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回想、オレリアン⑥

翌朝目を覚まして寝室をうかがうと、よっぽど疲れていたのだろう、コンスタンスはまだ眠っていた。

そっと近づくと、頬に涙の跡が見えて、ハッと胸をつかれた。

喜怒哀楽を表に出さない人形のような女だと思っていたが、その寝顔は思いの外あどけない。

皆の前で気丈に振舞ってはいたが、さすがにまだ18歳になったばかりの少女なのだ。

見知らぬ土地に連れて来られ、隣室とは言え赤の他人と一夜を過ごし、心細くも、恐ろしくもあったのだろう。


すぐに、ここを発とうー。

元々すぐ王都に戻るつもりではいたが、俺は彼女が目を覚ます前にこの邸宅を出ようと思った。

嫌な夫としばらく顔を合わせずに済むと思えば、彼女もホッとするだろう。

幸い執事のマテオも侍女長のベティも優しい人間だから、穏やかに過ごせるに違いない。

この田舎の空気が、彼女を癒してくれればいい…。


俺は驚いて引き止めようとするマテオやベティを振り払って、ヒース侯爵領を後にした。

「次はいつ来られるのですか?」

と、責めるように問いただすマテオに答えもせずに。


今侯爵領には、俺の従兄弟にあたるジェドという男を領主代理として置いている。

彼は優秀で、信頼出来る男である。

近衛騎士の俺は王都を離れることが難しいため、領地経営はほぼ細かい報告をあげてもらって決定を下し、指示を出し、ジェドとマテオに任せているのが実情だ。

中のことはマテオに。

外のことはジェドに、という具合に。

だが、いずれはー。

騎士の仕事は天職だと自負しているが、いずれは辞めて領地経営に専念しなくてはならないだろう。


王都に戻った俺を待っていたのは、様々な嫉妬、及び嘲笑だった。

美しい公爵令嬢を娶ったことへの嫉妬と羨望。

それと引き換えに手にした爵位や領地拡大への蔑み、嘲笑。

もちろん、騎士仲間や近しい人たちにはわかってくれている人間もいたが、それでも俺にとってはかなりの重圧だった。

だからそれを見返すには、跳ね返すには、今まで以上に武勲を挙げるしかない。

そして、領地を、領民を潤わせるしかない。


俺は、夢中で働いた。

だから、また俺は、間違えてしまったのだろう。


ジェドとは領地経営の報告を定期的にやり取りしていて、マテオからも侯爵家の報告が定期的にあがる。

2人とも時々コンスタンスの様子も書き送って来て、口々に『領内の住人に慕われている』『使用人に慕われている』『侯爵夫人としての仕事を立派にこなしている』と言って、マテオなどは『様子を見に来て欲しい』とまで書いてくる。

だが、肝心のコンスタンスからは全く手紙類が届かない。

俺も忙しさにかまけて最初に2通ほど送っただけだが、まぁ、元々気持ちの通じ合っていない夫婦なのだから、返事がなくても仕方がないだろう。

俺は彼女から手紙の一通さえも届かないことを特に不審にも思わず、放置した。

ジェドやマテオが彼女を褒めるのも、領民や使用人が彼女を慕うのも当然のことだろうと。

彼女は本当は未来の王妃になるべきだった女性であり、この国最高レベルの貴婦人なのだから。

そう思い込んでいたのだ。


そして俺は、忙しさにかまけて、義母カレンをも放置していた。

俺にとっては憎悪すべき女だが、それでも義父にとっては愛すべき、晩年を彩ってくれた女なのだ。

出来れば、無理矢理追い出すようなことはしたくない。

だから彼女のために王都に家を用意し、何度か侯爵邸を出て行くように伝えた。

しかし彼女はその度にヒステリックに泣き叫び、俺はうんざりしていた。

いずれは出て行ってもらうつもりだが、とにかく今は面倒で、結局は放置していたのだ。

コンスタンスのこともカレンのことも、ダレルからも何度か忠告されたが、真剣には受け止めなかった。


結局、俺がやっているのはセリーヌの時と同じだった。

周りを見ず、人の忠告を聞かず、忍び寄る悪意にも気付かず、ただ、仕事ばかりしていたのだから。


前の時は、セリーヌに求婚できる身分を手に入れるために。

今回は、身分不相応の結婚をした自分が見下されないために。


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― 新着の感想 ―
セリーヌのときにあれだけやらかしたのに、また繰り返すの?また周囲の忠告聞かないの?またカレンを放置するの? 七回くらい死なないとなおらないのでは? この期に及んでまだ間違えたの「だろう」?
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