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再び、王都へ⑫

「オレールよ!オレールが見えて来たわ!」


ルーデル公爵邸のバルコニーから乗り出すようにして、コンスタンスは夢中で王太子成婚記念パレードの行列を見ていた。

コンスタンスの後ろからは、リアがハラハラしながら腰の辺りを持って支えている。


ここは、コンスタンスの母の部屋である。

ここから見ることを決めたのは、兄エリアスが、この部屋のバルコニーが一番良く見えると言っていたからである。


「ほら見てお母様!あのかたまりの、前から2番目にいるのがオレールよ!」

「はいはい」

ルーデル公爵夫人は娘が指差す方に目を凝らした。

「ねぇ見える?あれが私の旦那様よ!すごく凛々しいでしょ?ああ、なんてカッコいいの?!」

パレードを先導する近衛騎士の一団に夫の姿を見つけ、コンスタンスは興奮しっぱなしだ。


「あまり乗り出すと危ないわよ、コニー」

「あ、こっち見た!オレールがこっちを見たわ!きっと私に気がついたんだわ!」

コンスタンスは夢中で夫に向かって手を振っている。

もちろん、パレードを先導する近衛騎士のオレリアンが手を振り返すわけにはいかないが。


「そんなに興奮して…。頭は大丈夫?痛くなったらすぐに言うのよ?」

「はあい」

公爵夫人は興奮する娘に呆れたように目をやった。

だが目をキラキラさせて夫に手を振る娘を、微笑ましくも思う。

そしてそんな娘を見ながら、娘婿オレリアンとの会話を思い出していた。


10日ほど前、オレリアンが1人でルーデル公爵邸を訪ねて来た。

コンスタンスがパレードを見たいと言っているが、自分はパレードの先導役だから連れて行ってやれない。

だから、この邸から見せてやって欲しいと。

当然公爵とエリアスも成婚式とパレードで忙しいから付き合ってはやれないが、「では私が一緒に見ましょう」と公爵夫人は快諾した。

オレリアンはホッとして義母に礼を言ったが、だがその時、こうも言っていた。


「矛盾していますが、本当はパレードなど見せたくないのです。コニーが時々頭痛を起こすようになったのは王太子殿下と再会してからだと、義母上もご存知だと思います。ひょっとして、コニーの脳は、記憶を取り戻そうとしているのかもしれません。だとしたら、パレードを見て、また頭が痛くなったりするかもしれない。私はそれが怖いのです」

真剣に話すオレリアンに、公爵夫人は安心させるように微笑んだ。

「私がついているわ。それに、公爵邸には侍医が常駐しているから、隣室に待機させておくわ。…それにね?」

公爵夫人は、オレリアンに少し悪戯っぽく笑って見せた。

実は数日前に娘に会いにヒース侯爵邸に行った時、娘が興奮して話していたのだ。


「コニーがどうしてパレードを見たいか知ってる?あの子、言ってたわ。本当は最初から貴方がその日仕事で居ないのなんてわかってたんですって。だっていくら子供だって、近衛騎士が成婚式のパレードに出るくらい、わかっているでしょう?だからね…?」

「はぁ…」

義母の言わんとすることがわからず、オレリアンは首を傾げた。


「あの子がパレードを見たいって駄々をこねていたのは、貴方が見たかったからなのよ?」

「…え?…私を?」

「ええ。まぁ、パレードの警護くらいに思っていたのでしょうけどね。だから近衛騎士はパレードを先導するお役目で、花形なのよって教えてあげたら、コニーったら目を輝かせてね。絶対貴方の凛々しい騎士姿を見るんだって、それはもう張り切っちゃって。あの子、本当に貴方が大好きなのね?オレリアン」

うふふ、と公爵夫人は口に手をやって笑った。


「…そうだったんですか…」

話を聞いたオレリアンは、頬を赤く染め、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます…。義母上…」

その美青年の笑顔に、公爵夫人も、周りで聞いていた公爵と義兄エリアスも、思わず見惚れていた。

思えば、3人が心の底からオレリアンを娘婿として認めたのは、この時だったのかもしれない。


そんなことを思い出しながら、夫人は輝く笑顔で夫に手を振る娘を、微笑ましく見つめた。

そしてその手を振る先に目をやると、オレリアンもまた、馬上から妻を愛おしそうに見つめていた。


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