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いざ、王宮へ⑩

※流血表現があります。

苦手な方はご自衛ください。


怖い…。

体が、溶け出しそうに熱い…。

体中火照り、汗が吹き出してくる。

ままならない体を持て余し、なんとか鎮めて欲しいと思う。


…鎮めて欲しい?

誰に?

殿下が来る?

殿下に鎮めてもらうの?

…嫌…!


コンスタンスは震える体を抱きしめ、目を閉じた。

はぁはぁと息は荒く、体に触れるもの全てに敏感に反応してしまう。

こんな状態の彼女を見て、フィリップはどう思うだろうか。

『助けてやれ』と、王妃に言い含められて来るのだろうか。

あんなに慕っていた相手ではあるが、今のコンスタンスは、彼に触れられるのを本気で嫌だと思った。

だが、このどうしようもない体を鎮めてもらえるなら、流されてしまうかもしれない。


嫌…!

オレリアンの心配そうな顔が浮かぶ。

彼と約束したのに。

これから穏やかに近づいて行こうと。

時間をかけて寄り添って行こうと。

そう、約束したのに。


ダメ…!

なんとか正気を保たないと!

ルーデル公爵家の娘として、ヒース侯爵の妻として、醜態を晒すわけにはいかない。


コンスタンスは自由のきかない体を励まし、正気を保つためにはどうしたらいいか必死に考えた。

部屋を見回すと、窓辺の机の上にペン立てがあり、キラリと光るものが目に入る。

…ペーパーナイフだ…。

コンスタンスはソファから転がり落ち、這いずるように、机に近づいた。

机の下まで来ると、椅子を伝い、机の足を伝い、必死に捩り登る。

なんとか這い上がって腕を伸ばし、ペン立てを倒すと、目当てのものが指に触れた。

手繰り寄せ、なんとか手に取り、机の下に座り込む。


もうすぐフィリップが来る。

それまでに、なんとかしなくては…。

コンスタンスは力の入らない右手でなんとかナイフを持って、左の手首に当てた。


正常な意識を保つ…。

コンスタンスには、自分を傷つけることしか、その方法を思いつかなかった。

当てたナイフを、真一文字に横に引く。

鮮血が飛び散り、ナイフが落ちる。

痺れ薬のせいで然程痛みを感じないが、血は流れ続けている。

流れ出る血を眺めながら、コンスタンスは薄っすら笑みを浮かべた。


ああ、もしかしたら深く切りすぎたかもしれない。

でもこれで、フィリップも手を出そうだなどとは思わないだろう。


血は、流れ続ける。

私はこのまま死んでしまうのだろうか。


オレリアン様…。

彼は、悲しむだろうか。

私が死んだら、彼は…。


一方フィリップは、王妃からの伝言を聞いて後宮へ急いでいた。

『コンスタンスに媚薬を盛りました。貴方が助けてあげなさい』

(母上!なんてことを…!)


たしかに母のコンスタンスへの執着は、少々度を過ぎているとは思っていた。

彼女を公式寵姫にというのも、母から再三言われていたことだ。

隣国では王族が妻や愛人を何人も持つのが普通であるため、正妃に迎えた隣国の王女も表立って何か言うようなことはしない。


だが、フィリップはあくまでコンスタンスの気持ちを一番に考えたかった。

自分の側にいることを、コンスタンス自身が望んでくれねば何の意味もない。

そもそも側妃の話を持ち出したのだって、コンスタンスが夫に冷遇されていると耳にしたことがきっかけだ。

最初から夫婦仲良くしてくれていれば、関わらずにいたものを…。

そういえば、コンスタンスがヒース領に閉じ込められていた話も、夫の元恋人を庇って事故に遭ったのも、聞いたのは母からだった…。


血相を変えて後宮に向かう時、入り口に控えていたヒース侯爵と一瞬目が合ったが、フィリップは即座に目を逸らした。

今、夫である彼に何か悟られるわけにはいかない。

彼に悟られる前に、なんとかしなければ。


『バンッ!!』

扉を開けて、フィリップが部屋に入って来た。

「コニー!どこだ⁈」

ソファに姿がないため部屋の奥へ向かおうとしたが、そこで、机の下に倒れているコンスタンスを見つけた。


「コニー!」

走り寄って抱き上げると、顔は色をなくし、左手首から血を流している。

「コニー!早まったことを!誰か!誰か医者を!」

叫びながら、自分の持っていたハンカチでコンスタンスの手首を縛る。


一方オレリアンは、後宮に向かう王太子のただならぬ姿を見て、言いようのない不安を掻き立てられた。

王太子の後に続こうとして、驚いた警備兵に体を抑えられ、止められる。

だが、オレリアンは警備兵の制止を振り切り、王太子を追った。

コニーが呼んでいる!

そう感じたのだ。


後で罰を受けるならそれでもいい。

コニーが、コニーが俺を呼んでいるのだ!


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