【1分小説】永遠の花咲く丘
「願った者の前にだけ現れる、美しい花々が咲く丘がある。その花は一つ一つが力を持ち、摘めば必ず願いが叶う。お返しに、あなたも願いを叶えなければならない」
祖母から聞いた童話は、忙しい日々の中で記憶の片隅に追いやられていました。
しかし、ある日。
簡素な廊下。
エナメルの床に自分の顔が反射している。
治療室から出てきた医者は首を横に振った。
その日、私は家族を2人失った。愛してくれた者。愛していこうとしていた者。大切な2人。
私は深い悲しみに暮れ、自殺を考えた。
その時、祖母の話を思い出した。
「見つけなきゃ……」
世界中を飛びまわり、噂話のようなものから信ぴょう性のあるものまで。多くの人と出会い、別れ、そして遂に。
「見つけた……」
枯れた声で絞り出すように言う。
一面が美しい薄桃色に染った丘。風に揺れ、花びらが散る。
跪き、1輪の花を摘む。
風に揺れ、青々とした葉から伸びる薄桃の花弁。ほのかにカモミールのような匂い。
両手でしっかりと握りしめ、強く願った。
「どうか旦那と娘を生き返らせて……他に……何もいらないから……」
花は大きく揺れて輝き、空に一筋の光を放った。
自然と涙がこぼれた。
その涙が摘まれたばかりの茎に触れた直後、花が咲く。
「あれ……私……こんな所で何して……?」
いつ来たのか、何の為に来たのか、何も思い出せない。
だが。
確かに胸にある優しい熱だけが、夢でない事を伝えていた。
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