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蜜月、やりなおし⑧

ある日いつものようにオレリアンがコンスタンスを連れて領内を回っていると、数人で立ち話をしている領民たちの会話が聞こえてきた。


「もうすぐ王太子様の成婚式だな」

「ああ。王都では盛大なご成婚パレードがあるらしいぞ」

「隣国の王女様はさぞかしお綺麗なんだろうな。お互い一目惚れって話だろ?」

「いや。向こうの王女様が一目惚れして強引に結婚をねじ込んだって話だぞ?」

「ああ、こっちの王太子様は婚約してたもんな。たしかうちの領主様の奥様と…」

「あー…、おまえ、それは言いっこ無しだよ」

「まぁ、どっちにしろ良かったよな。隣国は大国だから、縁戚になれてさ」

「ハハハッ、そうだよなぁ…って!……おいっ!」


オレリアンたちに気付いた領民の1人が隣の男の袖を引っ張った。

「なんだよ、急に……って!わぁ!!」

「うわっ!領主様!!」

「すいません!領主様!」


慌てて謝る領民たちに、オレリアンは軽く右手を挙げ、苦笑した。

少し気まずげにコンスタンスの方を伺うが、彼女も怒るでもなく驚くでもなくニッコリ笑っている。

もうこんな噂話は耳にタコが出来るくらい聞いているからだ。


「私もそう思うわ。おかげでこんな素敵な旦那様と結婚出来たんだもの」

コンスタンスは茶目っ気たっぷりにそう言うと、夫にそっと寄り添った。

「ああ。俺もだよ」

オレリアンは目を細め、妻の肩を抱き寄せる。

領民たちは「ハハハ…」と気まずそうに笑うしかなかった。


もうすぐ王太子が隣国の王女と結婚することは、この国の民なら皆知っていることである。

王都から離れたこんな田舎の領地でも。

当然コンスタンスに隠しおおせるわけもなく、それはとうに彼女の耳にも入っている。


オレリアンとコンスタンスが結婚した直後に婚約した王太子フィリップと隣国の王女は、1年以上の結婚準備期間を経て、来月結婚式を挙げる。

結婚式の後は城下を盛大にパレードするらしい。


その事実を知った時のコンスタンスの反応を心配していたオレリアンであったが、予想に反して彼女は全く意に介していないようだった。

事故後目覚めたコンスタンスは、自分は7歳で、王太子と婚約したばかりだと思い込んでいたはずである。

だから王太子の結婚は少なからず彼女にショックを与えるのでないかと危惧していたのだが、彼女はかえって心から祝福しているように見えた。

彼女は中身が7歳の少女ながら、ルーデル公爵家で暮らす間に失った記憶の情報を受け止め、オレリアンという夫の存在を受け入れていたのだ。


王都は今、王太子の結婚式と成婚パレードに向けて不逞な輩の取り締まりなど、厳重な警戒態勢をとっている。

近衛騎士であるオレリアンも、当然王太子の成婚式前には戻り、警護に当たらなくてはならない。

この休暇だって、騎士になって以来ほぼ休み無しに働いたオレリアンがやっともぎ取った休みなのだから。


本当は、王太子のご成婚に沸く王都へなど彼女を連れて戻りたくはない。

もしかしてルーデル公爵家で渋々ながらもコンスタンスのヒース領行きを承諾したのも、成婚ムードに沸く王都から彼女を離したいという意図もあったかと思われる。

だが、職務上、休暇は2ヶ月しか取れず、コンスタンスの実家にも2ヶ月で戻ると約束している。


(でも、今のコニーなら…)

とオレリアンは思う。

そう。

今のコンスタンスなら、成婚に沸く王都を見ても、成婚パレードを目にしても、祝福出来るだろう。


ただ、オレリアンが怖いのは、それらをきっかけにして、コンスタンスが記憶を取り戻してしまうことだ。

もちろんこのままでいていいはずがないと、頭ではわかっている。

だが気持ちがついていかない。

コンスタンスを、今の幸せを、失いたくないのだ。


(最低だな…。記憶が戻らないことを願うなんて…)

隣で笑う妻の横顔を見ながら、オレリアンはこっそりとため息をついた。


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