ストーカー
最終話です
宜しくお願いします!
「はい、あーん♡」
学校の昼休みに小金井手製の弁当を彼女の助けをもって俺が食べている。
彼女はとてもニコニコとして、いたく楽しそうだ。
(どうしてこうなった……)
話は3日前に遡る。
「え!? 次のドラマでラブラブ恋人役をするだって~?!」
「そうなのよ、だからお願いっ! こんなこと頼める男子は西野君以外にいないの!! だから手伝って!!」
「~~~!」
というわけで次の芝居の役作りのため、俺は彼女の恋人役をすることになった。そりゃ、学校はどよめいたよ。俺たち二人でいるところなんて見せてなかったし、しかもとても馴れ馴れしそうに校内でいるんだから。
しかしさすがは小金井。なんでも出来るな。弁当はもちろん冷えているが、冷えても美味しい料理を作っている。
卵焼きとはんぺんの焼き物なんか少し甘辛くして美味しい……。
男子からの(否、女子からも)目線が痛い。彼女自身簡単には事情を説明したみたいだが、すごく恨みつらみ、妬み、羨望を周りから感じてしまう。
「どう美味しい?」
「美味しいよ~」
「だ~め。ラブラブ役なんだから、ハニーも言って」
「いや、そこまでは勘弁してくれ。流石に恥ずかし……」
「美味しいわよね。ダーリン♡」
「美味しいよ、ハニー……」
そんな可愛い満面の笑みで来られたら、言わざるを得なくなるだろうよ。ほんと、卑怯だなあ。
僕は眉を下げて困惑しながら微笑んだ。背中に寒気を感じるのは、いかんせんどうにもならず、諦めるほかなかった。
「お疲れさま。今日もありがとう」
そして彼女は自分の冷蔵庫から疲れて項垂れてる俺にアップルジュースと抹茶のシュークリームを労いにもってきてくれるのだった。
そんな日が続いた2週間後のこと。
「ストーカー?」
彼女は不安そうな表情で俺に言う。
「最近誰かに付けられている気がして……」
人気女優の彼女だ。そんなやつがいてもおかしくない。パパラッチか、それとも他に不審な人物が……?
一応スクープは撮られないため、学校以外では恋人役はしていないのだが。
「ひとまず情報は少ないから、まだなんともだな……。とりあえず俺が近くにいるから、心配はするな」
「ありがとう……」
だが2、3日警戒して歩いみたが、それらしい人物は分からなかった。
きらびやかだけじゃない。俺はつくづく女優業、いや人気商売の大変さを少しだけ肌身に感じるのだった。
彼女も焦燥感と不安からかしばらく黙って、少し考え込んでいた。
「あのね、西野君。しばらく一人で帰ってみる」
「え、それは危ないぞ!」
「大丈夫よ。少し考えがあるの。だから遠くで私を見てて」
「………」
俺はその言葉を信じて、ただ頷くしかなかった。そしてしばらくの間、傍観者の気分で彼女から数百m距離を取った。しかも場所は人通りの多い渋谷の街である。
(なんでこんなところに……?これじゃあ彼女に何があっても間に合わない……)
ただ俺は彼女の周りをしっかりと観察することに力を注いだ。そしてこの人通りの多い中、周りを見ていると、どいつもこいつも怪しい人間に見えてしまう。
その時だった。彼女が少し前によろけた。まるで前から引っ張られるように。
俺はしまったと思った。ストーカーだから後ろばかり見ていた。前から来る可能性もあったのに……!
俺は急ぎ彼女のところへ行くため、人ごみの中を掻き分けて足早に向かう。
大丈夫か、大丈夫かと不安の元に向かうと、グラサンした黒服の若い女性が男を卍固めにして取り押さえていた。
「小金井!!」
「西野君!」
「だ、大丈夫か!?」
「大丈夫よ。ありがとう。マネージャーが取り押さえてくれてるわ」
「え? マネージャー?!」
グラサン黒服で背中まで伸びる綺麗な黒髪のSP感満載のこの女性はまさかのマネージャーだった。
(作戦ってこれのことだったのか……)
このストーカーは警察に連行され、俺たちは彼女のマンションへと向かう。
「山田さん、今日もありがとう」
「大丈夫よ。これもマネージャーの仕事だから」
(マネージャーって護身術もいるのか……)
そしてグラサンからでも分かる、じろっとした目をこちらに向ける。
「……」
「……」
そして少し目尻を緩め、ふっと笑ってくれる。
「西野君……だったかしら?」
「あ、はい」
「今回の恋人役の練習をしてくれてるそうで、迷惑かけるわね」
「いえ、そんな………」
「私が出来るのはスケジュールと人脈と、簡単な心のケアね。それ以外は私にはどうしても出来ないから。だからね西野君、彼女のこと、頼むわね」
「……は、はい」
そうは言うものの、俺に一体何が出来ると言うんだ……。今回のことで自信を失い、自問自答する。
「西野くーん、マンションの中に入ろうー」
「いや、すまん。小金井、俺はもう帰るよ」
「え、どうして??」
「いや、少し考えることが出来たから」
「じゃあ、うちで考えたら良いじゃん?」
「いや、家の方が落ち着くから、家で考えたい……」
「待って……!!」
「……?」
「ダメよ行っちゃ……。このままじゃあ西野君、私のそばから離れていきそう……」
「……」
「言ったじゃない西野君……。『私の友達になってくれる』って。あれは嘘なの……?」
「……」
「私といるって確かに色々と大変なの。それでも私は貴方となら……と希望を持てたの」
「……」
「貴方の悩み、私も一緒に考えたいけど、………ダメかしら?」
人と一緒にいるって本当に大変だ。一緒にいることは苦楽をともにするということだ。それでも俺は彼女といたいか、こういう時に物事の真価というのは分かる、と改めて俺は実感する。
「……分かった。それじゃあ一緒に考えてくれるか?」
そしたら彼女はパアと明るくなり、
「任せて。こう見えて私は悩みを考えるプロだから」
「あぁ、知ってるよ」
こうして俺たちの長い日々が続くのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
すみません、今回はここまでで擱筆します。
またの応援宜しくお願いします。