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再び、王都へ⑦

フィリップ王太子の母である現王妃は、コンスタンスをとても気に入っていた。

未来の王太子妃として期待を寄せ、また自分の息子の嫁というより実の娘のように可愛いがっていたのである。

だから婚約解消の時も、最後まで反対していたのは王妃であった。


王妃の希望が通らず2人の婚約がなくなった時、彼女は躍起になってコンスタンスの新しい結婚相手を探し始めた。

コンスタンスが憐れみや嘲笑の的になるなど許せないと、なんとかフィリップの婚約発表前に彼女の身の振り方を決めたかったからである。


一方フィリップは、そんな母の行動にも、コンスタンスの縁談の話にも、一切関わろうとしなかった。

やむを得ない事情とは言え別れた元婚約者の縁談に口を挟もうと思うほど、デリカシーのない男ではなかったのだ。

そうしてコンスタンスは婚約解消から僅か半年後に、王妃が仕立て上げたと言っても過言ではないヒース侯爵オレリアンという男に嫁いでいった。


結婚してからのコンスタンスの生活ぶりも、フィリップは知ろうとはしなかった。

わざと耳に入らないようにしていたと言った方がいいくらいに。

もちろん彼女の幸せを祈ってはいたが、その一方で、自分がいないところで幸せに暮らしている彼女を見たくないと思う気持ちもあった。

だが、噂とは嫌でも耳に入ってくるものである。


『ヒース侯爵夫妻の仲は冷え切っているらしいな』

『夫人を自領に閉じ込めたまま会いにも行かないらしい』

『高貴なお姫様だった夫人を煙たく思ってるんだろう。何せ下位貴族出身の騎士風情だからな』

『夫人は放っといて王都の邸で義母と同居してるらしいぞ。妖艶で、魔女みたいな女らしい』

『義母が夫人を追い出したって話もあるな』


色々噂は入ってくるが、フィリップは耳を塞いでいた。

自分が幸せにしたかったのに、出来なかった相手である。

しかも自分はもうすぐ結婚する身。

事実を知ったからと言って、何が出来るであろう。


しかしそんなフィリップの考えを180度変える事件が起きる。

1年もヒース領で放置されていたコンスタンスが王都に戻ったその日、ヒース侯爵邸前で事故に遭ったというのだ。

フィリップはすぐさま宰相の嫡男で側近であるノルドに命じ、噂の真偽を確かめさせた。

そして、噂がほぼ事実であったことを知る。


激怒し、自分に出来ることはないかと模索していた最中、コンスタンスは実家であるルーデル公爵邸に引き取られた。

離縁かと安堵していたのも束の間、やがてヒース侯爵はコンスタンスを連れて侯爵領へ旅立った。

騎士団への報告は、妻が事故で負った傷の療養のためなどと称していたらしいが、今までの状況を鑑みて、あの男がコンスタンスを労わるとは思えなかった。

おそらく醜聞が下火になるまでまた妻を自領に閉じ込めるつもりなのであろう。


そしてそのうちに、ルーデル公爵を通じて、ヒース侯爵と義母との絶縁状にサインして欲しいと申し入れがあった。

『コンスタンスの平穏な生活のために』と言われ仕方なくサインしてやったが、それだって、義母との関係が面倒になったヒース侯爵の自分勝手な頼みなのだろう。


もう、我慢出来なかった。

国のために犠牲になったコンスタンスが、結婚し、さらに不幸になっている。

今度こそ、彼女を守りたい。


フィリップは母である王妃に訴え、コンスタンスを救出する策を練った。

コンスタンスの結婚に責任を感じている王妃が、それを拒むはずはない。


王妃はもうすぐ嫁となる隣国の王女に自分の願いとして頼みごとをした。

『王太子の元婚約者が夫に虐げられているので離縁させ、保護したいと思う。彼女の相手を見定められなかったのは私の罪。どうか、私の侍女として側に置くことを許して欲しい』

要約すればこんな内容だ。

そこに、将来的には側妃に…などということは一切触れていない。

のちにヒース侯爵にはコンスタンスが側妃になることも王女は承知していると告げたが、さすがに成婚前にそこまでは話していない。


気持ちの奥底まではわからないが、縁談をゴリ押しした負い目がある王女は、とりあえず元婚約者が王妃の侍女になる件は了承した。

これで、コンスタンスを王宮に迎える手筈は整ったと、フィリップは思った。

おそらくルーデル公爵も、コンスタンスを侍女に…、そして側妃にという話に異議は唱えないだろう。

コンスタンスは一度結婚し、出戻った後なのだから。


成婚式が翌月に迫ったある夜、漸くノルドからヒース侯爵夫妻が王都に戻ったと報告があった。

今日から、ヒース侯爵が業務に復帰したと。

公務で遅くに帰城したフィリップがそれを聞いたのは、すでに夜になってからだ。


フィリップは決意を新たに、拳を握った。

コンスタンスを迎えに行こう。

たとえ王宮内で彼女への蔑み、嘲笑があろうと、王妃と自分が守る。

万が一王太子妃側の虐めや嫌がらせがあったとしても、守り切ってみせる。


そうしてすでに夜更けではあったが、フィリップはノルドと護衛騎士のみを連れ、密かにヒース侯爵邸を訪ねたのであった。


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