再び、王都へ⑪
デートを途中で切り上げて帰宅したコンスタンスは、たいそうご立腹だった。
「もっと色んなお店が見たかったのに…」
「また連れてってあげるよ」
「いつ?明日?明後日?」
「…コニー…」
オレリアンは少し困ったように苦笑した。
こういうところが、やはり幼い少女だと思う。
本当はなんだって叶えてやりたいが、オレリアンだって仕事の都合があるし、何より、王太子の成婚ムードで賑わう街に、もう連れて行きたくはないのだ。
実際、成婚式の日がもっと近づけば、地方から人が押し寄せたりして街は混雑するし、その分治安だって悪くなるだろう。
「街は今混雑してるし、もう少し経ってからにしよう」
そう伝えると、コンスタンスは頬を膨らませた。
「じゃあパレードは?見に連れてってくれる?」
それにも、オレリアンは困って眉尻を下げた。
「俺はその日仕事があるんだよ」
近衛騎士であるオレリアンは、その日は王太子の成婚式の警護やパレードの先導をしなくてはならない。
「お休みできないの?」
「無理だよ、コニー」
騎士の一番大事だとも言える任務を、休めるわけがない。
「じゃあリアと行くわ」
「ダメだよコニー。危ないだろう?」
コンスタンスの頬はさらにぷうっと膨れた。
大きな瞳には、今にも溢れそうに涙が溜まっている。
「…コニー…」
オレリアンはコンスタンスの涙に弱い。
「ルーデル公爵邸はパレードの通過する通りに面していたはずだ。義父上に連絡を取ってみよう」
「いいの?」
「ああ。邸の中から見ると約束出来るならね。絶対通りに出てはいけないよ」
「オレール!大好き!」
コンスタンスはオレリアンに抱きついた。
オレリアンは妻の体を受け止め、そして優しく抱きしめた。
本当は元婚約者の成婚パレードなんて見せたくない。
コンスタンスの頭痛だって気になる。
だが、可愛い妻がこんなに見たいと言っているものを拒否し続けるのは、オレリアンには出来なかった。
おそらく、ルーデル公爵邸からパレードは見えるだろうし、自分がついていてやれない以上、彼女の実家に頼むのが一番良い方法だろう。
義父と義兄は当然当日は忙しいだろうが、義母に預ければ大丈夫だろう。
オレリアンはそっとため息をつくと、妻の柔らかい髪を優しく撫でた。
そうして、王太子の成婚の日がやってきた。
あの夜中に突然現れた日以来、王太子がオレリアンとコンスタンスに接触してくることはない。
自分の結婚準備などで忙しいのもあるだろうが、幼女のようになってしまった元婚約者をどう扱ったらいいのか戸惑っているのもあるだろう。
視察について行ったり夜会の警護に当たったりと任務中のオレリアンと顔を合わせることもあるが、王太子は一瞥するだけで、特に声をかけてくることもなかった。
このまま側妃の件は立ち消えになってくれればいいと、オレリアンは願っている。
成婚式が終わり、パレードが始まった。
オレリアンたち近衛騎士は、皆ロイヤルブルーの騎士服に身を包み、馬に跨ってパレードを先導していた。
その凛々しい姿に、沿道の多勢の乙女たちも、キャアキャアと声を上げている。
そしてコンスタンスもまた、
「お母様!パレードが見えて来たわ!」
と叫び声を上げた。




