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蜜月、やりなおし⑦

数日前、領内の商いを取り仕切る商工会の会長から、領主夫妻を自宅の晩餐に招待したいと打診された。

マテオやセイは子供のようなコンスタンスを伴うことに不安を口にしたが、オレリアンは迷わず快諾した。

コンスタンスは長年の教育が身についているせいか、立ち居振る舞いやマナーは完璧だ。

誰にでも笑顔で接し、慈愛に溢れ気品もある。

だから、侯爵夫人として何一つ恥ずかしいことは無いと。

コニーは自慢の妻なのだから、と。


そうして夫婦で招かれた晩餐で、コンスタンスは夫の隣で微笑み、夫の期待によく応えた。

料理も美味しかったし、コンスタンスは妻として招かれたことに満足し、オレリアンもまた自慢の妻を披露出来て満足していた…はずだったのだが。


「鼻の下…?何のことだ?」

リアの言葉に、オレリアンは首を傾げた。

主人に対してかなり不敬な言い方だが、オレリアンに対して厳しいリアはいつもこんな感じだ。


「だから。あの時商工会長のお嬢様たちが旦那様に群がっていたのがお気に召さなかったのでしょう」

「たしかにあの日の旦那様は鼻の下を伸ばしてたからなぁ」

付け加えるように言ったのはもちろんダレルだ。


「はぁ?俺が?」

「ええ。ベタベタされて、満更でもないお顔を」

とリア。

オレリアンは眉間に皺を寄せた。

たしかに商工会の会長宅には10代前半から後半くらいの三姉妹がいた。

会長に紹介され、挨拶した後なんだかんだと寄ってきて話しかけられはしたが、三姉妹の顔など覚えてもいない。


「酷い誤解だ。鼻の下なんか伸ばすもんか。それに、昨夜は本当に見回りだったと、同行していたダレルならわかっているだろ?」

咎めるように2人を見ると、ダレルはニヤニヤと、リアは冷ややかに笑っていた。

そのままコンスタンスの方を見ると、彼女は相変わらず頬を膨らませ、唇を尖らせて明後日の方向を向いている。


ーああ、そうかー


オレリアンはようやく思い当たった。

彼女はきっと、妬いているのだ。

あの晩餐の席でもたしかにあまり機嫌は良くなかったが、あの時は緊張しているのだろうと思っていた。

だが、言い寄られていたわけではないが、夫が若い女の子に囲まれていたことが、気に入らなかったのだろう。


「王都から来た領主が若くて見目のいい男だったもんだから、会長の娘さんたちも興味津々だったのでしょう。奥様がいるのにもかかわらず、ベタベタしてましたからねぇ」

ダレルの言葉が追い打ちをかけ、コンスタンスは顔を真っ赤にさせた。

まるっきり背中を向けてしまったが、お下げ髪の横から覗いている耳も真っ赤だ。

そんな妻は爆発的にかわいらしく、オレリアンは彼女を抱きしめて、こねくり回したくなった。


「もしかして妬いてるのか?コニー」

「知らない!」

「ああ!貴女は本当に可愛いなぁ!」

オレリアンはコンスタンスを背中からギュウッと抱きしめた。

「オレール⁈」


そのままお姫様抱っこで抱き上げると、彼女を抱いたままくるりと回る。

「ちょっとオレール!やめて!」

コンスタンスは振り落とされまいと、夫の首にしがみついた。

だがオレリアンは面白がってさらにくるくると回る。

やがてオレリアンが回るのをやめると、コンスタンスはコテンと彼の肩に顔を埋めた。

香水をつけているわけでもないのに、コンスタンスの甘くて可愛い匂いがふわりとオレリアンの鼻を擽ぐる。


「ああ、可愛いコニー。俺の目には貴女しか映っていないよ。貴女以外の女性は皆同じ顔に見える」

妻に優しく囁く主人を、ダレルとリアは呆れたように眺めている。

だがそんな2人にお構い無しに、オレリアンは愛おしい妻の髪に口付けると、彼女を抱いたまま歩き出した。


「オレール、どこへ行くの?」

「2人きりになれるところへ。貴女のそんな可愛い顔は、俺が独り占めしたいからね」

夫の言葉が照れ臭かったのか、コンスタンスは少し顔を顰め、俯く。


「あ、もしかして俺、臭かったか?夜通し走り回って、風呂も入ってないからな」

オレリアンは顔を回し、自分の襟や胸元をくんくん嗅いでみせた。

「違うの。ちっとも臭くなんてないわ。オレールの匂い…、好きだもの…」

そう言って首元に顔を埋める妻をオレリアンは蕩けるような瞳で見つめ、再び歩き出した。


遠ざかっていく主人夫婦を、ダレルとリアは微笑ましく眺めている。

「このまま平和だといいんですがね」

突然背後から声が聞こえて、振り返るとそこにはいつの間に来ていたのか執事のマテオが立っていた。

「そうですね」

口を揃えて、2人が答える。


リアももうオレリアンを疑う気持ちは薄れていた。

この1ヶ月妻を溺愛するオレリアンの姿を嫌と言うほど見せつけられているのだから。


今のこの幸せが可能な限り続けば良いと、3人共願っている。

だが、この幸せがコンスタンスの記憶喪失が前提という砂上の楼閣だいうことも、わかっているのだ。




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