うから名乗っても大丈夫だと判断した。
「ところでなんで星歌祭の邪魔をしたのかな」
「それ言ったらー喜んでくれるんですか?」
「いい情報だったらね」
キンは表情を変えずに話し続ける。
「そうですかー。まぁ別にいいですよ。私とあのアインとかいう哀しい哀しい連呼するクズはー狐とエルフの混血児をとらえるために来たんですよ。今日はーこの国の魔王もその側近などの実力者がいないし、星歌祭ってことで気が緩んでいるじゃないですかー。あなたは混血児について知っていますか」
キュウクが目的らしい、キュウクにこのことを伝えようと動こうとすると、
「なんで喜んでくれないんですかー。仲良くしようとしないんですか?みんな、私を喜ばせてー」
キンが二回程手を叩くと周りの魔族たちが動き出して自分をとらえようとする。まるでアンデットのゾンビのように襲ってくる。
「くっ。離せ!」
振りほどこうとするも数が数で埋もれてしまう。
「重い一撃」
埋もれていく中、瞳に一つの矢がキン対して放たれていくのが見えた。
「みんなー私を喜ばせてー」
飛んでくる矢を肉壁のように魔族たちを盾として扱う。
「外した、リバル次!」
埋もれていく山の中から脱出して矢が打たれた方向を確認する。建物の屋根の上にフードを脱いでいるユウカとリバルの姿が見えた。
「大丈夫か・・・ってあの時の嬢ちゃんか。立てるか」
リバルが屋根から降りこちらに近づき手を出した。
「大丈夫だ」
その手をはじき自力で立った。
「セロナ!大丈夫?」
後ろから爆速で走ってくるクーガが見えてくる。
「クーガ、そっちは大丈夫なのか」
「大丈夫、大丈夫キュウクとえっとあと・・・」
「コルドじゃねぇかそっちに行ったのは」
「あっそうだそれそれ」
どうやら一昨日戦ったうちの一人コルドがキュウクの方に言っているらしい。
あの大剣のさばき具合ならそうそうキュウクの足手まといにはならないだろうと思いつつキンの方を見つめる。
「私を無視して仲良くしないでしないでよ。私が喜べないでしょ」
キンが少しだけ怒りながらこちらを見る。ユウカの弓を魔族たちを肉壁として自分の体に血が付くことすら許していない。
「ユウカ、コルドの方に行ってていいか」
降りてきたユウカにリバルが聞く。
それにユウカがうなづきリバルが「頼んだぞ」とだけ言い残しキュウクたちがいる方向に向かい始めた。
「なんで私をみて喜ばないのねぇなんで!なんで私を、完璧で究極の美少女を見て抵抗するの!どうして!」
キンが血相を変え怒りを自分とユウカ、クーガにぶつけた。その怒りは周りの建物を反響し、窓が揺れ衝撃波が伝わってくる。
ユウカは一人で動き出し周りを気にせず弓矢を放つ。