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蜜月、やりなおし②

その日の晩餐はとても楽しいものになった。

自領で採れたての新鮮な食材で作られた料理の数々に、コンスタンスは目を輝かせながら次々と平らげた。

流石に長年身に染み付いた食事マナーのせいかその所作は美しいが、楽しそうに、美味しそうに、もりもりと頬張っている。


最後にデザートが運ばれてくると、コンスタンスはさらにその大きな目をキラキラさせた。

ベリーがたくさん乗った、ムースケーキだ。

「うわぁ、美味しそう!色もすごく綺麗ね!」

「足りなかったら、私の分もあげるよ」

「まさか!私そんなに食いしん坊じゃないわ!」

「食いしん坊じゃない子がこんなものくっつけてるかな?」

オレリアンが手を伸ばしてコンスタンスの口の端を拭うと、指にクリームが付いた。

その指をペロリと舐めるのを見て、コンスタンスは頬を膨らませる。

そんな2人を、使用人たちは微笑ましく見ていた。


晩餐を終えて、オレリアンは妻を女主人の部屋へ送る。

「ずっと馬車に乗っていて疲れただろう?今日は早くお寝み」

そう言うと、彼はコンスタンスの頭を撫でた。


「…旦那様は?ここで寝ないの?」

キョトンと見上げるコンスタンスに、オレリアンは目を細め、困ったように微笑んだ。

「私は自分の部屋で寝るよ。ここは貴女の部屋だからね。ゆっくりお寝み、コニー」

オレリアンはコンスタンスの髪を一房手に取り、その先に口付けた。

しかしコンスタンスは不満気に彼を見上げている。


「…どうしたの?お姫様はご機嫌ななめなのかな?」

「どうして寝るお部屋が別々なの?夫婦は一緒に寝るんじゃないの?」

コンスタンスの問いに、オレリアンはさらに困ったように眉間に皺を寄せた。


「うーん。夫婦とは言っても貴女はまだ子供だからね」

「でも旦那様と私は夫婦でしょ?お父様とお母様だって一緒に同じお部屋で寝ているわ」


困りきったオレリアンは、助けを求めるように後ろを振り返った。

彼の後ろには、護衛のダレルとコンスタンスの侍女リアが控えている。

だがダレルは笑いを堪えるように口を押さえて明後日の方向を向き、リアは呆れたような顔で2人を眺めている。


コンスタンスは両手でオレリアンの右手首を掴んだ。

「ね?いいでしょ?旦那様」

上目遣いに小首を傾げるコンスタンスは爆発的に可愛い。

オレリアンは白旗を上げ、

「じゃあ、貴女が眠るまで一緒にいよう」

などと誰に言うともつかぬ言い訳をしながらコンスタンスと寝室に入って行った。


「うわぁ、大きなベッドね!」

コンスタンスは寝室のベッドにダイブすると、大の字になって転がった。

寝間着の裾がめくれ上がって太腿まで見えそうになるのを、オレリアンは慌てて裾を引っ張って隠す。

元々新婚夫婦用に用意されたベッドは、必要以上に広い。


「ほら、旦那様も来て」

コンスタンスは左半分に寄ると、自分の右側をポンポンと叩いた。

オレリアンは仕方なくベッドに横になると、コンスタンスとの間に犬のぬいぐるみを置いた。

実家に置いてきた愛犬フィルのかわりにと、オレリアンが彼女にプレゼントした大きな犬のぬいぐるみだ。

でもコンスタンスは不満気にぬいぐるみを自分の左側に置きかえると、オレリアンの左腕に抱きついた。


…これは、非常にまずい。

たしかに自分はコンスタンスと夫婦としてやり直したいと熱望していた。

今の彼女が自分を夫として見ていてくれることも、少なからず慕ってくれていることも嬉しい。

でも、彼女の中身は7歳の少女なのだ。

どんなに腕に当たる彼女の体が柔らかくても、どんなにいい匂いがしても、間違えても手を出したりするわけにはいかない。

それなのに…。


コンスタンスは絡めていた腕を外すと、

「旦那様、腕枕して」

などと甘えるようにすり寄ってきた。


……ものすごく、まずい。

(無心だ。無心になるんだ、オレリアン)

オレリアンは無の境地で左腕を横に投げ出した。

コンスタンスは嬉しそうにそこに頭を乗せると、さらに体を寄せてくる。

3ヶ月前までの妻とならあり得ない展開に、オレリアンはギュッと目を瞑った。

記憶が無いというのは、なんて恐ろしいことなのだろう。


(もう…、なるようになれ)

オレリアンは無の境地のまま、可愛い妻の柔らかい体をそっと抱き寄せた。


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