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いざ、王宮へ⑥

王太子はコンスタンスの手を離さない。

寧ろ、先程より力強く握られ、コンスタンスは困惑した。


「ダメだコニー。私は君と離れてからはっきりと自覚したんだ。私はやっぱり君が好きだ。思い出してくれ、コニー。私たちは10年もの長い間、お互いを信頼し、慈しみ合って時を重ねて来たんだ。どうか、どうかこの先も私の側にいてくれないか?」

今にも泣き出しそうな悲痛な顔で懇願する王太子を見て、心が揺れないわけがない。

そう、嬉しくないはずがないのだ。

ずっと慕ってきた、言うなれば初恋の人に告白されたのだから。

本当ならその手を取って、抱き合って、連れ去って欲しいとさえ思うだろう。

でも…。


オレリアンの、春の陽射しのような、穏やかに微笑む姿が目に浮かぶ。

たった半月の触れ合いしかないが、彼の妻として、彼に寄り添って生きていこうと決めたのだ。

(私はあの方を裏切るなんて出来ない…)

コンスタンスは目をギュッと瞑り、そして開くと、王太子を真っ直ぐに見据えた。


「殿下、私たちの道は違ってしまったのです。私の夫はヒース侯爵オレリアン様であり、殿下の奥方は隣国の王女様なのです。もう、金輪際、殿下と私が寄り添うことはないのです」

「コニー、ダメだ。ヒース侯爵では、君を幸せにできない」

「いいえ、いいえ殿下。オレリアン様は誠実な方です。あの方は、死が2人を分かつまで私と一緒に生きてくださると約束してくださいました。だから私は、あの方を信じたいと思います。あの方となら、生涯寄り添って生きていけると思うのです。殿下、どうか私を少しでも想ってくださるなら、そっとしておいてくださいませ」


瞳を潤ませながら訴えかけてくるコンスタンスを前に、フィリップは唇を噛んだ。

彼は、決して暗愚な青年ではない。

国のためとは言え、長年寄り添ってきた婚約者との婚約を解消して隣国の王女と結婚するくらいの強かさはあったのだ。


だが、頭では理解しても心はついていかない。

王女を正妃として迎え入れはしても、どうしてもかつて恋した少女を忘れられない。

だから、魔が差したのだ。

もし彼女を手元に置く理由が出来るなら、それに縋りたいと。

もし彼女も同じ気持ちなら、それが許されるのではないかと。


「コニー、どうしても私の気持ちは受け入れてもらえぬのか?君が頷きさえすれば、ヒース侯爵を私の側近に取り立てることも考えよう」


コンスタンスはヒュッと息を吸い込んだ。

まさか、王太子からそんな言葉が出るなんて。


「…お恨みいたします、殿下。私たちの美しい思い出を、こんな形で壊すだなんて。私のことを想ってくださるなら、どうして静かに幸せを願ってはくださらなかったのですか?」

瞬時に表情を凍らせたコンスタンスを見て、フィリップは取り返しのつかない言葉を吐いたことを悟った。


「…コニー…」

コンスタンスに触れようと手を差し出せば、彼女は振り払うわけではなく、静かに一歩下がった。

切なげに、今にも泣き出しそうな顔でフィリップがコンスタンスを見下ろす。

コンスタンスは能面のように表情をなくしたまま、黙ってフィリップを見つめた。

どちらも声を発することなく、お互いの出方を探り合う。


だが、その静寂を破ったのは、王妃の声だった。


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