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いざ、王宮へ①

王妃とのお茶会当日、コンスタンスは母とエリアスに伴われ、王宮へ向かった。

コンスタンスの記憶の上では3ヶ月前まで毎日のように通っていた王宮であるが、実際には約2年ぶりの登城になる。

馬車の窓から外を眺めていたコンスタンスは、王宮が近づいてくるにつれ、気が重くなっていくのを感じていた。

そんな娘の横顔を見ながら、公爵夫人はフッとため息を漏らした。


「王妃様にも困ったものね。ここまでコニーに執着するなんて」

「執着…、ですか?」

コンスタンスが驚いたように言葉を繰り返す。

たしかに王太子の婚約者として、未来の嫁として、かなり可愛がってもらっていたとは思う。

婚約解消後に躍起になってコンスタンスの結婚相手を探したのも、こうして無理矢理会おうとするのも、実の娘のように思ってくれているからではないのだろうか。


「たしか…、母上と王妃様はご友人だったのですよね?」

エリアスが母にたずねた。

コンスタンスが王太子の婚約者に選ばれる時、友人の娘であるからと王妃が力強く推したとも聞いている。

しかし母は少し気まずそうに首を竦めた。

「たしかに友人であったけれど…、実は私たちは、恋のライバルでもあったのよ」

「「……は?」」


突然母から『恋』などというワードが飛び出したため、エリアスもコンスタンスも驚いて目を丸くした。

「もう時効よね…」などと前置きして、母は話し始める。

「実は私たちは、2人とも国王様…、つまり当時の王太子様の婚約者候補だったの」

「お母様と王妃様が?」

母も王妃も実家は侯爵家である。


「では…、王妃様が王家に嫁がれたということは、母上が負けてしまったということですか?」

エリアスはズケズケと言葉も飾らずに母にたずねた。

しかし公爵夫人は小首を傾げ、

「うーん、そうではないの」

と困ったように微笑んだ。

「実は王妃様は当時のルーデル公爵令息…、つまり貴方たちのお父様に密かに恋をしていたのよ。お父様はお若い頃、それはそれは素敵な方だったのよ?」

「お母様、そこは過去形にしなくても結構ですわ。お父様は今も素敵な紳士ですもの」

ルーデル公爵は壮年期に差し掛かった今もダンディだと貴族の夫人や令嬢たちから人気が高い。


「ああ、そうねぇ。ただ王妃様は実家の思惑もあるし、ご自分も未来の王妃になるため努力していらっしゃったから、夢を捨てきれなかったのね。お父様に対して積極的にアピール出来ないうちに、お父様は私に求婚してしまったのよ」

「あれ?では勝ったのは母上の方ということですか?」

「まぁ、そうなるのかしらね。お父様ったら私が王太子様の婚約者に選ばれたら大変と、婚約者候補に名前が挙がってすぐに求婚してくださってね。小さい頃から私をずっと好いていてくださったらしくて…」

「はぁ…」


こんな、王宮に向かう馬車の中で、まさか母の惚気話を聞かされるなんて。

思ってもみなかった暴露話に、エリアスとコンスタンスは苦笑した。


「王妃様が貴女に固執するのは、あるいは初恋相手の娘だからかもしれないわね。貴女が7歳でフィリップ殿下と婚約したのも王妃様のごり押しだもの。お父様も私も抵抗したのだけどね」

「…抵抗?」

両親がコンスタンスの婚約に反対だったとは初めて聞いた。

「母上たちは…、コニーが王太子妃になるのは嫌だったのですか?」

「当たり前よ。いくらなんでも7歳で婚約なんて早すぎるわ。それに王家だなんて、そんな気苦労の多いところに可愛い娘を嫁がせたいものですか」

「なんだ、父上も母上も私と同じ気持ちだったのですね」

「お兄様も?」

「それこそ当たり前だ。私の可愛いコニーを王室に取られるなんて耐え難かったさ」

「でも、そんなこと全然…」

「面と向かって言えるわけないだろう?コニー自身が納得して、殿下とも仲良くやっていたのだから!…って、ごめん」

エリアスは口を手で押さえ、バツが悪そうに謝った。

フィリップとの仲を指摘したことを後悔したのだろう。

「嫌ね、大丈夫よ、お兄様」


コンスタンスは両親や兄の気持ちを初めて知った。

王妃を輩出することは、ルーデル公爵家にとっても名誉なことだと思っていた。

だから婚約解消されたことを不名誉だと申し訳なくも思っていたのに、両親も兄も、本気でそんなことは気にしていなかったのだ。

寧ろ、口には出さないが、かなり王家に憤りを感じているのだろう。


「コニー」

母が、コンスタンスの両手を自分の両手で包み込んだ。

コンスタンスを見つめる目は真剣で、そして慈愛のこもった眼差しだ。


「嫌なことは嫌とはっきり言って、自分の気持ちはきちんと伝えてくるのよ。私たちは貴女がどんな選択をしても貴女を応援しますからね」

「ああ。コニーのことは絶対守るから。言いたいことを言って来い」

エリアスも2人の手に自分の手を重ねる。

「お母様、お兄様、ありがとう」

コンスタンスは母と兄の目を見て、力強く頷いた。


王宮では、夫オレリアンも待っていてくれる。

両親や兄には、このお茶会を終えたらヒース侯爵邸に戻りたいと告げてある。

彼と夫婦としてやり直してみたいと。

交流を続けるうち、自然とそう思えるようになったのだ。

3人はコンスタンスの選択を受け入れ、喜んでくれた。

記憶がないままの新しい生活は不安も戸惑うこともあるだろうが、オレリアンはコンスタンスの全てを受け止めてくれるだろうと。


馬車が王宮の門を抜け、エントランスに近づいて行く。

その前には騎士たちと共に、夫オレリアンの姿もあった。


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