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いざ、王宮へ⑪

王太子の後を追って走る中、オレリアンは彼の叫び声を聞いた。

部屋に飛び込むと、王太子が座り込んでコンスタンスを抱き抱えている。


「コニー!」

オレリアンは走り寄り、コンスタンスの顔を覗き込んだ。

その顔は蒼白で、僅かに目を開くと、弱々しくオレリアンを見上げる。

そしてその手首はハンカチが巻かれていて、すでに彼女の血で真っ赤に染まっていた。


「コニー!何故…!」

オレリアンは腰のベルトを引き抜くとギリギリとコンスタンスの腕を縛り上げた。


「オレリ…、アン、さま…」

コンスタンスが力なく震えながら、右手を微かに上げる。

オレリアンはその手をしっかりと握り、奪うようにフィリップの腕の中から引き寄せた。

そして、そのまま力強く抱き上げる。


「待て!今、王室の侍医を呼びにやっている!」

フィリップが叫んで止めるのを、オレリアンは冷ややかに見下ろした。


「待っているより運んだ方が早い。どちらに行けばいいですか?」

「こ、こちらへ…!」

オレリアンを追って飛び込んできた騎士の1人が案内を買って出て、オレリアンはコンスタンスを抱いたまま部屋を出た。


(何故、こんなことに…)

オレリアンは自分の迂闊さを呪った。

コンスタンスが後宮の奥へ消える後ろ姿を見ながら、オレリアンは不吉なものを感じとっていたはずだ。

(やはり、離れるべきではなかった…)


疑問は多々あるが、今はとにかく、コンスタンスの治療が優先だ。

オレリアンはその腕に妻の体温を感じながら、回廊を進む。

侍医のいる部屋までの距離が、やけに長く感じられた。


コンスタンスの左手の傷は、思いの外深かった。

血が大量に失われたため、顔は蒼白で、唇の色も無い。

だが、処置が早かったため、命に別状はないという。

侍医の治療を受けた後は、国賓などが来た時に使用する貴賓室を与えられ、そこで引き続き治療を受けることになった。

傷ついた娘を見て取り乱した公爵夫人は連れて帰ると泣き叫んだが、結局は、ある程度動けるようになるまで無理に動かさない方がいいという侍医の言葉に従う形になった。


あれから2日間、コンスタンスは眠り続けている。

怪我だけじゃなく、痺れ薬と媚薬を同時に飲まされたことも作用して、意識のない状態が続いているのだ。

手首の傷は、媚薬に抗おうとしたコンスタンスが自ら付けた傷だという。

「変な副作用がなければ良いのですが…」

と、侍医はポツリと零した。


この2日間、貴賓室はルーデル公爵家の者たちで固め、たとえ王家の者であろうと近寄れないようになっている。

看護は公爵夫人と侍女のリア、アンナで行い、父と兄も仕事の合間に頻繁に顔を出す。

そして当然夫であるオレリアンは、妻がいつ目覚めてもいいように、常に傍に寄り添っていた。


その間王太子から、ルーデル家、ヒース家双方に謝罪したいと言われた。

また、国王直々に謝罪したいとも言われた。

だが、愛娘を守りきれなかったことを心底悔やんでいるルーデル家は即座にその申し入れを拒んだ。

そして当然オレリアンも、妻の側を一時でも離れたくないし、謝罪も、妻が目覚める前に受けたくないと言った。

この後不敬罪で罰せられようとも、そんなことはどうでも良かった。

今はただ、傷ついた妻が一刻も早く目覚め、再び笑顔を見せてくれることだけを祈っていたのである。


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