二人で買い物
2話目です
宜しくお願いします
「なんで私じゃないのよ!?」
小金井結……もとい夢野美鈴がテレビの中で叫んでいた。
いま俺が見ているドラマは今期流行りの『ツメ☆恋!』という少女マンガを原作にした物語である。
そして小金井が演じる夢野美鈴は主人公の幼馴染で少しお節介やきなのだが、いわゆる負けヒロインポジで、今まさに夢野が主人公にフラれているシーンだ。
「あぁ、フラれてしまった……」
原作厨じゃないので、夢野がフラれることを知らなかった俺としては少しショックだった。演技とはいえ、知り合いの悲しい顔を見るのは何か哀しいものだ。
「昨日のドラマ観たか?」
俺の親友で悪友、宮川和徳がにやにやしながら俺のところに来る。
「どのドラマだ?」
「とぼけるなよ。小金井さんの出てる『ツメ☆恋!』だよっ」
「……見た」
「小金井さん……フラれちまったな」
「その言い方じゃあ、小金井がフラれたみたいじゃないか」
「おい、そうカッカするなっ。冗談だ。小金井さんがフラれるのはドラマの中だけだよ」
「……」
そしてチャイム5分前、当の彼女が現れると、クラスの女子達が彼女を囲み、黄色い声をあげてわーわー話をする。話はドラマのことで持ちきりだ。
「この後、トク君と話した!?」
「ユウ君の裏話とかある?!」
「沙織ちゃんとは仲悪くなった!?」
小金井は笑いながら、言える範囲はドラマの裏話をクラスの女子達に説明をしていた。
少し困惑した目で彼女は俺の方をちらちらっと見るのだった。しかしここで俺が出ていっても不自然だから、俺も俺で困惑した。
「……ほう?」
「……あんだよ?」
「いんや、別に??笑」
悪友はそう呟いて、にやにやしながらここから去って行くのだった。
「……」
◇◇◇
土曜日、俺は近くのショッピングモールの入り口に立っていた。服は白のシャツに黒のアウターを着る。俺が到着して5分後に、
「お待たせ~~」
明るい声でサングラスと白の日よけ帽子を着て小金井がやって来た。
さすがは女優。声が通るものだから、30mぐらい先からでも聞こえた。道すがらの何人かが振り向くもんだから、俺は内心バレないかヒヤヒヤした。
「ごめん、待った??」
「いや、今来たとこだ」
「そう」
「で、今日はなんの用事だ?」
「そんな固いことじゃないわ。お互いのことを知っていこうという話よ。要はデートよ、デート」
「……!」
そして俺たちはショッピングモールの中をうろうろする。
「貴方はこういうところはよく来るの?」
「いや、たまに本屋に行くぐらいだ」
「へえ! どんな本読むの?」
「まあ、ラノベかなあ?」
「へえ! どんな本か気になるから、本屋さんへLet's go!」
彼女は俺の腕を取って、すたすたとここの本屋のところへ先導していく。
「わー、こんなに本が並んでいると壮観ね!」
「本屋には来ないのか?」
「役者さんのエッセイとかは読むけど、本はあまり読まないわね。あとはアマ◯ンとか、ネットでよく買うかしら」
「そうか。確かに便利だもんな」
「で、西野君が読むのはどの辺?」
「んーと、この書店ならこの辺りかな?」
「ほう、今はこういうのが流行ってるのね!」
「最近のアニメ化された作品はここら辺に山積みになってるよ」
「ほうほう。あ、これっ、名前は知ってるわ!」
「へえ、やるな。そこまで有名じゃないけど、次にアニメ化する作品だよ」
「出演者の一人がアニメが好きでね。それで聞いた名前だわ」
「へえ、誰なんだ?」
「ん? 喜多川由里ちゃんよ。あ、でもこのことは秘密ね。彼女、まだ口外してなかったから」
「おう、分かった」
「読むのはラノベだけなの?」
「あとは~、科学系の新書とか哲学?」
「へえ~? 意外と固いのも読むのね~」
「ん、まあな?」
そして俺は彼女に色々な本を紹介した。
「へえ、生物ってこう進化してるのね。こんな残念な進化もあるのね。ふふ、面白いわ」
「生物もそうだし、化学もなかなか身近なんだぞ」
「へえ~、花火も化学変化なんだ」
「そうそう。要は炎色反応だな。ナトリウムが黄色で、カリウムが赤紫みたいに」
「学校で習っただけだったけど、結構科学は身近で面白いものね」
「あぁ、科学っていうのはこれほど近くて遠い存在だからな」
「近くて遠い?」
「科学の対象って常に身近なものが対象だ。自然、空気、樹から生き物、そして金属などなどだ。しかしそれが遠く感じるのは数学、ないし実験からでないとその事象が分かり得ない」
「なるほど……」
「だから科学は身近なのに、細胞とか、窒素とかその事象が身近じゃない故に難しく感じ………。ごめん、語りすぎた」
「ううん。面白かったわ」
「…ありがとう」
それで本巡りを終えた俺たちはショッピングモールの中をぶらぶらと歩く。
そしてゲーセン、100均、そしてアパレルショップへ向かう。
「なにか服買うの?」
「いちおう安手のもの一着を買おうかと」
「いいね、そこで待ってるわ」
「待て。小金井はここに来て、まだ何も自分の買い物をしていないぞ?」
「え………私は良いわ……」
「なぜだ?」
「だって……私が買い物すると………」
「長くなるからか?」
「………」
彼女は少し寂しげにコクンと肯く。
「長いから、いつも買い物は私一人でしているの」
「……」
「だから私のことは気にせず貴方の買い物を続け………」
「俺は服を決めたら、あそこのソファで待ってるから。買ったらそこへ来てくれ」
「ダメよ。それじゃあ貴方に迷惑が………」
「さっきもどこかの服屋の前通った時にチラチラ見てたじゃないか」
「見てたんだ……」
「一向に買い物しないから不思議でな」
「………」
「それに今回のデートはお互いのことを知るためなんだろ?」
「………」
「なら、お互いの良し悪しを知らないとな。それに……」
「……?」
「前も言っただろ? 俺は暇人なんだ」
「……覚悟しててね」
「望むどころだ」
そして俺は買い物を終え、スマホをいじり始めた。
「お待たせ~~。買い物終わったわ!」
「………ふんが」
「あ、ごめん。起こしちゃった??」
俺は途中からソファの上で寝ていたようである。
「………んん、ふむ……。終わったか……?」
「う、うん。なんとか……」
「んじゃ、帰るか」
「うん……」
「で、どんな服、買ったんだ?」
「これ……」
それは白の長めのワンピースだった。ひらひらは少なめだが、とてもシンプルで綺麗だった。
「どう? 似合ってる?」
買ったワンピースに顔を隠しながら、上目づかいでこちらを見る。
彼女が着ればなんにでも似合いそうだが、そういうのは彼女は求めてないだろう。
俺はどきどきしながら目線をそらして、
「良いんじゃねえか?」
「そ……。ありがとう……」
◇◇◇
「もう夕方か……」
「ごめんなさい。昼ご飯も食べずに……!」
時間はいま午後4時を過ぎていた。あれから約2時間経っていたのか。
「大丈夫だよ。帰ったら晩ごはんがあるはずだから」
「……もし良かったら、迷惑じゃなければだけど、どこか食べに行く? 私が奢るから」
「奢るだって……?」
「ごめん……余計なことだったかしら?」
「否、厚意を無下には出来まいて。致し方なしだ。小金井、それでは早速回らないお寿司にでも参ろうか!」
結局、ステーキ屋に行きました
「飛騨牛のステーキ。うめーー!」
───
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価頂ければ励みになります。