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あの日、あの場所で①

あの日、あの場所で馬車にはねられた。

そのことを、コンスタンスは思い出した。

そしてー。


「私、思い出したのです。あの事故に遭う前、私は、貴方に離縁を申し出ていたのですね」

全てを思い出したコンスタンスは、そう言ってオレリアンに寂しそうに笑った。

その笑顔に、オレリアンは胸を切り裂かれたかのような痛みを覚えた。

彼女にこんな言葉を言わせてしまうなんて。

もし過去に戻れるなら、あの頃の自分を殴りつけてやりたい。

いや、最初から…、出会ったその日から、全てをやり直したい。


「コニー…」

オレリアンは妻の手を握りしめ、その顔を切なげに見つめた。

何から、どう話せばいいのだろう。

とにかく、今までのことを全て謝って、離縁の話など全て白紙に戻して、新しく夫婦としてやり直して…。

しかし次の妻の言葉は、再びオレリアンの希望を打ち砕いた。


「私が記憶を失っている間に、とうに結婚1周年は過ぎましたのね。これで、『白い結婚』が成立しますわ」

「コニー…!」


オレリアンは絶望に顔を歪めた。

『白い結婚』は正式な離縁理由になり、妻の方から申し立てることも可能だ。

もし本気でコンスタンスが申し立てたら、オレリアンになす術は無い。

なんとしてもその前に阻止しなければ。


「待ってくれコニー。俺は貴女と離縁したいなど、考えたこともないんだ。貴女にずっと冷たい態度をとり続けたことも、貴女を1年近くも領地に放置したことも、夫として貴女と向き合おうとしなかったことも、全部、全部謝る。全て俺が未熟で愚かな男だったせいだ。貴女を傷つけたこと、事故に遭わせたこと、記憶を失わせたこと、それも全部謝るから。謝ってすむほど安易なものではないこともわかっている。でも、これからそれを、全部償わせて欲しいんだ。許せないと言うならそれでもいい。どうか、どうか離縁ではなく、貴女の側で、俺の生涯を通じて償わせてくれないか?」


オレリアンはコンスタンスに口を挟ませることなく、一気に言い切った。

妻を見つめる彼の目は切実で、かつ真摯なものだ。

そこにはなんら自分をとり繕う言葉も嘘もない。

開き直りさえ感じられる言葉や、妻にみっともなく縋る姿を、軽蔑されたって構わないとオレリアンは思った。

どうしても、どうしても離縁だけは受け入れられないのだ。


コンスタンスは驚いたように目を見開き、夫の顔を見つめた。

今にも泣き出しそうな目で懇願する彼に、本心からの言葉だとわかる。

それを、信じられるとも思っている。


でも、償い?

夫が離縁したくないのは、私に負い目があるから?

彼は、償うために私と一緒にいたいの?


コンスタンスは混乱した。

彼が愛しているのはセリーヌのはずだ。

そもそも、政略結婚の犠牲者である彼に罪などあるはずもなく、償うことなど何一つ無いのだ。

ここで、コンスタンスさえ身を引けば彼は愛する人と結婚出来る。

そう、全て丸く収まるのだ。


コンスタンスは自分の手を包み込む夫の手を見つめた。

そして、静かに引き抜いた。


「…コニー…?」

オレリアンが顔を歪ませる。

そんな夫を見据え、コンスタンスは口を開いた。



「セリーヌ様は、どうされたのですか?」


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